楽しいパラレル生活 4
ドスという鈍い音がしたと思うと、
誰かが倒れる音がした。
私の求めてやまない人の顔があって、
と言っても、その顔は不破の借り物だから、
本来の彼ではないけれど、同じ顔なくせに、
性格で顔の作りが変わるようで、
不破が優しそうな顔ならば、
三郎はちょっといじわるな顔をしていた。
「三郎?」
幻覚だと思って声をかければ、幻覚から言葉が返ってきた。
「残念。鉢屋だ」
鉢屋の言葉で現実に戻る。
「なんでここに」
「ここにいるのは、鉢屋だけじゃないぞ!!」
大きな声が聞こえて声がしたほうを見れば、
6年の服である緑色をきて、袖口をめくりあげている
筋肉隆々しい男がにかっと私に笑った。
「・・・七松先輩」
男の名前を呼ぶと七松先輩は私の近くに来て、
私の視線にあわせてしゃがみこんだ。
「ずっとお前に、興味あったんだ。
は怪力らしいな。私もそうだ。
滝が止めるから、なかなか会えなかったけど、
会えて嬉しいぞ。お?なんだ。
怪我してるのか?じゃあ戦うのは・・・こいつらを消してからだな」
横からきた敵を見て、七松先輩は消えた。
敵の声だけが響く。
ぽけっとしている私の後ろに、爆音が響く。
「あれは」
「仙蔵先輩です」
私の答えに答えたのは、鋤を担ぎ上げ、いつも私に攻撃をしかけてくる男だった。
「綾部」
綾部はすごいしかめっつらだ。
「ちょっと強いからって一人で学園を守るとか
馬鹿じゃないですか?
あんたは、くのたまで女なんだから、
男の後ろで高みの見物でもしててください」
「そうそう。君は怪我人だからね。こっちだよ」
「善法寺先輩」
「薬草ありがとうね。
いつも誰がしてるのか気になってようやく
張り込み成功して、君だって分かってたんだけど、
鉢屋が凄いし、綾部が邪魔するしで」
「それ以上言ったら、保健室に穴掘りますよ」
綾部は、善法寺先輩を一睨みしてから、
私の傷をじっと見て、チッと舌打ちをして、
爆音の方へゆっくり歩いて行った。
善法寺先輩はそんな綾部を見て、
青いねぇ。とつぶやき、私の治療する手を休めず、
ことの状況を私に教える。
「他の6年生も来てるし、5年も4年もいるよ」
「なんで」
「なんでって、馬鹿だろう。
お前は化物じゃなくて、ただの人で、
支えあって生きていかなくちゃいけない生き物だからだ」
私の質問に鉢屋が答える。
「お前は生きていいんだ。一人じゃなくて皆と」
鉢屋が煙のほうへ走っていき、そのままぐらりと地面に倒れる。
「あははは、まさか同じ言葉を言われるとは。完敗だ。鉢屋。」
倒れた私に笑うと傷口が開くからやめろと言われたから、
笑うのをやめる。
空は青い。何も悪いこともなくただ青い。
三郎。
浮気はいけないと言い合ったのに、お前以外に胸がときめいてしまったよ。
おかしな話だ。私はどっちの三郎にも片思いか。
でも、私はお前が私を好きでも嫌いでも関係なく、お前を好きなようだ。
2011・9・10