楽しいパラレル生活 1
目が覚めたら、大嫌いな女の顔が横にあった。
「は、えぇえ」
と私・鉢屋三郎が叫んだのを
彼女は眠い目をこすりながら、おはよーと返した。
昨日まで喧嘩して顔も見たくないと言い合って、
いつも怒っているか、嫌そうな顔をする以外を
見せることなかった は、私に緩みきった顔で
微笑み、それに動揺した私は間抜けなことに、
そのまま襖を開けて、外にいき
廊下と地面の高さの差を忘れ、地面に顔を激突した。
「なるほど」
正座で二人で向かい合うのに、
私だけは正面を向いていない。
口元に手を置いていたのを離して、は私の顔を見た。
どの世界のも瞳の強さだけは変わらない。
その目が苦手な私にとっては苦痛だ。
「つまり、目の前にいる三郎は、三郎であって、
私の知っている三郎ではないということだな。
歪みというやつか」
「歪み?」
「私はこういうことがあったかもしれない私で、
三郎は、そういうことがなかった三郎。
未来というのは、小石一個で話は変わる。
私にとって私は今で、三郎が違う今だ」
わかりにくい説明よりもあることが引っかかって、私は口を尖らす。
「あのさー」
「なんだ?」
「三郎って呼ぶのやめてくれる?鳥肌が立つ。
それとここで私との関係は何だ?」
は目を見開いて、2・3秒そうしたまま固まり、
目を閉じこれまた2・3秒。それから深い溜息と、
素敵な笑顔をくれた。
この笑顔を知っている。あっちのはこんな顔をしていた。
諦めと怒りが混じり合った顔。
「違う世界の三郎・・・いや鉢屋は私が大層嫌いなようだな。
かわいそうに。言いたくないが、はっきり言おう。
お前と私は、恋人だ」
「ぎゃぁああああああああああああああ」
そんな予感がしていたが、ずっと否定しつづけていた
私は雄叫びをあげた。
だって、考えても見ろ。
目の前の は宿敵で、永遠のライバルで、犬猿の仲で、
こいつと組むぐらいなら、出発地点から動かないというばりの
お互い嫌いっぷり凄く、私の人生でこんなになにもかもダメな
女はが最大だと思っているのに、
そいつと恋人だと!!
「違う。これは嘘だ。夢だ」
「目は冷めている鉢屋。ふむ。でも、そういうことなら
しょうがない。別れよう」
「は?」
一瞬言った言葉が分からなかった。
じわりと体に言葉が染みいった。
嬉しいけどそんな簡単に?という複雑な気持ちを抱いた。
深い仲だと思っていたけれど、結構浅いようだ。
「なんだ。その顔は、不破からお前をかっぱらったのだけれど、
お前が私を好きでなければ恋人の意味がない」
彼女の文で一番引っかかったのは不破のところで、
「え、雷蔵からって、え、雷蔵私ラブ?」
との距離をかなり近くまでよってしまったが、
それほど嬉しいことだ。
最大な嫌いで苦手な女がなら。
最大な好きで得意な男は雷蔵だ。
その顔にの顔がちょっと歪んだが、いつものような
鉄仮面な顔に戻って。
「ラブだラブ。ほら、さっさと行け」
私を外に行かそうとする。
私は、の部屋から出ないでいると、不思議がっている
に私は言った。
「私、帰り道しらないんだけど」
2011・8・24