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悲しい幸福論者2



「超幸運少女と付き合っているんだってな。どうだ?幸運になったか?」

小平太に言われた言葉に、一瞬時が止まった。

「・・・なんだその噂」
「違うのか?で、幸運になったか?」
「現在不運な友達がどこにもいなくて、幻覚だと言われ始めているところだ」
「ええ、ここまで会えないとなると脳内友達は、
立派に旅立っていったんじゃないですか?良かったですね」

俺と小平太の会話に、異質な声が交じる。
俺達よりも丸みが帯びた高い声に、後ろを振り返る前に、
小平太が指をさして叫ぶ。

「超幸運少女!!」

小平太の大声を直で耳に聞いた俺は、くわんくわんとく頭を押さえ後ろを向けば、
ぼけーっとした顔をしている超幸運少女と言われるくのたまが立っていた。
彼女は、指さされたことも、大声で叫ばれたこともどうでもいいようで、
俺の裾を引いた。

「留三郎さん。ご飯」
「俺は、ご飯じゃない」

伊作のための賭け事は失敗だった。
ただ彼女が本当に超幸運少女だと知らしめただけで、
俺はあと何年間かこの少女にご飯を奢らなくてはいけなくなった。
そういえば、とふと思ったことは、少女自身の言葉でかき消される。

「今から行けば、おばちゃんスペシャル、留三郎さんも、食べれますよ」
「よし、行くか」
「ちょっと待て、私も行く」



三人で、食堂に行けば、小平太が愚痴愚痴と俺達の膳を見ながら、
文句を言っている。

「う〜、なぜ、私だけ食べられないんだ」
「うめえなこれ、初めて食べたぜ」

初めてみたいくつもの種類が入っている小鉢の膳を、
小平太からの攻撃を防ぎながら、これはこれで幸運かもしれないと
嬉しそうに食べていたら、超幸運少女は、箸にイチゴを掴んでいた。

「あ、イチゴ入ってた」

そう言われて、自分の膳を見れば。

「な、なに・・・俺にはない」
「あ、じゃぁ、ラッキー」

と、前にも聞いた台詞を言いながら、パクリとイチゴを口に含んだ。



「はい、じゃぁ、ここに立ってて、動かないでください」
「このやりとりも見慣れたな。もう諦めたらどうだ。綾部」

今日も綾部の指示通りに、立っている超幸運少女を見ながら、
綾部に言ったが、綾部は根本俺を無視している。

「はい、どー「いけいけドンドーン」」
「あ、落ちた」

綾部は、走っていた小平太に引かれて穴の中に落ちた。
超幸運少女と一緒にいる毎日はこんなかんじに続き
一週間だ。


「うぅぅぅ、伊作ぅぅぅ」
「留三郎くん、私もそろそろ飽きてきたのだけれど、
えーと、その伊作くんとやらに会いたいと思えばいいんですよね。
よし、来て下さい。伊作くん」

そういって、少女が手をばっとやる気なさ気にあげれば。

「うわぁぁぁ、ようやく帰ってこれた」

地面から伊作が出てきた。

「・・・ここまで来ると、お前は、運命を操ってるんじゃないかとまで思えてくる」
「奇遇ですね。私もいま薄ら寒いです」

二人で、青い顔をしていれば、空気を読めない伊作が、
あーあーと言いながら、俺に詰め寄る。

「あ、あれ?な、なんでここに彼女がいるの?どういうこと留さん」
「お前が、会いたいって言ってただろうが、よし触れ。これで、留年は免れる」

そういって、超幸運少女に肩を持って、触るように言えば、
少女は、嫌そうな顔をした。

「いえ、だから触ってもそんな効果ないんで。ようは実力じゃないですか。
どうにか自分で頑張ってください。出会えたので、帰ります。
ああ、明日も奢ってくださいね。留三郎さん」

そういって、帰ろうとするのを少女を止めたのは俺ではなく。
伊作だった。

「待って!!」

半泣きな伊作に、少女は、ふぅとため息を吐くと、
伸ばした手に手を重ねて、一回ぎゅっと握り、手を離した。

「はい、触った。これでいいでしょう?」

なぜか俺に言う。俺は、満足だ。ありがとよ。と
言葉をかけていた時で、二人共、
伊作の様子なんて気にかけていなかったから、
伊作の言葉、あのと言われた言葉の続きなんて理解できなかった。

「あの、その好きです」

二人で伊作をみて、止まった。
最初に叫んだのは俺で。

「ええええええええ、なんでぇ、お前、そんなこと一言も言ってなかっただろうが」
「・・・友情が幻覚でしたね」
と、告白された本人は、つとめて冷静だ。

「ちょ、え、なんで」
「なんか会いたいと思っているうちに?」

それに、触られて確信したっていうか?と顔を染める伊作に、
俺はパクパクときんぎょのように口を開けた。

「あー。伊作さん?それって錯覚なんで、違いますよ。
はい、じゃぁ、終りー。留三郎さん、あとはよろしく」

と、そそくさと帰ろうとする少女の肩を掴む。
驚いている場合ではない。
ここで、答えを少女から得られなかったら、伊作は少女を探し、また遭難する。
少女が、会いたいと思わない限り。
今度は、一週間ではすまないだろう。
振るにしても、なににしてもちゃんと答えを出さないと、伊作は諦めない。
そして、その伊作を探す俺の身にもなってくれ。
そういった利己的考えで、俺は少女を止めた。
少女は、嫌そうな顔をした。
ここで、俺はOKと言うことがないだろうと理解したが、
横目で見れば伊作は理解しない。ただ顔を染めている。

「いや、せめて答えをくれてやってくれ」

そういえば、少女は俺から伊作に目をうつし、
一週間一緒にいたけれど、見たことのない表情で、
綾部のような無表情でいて、それ以上に冷たい表情で、伊作に言った。

「私は、私を好きだという人は嫌いです」

その言葉を聞きながら、俺は、前に思ったことを思い出した。
それは、超幸運少女の名前がなんであるかという
単純でいて、とても酷い内容だった。








2010・11・9


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