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楽しいパラレル生活 3


この世界のは私の顔を見ても嫌な顔をしないし、悪口も言わない。
おとなしく普通のだ。
そんなに最初は一方的に悪口を言っていたのだけれど、
は黙るだけだし、誰かに言っても
前の世界と違って、周りも同じようにいう。
でも、簡単に言うのは全部を遠くから見ている喋ったこともない奴らで、後ろに「そう思うぜ」がつく。
最初は仲間が多いことに喜んでいたけど、とうとう昨日悪口を言っていた奴らを殴ってしまった。
頬を抑えた奴が私を睨む。

「お前だって言ってただろう?」
「そうだ、だけどな。あいつは、何も知らないやつに悪口を言われていい奴じゃない」

それから、私は前のように軽口すら簡単に言えなくなってしまった。

人ではないと言ったは、ガラガラと荷台を引いていた。
そこには化粧が施された首フィギュアなどあって、
作法委員の誰かを貶めた残骸だと分かった。
忍術学園では普通の光景だが、その荷台に積まれている量は異常だった。
それを見ていた私に、は止まった。
の顔は無表情だったが、目だけは私を探っているようだった。
居心地が悪くて、ぶっきらぼうに言い放つ。

「なんだよ」
「いや、普通なんだなと思って」
「何がだ?」
「やっぱり、あっちの私も変わらないのか」
「もしかして、怪力のことか?別にそんなこと」
「鉢屋に嫌われているのは、
私が化物だからだと思っていたのだけれど、そうではないようだ」
「化物って大げさな。そしたら七松先輩も化け物になるだろう?」
「なんだ、あっちの私は言わなかったようだね」

は、荷台を止めて荷台の中心を持つと。

「私は、七松先輩より強いよ。ずっとずっと抑えて生きている。
ほら、これだって宙に浮くし」

腕一本で宙に浮かした。
私の驚愕な顔には満足していた。

「こんなこと出来るのが普通?違うよね。
もしこれが普通で、誰もかれも受け入れてくれたなら、
私は、両親を失わずにすんだ。兄弟を逃亡者なんてさせずにすんだ。
誰かの救いの手を握りつぶさずにすんだんだ」

の話につばをごくりと飲んだ。
あっちの世界のはそんなんじゃなかったと言いたかったが、
そういえば、は両親の話なんて出さないし、故郷の話もしない。
学校が休みなときは、住み込みの仕事をしているし、兄弟がいると言っていたが、なかなか会えないんだとも言っていた。
最後のは、噂ではなくちゃんと私の目で見た。
そのころのはまだ自身の力をコントロールすることが出来ず、
彼女の友人が攻撃を受けてるのに、激怒して力が暴発してしまい、
彼女から数b内には何もなくなった。
もちろん、我を忘れているものだから、友人を助けることも出来ずに、
その友人は、忍びをやめることになった。
は友人が忍術学園の門から出ていく姿を見ながら、
手から血が出るほど強く拳を握り締めていた。
それから、は喜怒哀楽が少なくなり、感情も人より少しばかし押さえ気味になった。


「分かっただろう?私の力は有害にしかなりえない。もう二度近づくな」

そういい吐き捨てたを私は追いかけることが出来なかった。






カポーンと鹿威しが鳴った。
一定のリズムを刻むそれに、上質な和室のなかに、老人と少女と歩行できる犬がいた。
みな、各々険しい顔をしている。
少女が口を開く。

「前の話ですが、お受けします」

老人はぴくりと目が見えないほど覆われた眉毛を
片方ぴくりと動かした。

「良いのか?」
「良いも何も適材適所な使い方だと思いますよ」

歩行できる犬・ヘムヘムは、小さくヘムヘムと鳴き、顔を伏せいた。
それ以外に方法があるのかと問おてくる少女に、
老人は答えを持たず、鹿威しが何回か鳴り、老人は頭を下げた。

「すまぬ」
「顔をあげてください。私は嬉しいのです。
私のようなものを受け入れてくれたこの学園に恩返しが出来ることを」

少女がそういって居なくなってから、老人はだれもいない部屋で

「鉢屋三郎を呼べ」










「おい。お前、なにのんきに農作業してやがるんだ」

は手を緩むことなく、もくもくと目の前の雑草を手入れしている。
「おい、無視すんな」
「ここは薬草の場所だ」
は緑色した葉っぱをじっと見ている。

「保健委員は不運でなかなかここにたどり着かないから。
時々荒地になる」

はそれ以上私に言うことはないと、黙った。
私は。

の横でしゃがんで、の真似をした。
真似は得意だ。
けど、まさか嫌いなの真似をくる日が来るとは。
ブチブチと雑草なのか、薬草なのか
あまり見分けのつかない草を引っこ抜いていく。
の横顔は、前の世界のと違って、
何を考えているか分からない。

「聞いたぞ」

は一瞬、手を止めた。

「そうか。あの人ならお前に言うと思った。せいせいしたか?」
「嫌味はお前に似合わない。・・・私のせいか?」
「馬鹿言うな。私は私の意志できめた。おまえのせいではない」

