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楽しいパラレル生活 2



まるで自分の屋敷というふうに
ゆっくりと堂々と歩いているの姿に、
いつもならば嫌味の一つも言うのだけれど、
私がここの鉢屋三郎ではないなんてわけわからないことを
言い出しても受け入れるその図太い神経が悔しいことに
頼りになるから、口を一文字にして
後ろを黙ってついていった。

ヒソヒソと誰かが近くで囁いている。
後ろを振り返れば、焦ったような顔をしていなくなるくのたまたち。
私は頭を捻った。
だって、 は。

「なぁ、お前くのたまに好かれてなかったけ?」

は足を止めて、私を振り返り、ふっと口端をあげた。

「そっちの世界の私はずいぶん良い世界にいたようだな」

私の世界のは、嫌味なくらいいつもくのたまを周りに付け、ちやほやされていた。喧嘩をすれば、
いつだって味方なのはで、当時私がちょっといいなと思っている子も例外ではなく、それを思い出してイライラしていたら、
目の前にクナイが飛んでいきた。

「おわぁ」

と声を出し避けると、はじっと一人の少年と対峙している。あの色、あの髪、そして、忍びの卵のくせに常時持ているのはクナイよりも鋤な外見美少女な美少年、
綾部喜八郎が立っている。
綾部は私を見て、に向ける視線よりも強い視線を投げてきた。
それは、あっちの世界でも同じだったのだけれど、
にも向ける意味が分からない。
遠くから綾部の同級生で同室者の平 滝夜叉丸が
綾部を探している声がして、
綾部はチッと舌打ちをし私たちの視界から消えた。

は綾部に嫌われているのか?」
「長年の恨みらしい、あえばこのとおり
クナイを投げられる」

今度はは振り向かなかった。の順応性が高いことに、少し驚きながら、それよりもっと綾部がを嫌いなことに驚いた。
私の世界の綾部は、1年のときにに一目惚れをして、
弟のような地位を確立しつつ、じわりじわりと、を追い込み、人の中では綾部が一番好きだと、男嫌いのに言わしめたやつだ。あと1年以内に確実に綾部はと恋人になるだろうと踏んでいる。それほど、に好きな綾部
が、まさか嫌いな世界だとは。
いいや、執着しているという点ではなんの変化もないけれど。


この世界の違うことに戸惑っていると、
私と同じ姿をしている人を見つけた。
遠くからでもわかる。私は不安を消し去り声を張り上げた。

「雷蔵!!」

止まった雷蔵の胸に私はダイブする。
雷蔵ははねのけたりせずに、私の髪を撫でた。

「どうしたの?三郎。あの暴君女が嫌いになったの?」
「うん!!」

ちょっと私に甘い雷蔵が嬉しくて、
つい本音をそのまま言ってしまった。
雷蔵が目を見開いて、私を離す。
しまった。
いつもと違うことがバレた。
疑いのまなざしを雷蔵が私に向ける。

「・・・本当に?」

なんといったらいいのか分からなくなった私が
金魚のように口をパクパクしていると、

「本当だ」

が横入りをした。
雷蔵は先程までの疑いのまなざしから、
嫌悪のまなざしでを睨んだ。

「三郎に、なにをしたの?」
「なにも?」
「なにもって、そんなわけないだろう?急にそんな別人のような」

別人の言葉にドキリとした。

「三郎は私よりも大切なものがある。
私ももっと大切なものに気づいた。満な別れだ」

雷蔵はから私の方へ顔を向け、
視線も柔らかなものに変わった。

「そうなの?」
「え、うん」
「良かった!!僕、ずっと帰ってくるの待ってたんだ」

涙を浮かべて私を抱きしめる雷蔵の向こうにがいた。
は、私たちをみてから、空をみあげていた。
何してんだ。あいつと私が言う前より。
涙を拭って私を離した雷蔵がをみやる。

「なんだ、いたの?さっさと帰ってくれない?」
「言われなくても、出ていくさ」


はやっぱり、鉄仮面の顔をしていた。
やっぱり可愛くない女だと思った。
好きなものを手放すときくらい涙を見せればいいのに。




こっちの世界に来て二週間経った。
慣れてきて周りに目を向けれるようになって
気づいた。いや、ここに来た時から気づいていた。
私とが別れることに喜んでいるものが多く、
そのほとんどが、を嫌悪していることに。

なんでだ?という好奇心が私を動かした。
あっちの世界のはどちらかというと大人数の人から好かれる人物だったから。
はあっちでもこっちでも土いじりは変わらず好きらしい。
綺麗な咲いた花々を見て、頬を土で汚していた。
ふぅと一息をついて、私を視界に捉えた。
挨拶なんて嫌いなやつにはしない。
私はただ単に疑問が晴れればいいだけだったので、
単刀直入に聞いた。


「なんでお前は嫌われているんだ?」

は、ぽたりと汗をかいているのを
手ぬぐいでぬぐってから、それで口元を押さえて、
私を見た。

「嫌われているとはちょっと違うな。
私は彼らと元が違うんだ」
「元?」
「そっちの私は言わなかったか?私は、人ではない」

意味深なことを行ってから、は消えた。
音もなく6年の年上の中在家先輩が来た。

「・・・・・・また逃げたか」

大きな図体からでたとは思えない
聞き取れないくらいの小さな声で言うと、の作った
花々たちを見て、

「綺麗だ」

とつぶやいて、私の存在などいないかのように
また足音もせずに帰っていった。











2011・8・25

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