はすくりと立ち上がった。
いつの間にか終わっていた。
背を向けるに。私はなおも声をかける。

「私がいたときには断っていたって」
「・・・そこまで言ったのか」
「行くなよ。そっちのほうが嫌な気持ちだ」
「断る」
「なんでだ」

顔をあげるとと目が合った。
数日前にと会ったはずなのに、なんでか久しぶりに会ったような
奇妙な感覚を覚えた。
の普通より少し厚めの唇が形良く動く。

「確かに三郎がいたから自身が負傷する可能性が高い
危険で大きな任務は極力引き受けなかった。
でも、三郎は鉢屋ではない。
顔が同じでも、魂が同じでも、一番大事な所が違う。
お前は私が嫌いだろう?」

そうだ。私は、が嫌いだった。
会えばいつでも喧嘩ばかりした。
あいつの好きなものは嫌いだし、あいつの嫌いなものは好きだと
意地を張りすぎて、嫌いなナスが好きなものになったこともあった。
でも、あっちのは、私に一度も、嫌いかどうか尋ねなかった。
それは、嫌いかどうかなんて知ってるのと、
私は簡単に嫌いをあいつに言えたからだと思う。
私はが嫌いだ。
目の前のも好きではない。
だけど、嫌いか?と言われて嫌いと言えるほど嫌いではなかった。

「私が三郎が好きで三郎も私が好きだった。
私の三郎は消えた。ここにいるお前は鉢屋だ。
お前は自由に生きろ。私も自由に生きる」

の三郎と鉢屋の差になんだか泣きそうな私は、
人差し指を親指の爪で食い込ませて耐えた。
私を見ずに進んでいくは背中だけを見せて言う。

「それと、人を死ぬようお前はいうが、
多少の怪我をするだけで帰ってくるに決まってる。
私は諦めが悪いから、三郎をおばあちゃんになっても待ってる」







馬鹿なことをしたとは思う。
だけど、後悔はしていない。
私の怪力を受け入れて、帰る場所をくれて、私を認めてくれる人にも
出逢わせてくれた学園には感謝してもしきれない。
その学園のピンチ。
今回の任務は、学園と協力にある城の戦の増員として呼ばれた。
人数で負けてはいないが、敵は卑怯なことに
隣国に嫁にいった姫を人質にとった。
そこで誰が暴れて、敵が慌てている間に、姫を助けだそうという計画をたてた。
『誰か』が問題なのだ。
それに当てはまる人物は多かったが、遠くにいた。
一番戦に近くにいて、パフォーマンス性が強いもので、
純粋な力でねじ伏せられるのは私だった。

はぁはぁと息があがる。
腹を押さえれば、先程切られた場所から血がにじむ。
服が黒くてよかった。
赤を見てしまえば、怪我していると認識して弱くなってしまう。
私は怪力ではあったけれど、防御力はそれほど強くないし、
なによりメンタル面の問題だ。
一人でいたときには、平気だった。
コツンと木により掛かる。
どうにか煽動には成功した。

「ちょっと格好つけすぎたか」

ダイナミックな攻撃には隙が出来るのがセオリーで、
本来ならそれをカバーする人物がいるのだが、
私には誰もいない。私と一緒にいたら間違えて攻撃を受けてしまうし、
なにより、誰も私と組みたいと思わないだろう。
ざざざっと音が聞こえて、胸元からクナイを取り出した。
腹からの出血量では派手な動きはできない。
細かく、隠れて、小規模の動きで。
ざっと木が揺れ、葉が数枚落ちた。
その一枚がくるくると舞いながら落ちる。
目を瞑りすぅと息を吸い、葉が落ちたのと同時に目を開く。
刀を持った兵の首を一文字に横にひく。
返り血が私にかかる。
ざっざという足音が増えた。

「まだ続くのか」

顔にかかった血を拭いながら、空を見た。
雨が降っていると思えば、私の汗だった。
息を整えようと思っても、なかなか整えれない。
足音が近くなる。男が私と目があい、指さした。
動こうと足を動かそうとしたが、力が入らない。
さっきので最後の力だったらしい。
力の配分を間違えたな。
と、苦笑が浮かぶ。
男は握手が出来る距離まで近くなり、私を見て震える刀を振り上げた。

空が刀に半分に切られている。
視界いっぱいの景色はそれだけのはずなのに、

―――私は、が人の話を聞かなくて、KYで、鈍感で、
頑固で、女らしさが1つもなくても、怪力でも、好きだよ。

今思うと、三郎は本当に私のことが好きだったのだろうか。
そこまで言わなくてもといじけてしまうほどに並べ立てられた
短所の項目入の告白。
好意的な部分1つもない。
でも、個人的な短所に同じように入れてくれた怪力の文字。
短所の性格と同じくらいなことだって、伝えようとしてそうなったんだろう。
そうであってほしい。

ああ、最後に三郎に会いたかったな。










2011・9・3
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