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悲しい幸福論者1






私の呼び名は、「超幸運少女」
本来の名前を覚えている人は、先生でも怪しいぐらいです。
呼び名の通り私は、幸運です。
物を拾えば、お金持ちのおじさんで、物をくれたり、奢られたり、
上を見れば、次回のテストの答案が落ちてきたり、
目を瞑って競争区域に行っても、穴に落ちたりなんてしません。
くじびき、あみだ、ジャンケンに負けたことなんてないんです。
そんな私に、願掛けをされていく忍たま。くのたま。
ここは、忍術学園。実習で、運が悪ければ死んでしまうので、
私の幸運にあやかろうと、拝まれたり、触られたり、
物を盗られたり、髪を切られたこともありました。
でも、幸運なのは、私なので、無意味なんです。

「だからあなた・・・えーと、伊作さんでしたっけ?
その友達に言ってくれません?
私だけが幸運なので、あなたが幸運になることはないのですと。
それと、頭を上げてくれませんか」

目の前には、くのたまに、ちょっと目がきついけど、イケメンだと称される
6年は組の食満留三郎先輩が、土下座をしてました。
イケメンも、顔が見えなければ、ただの人ですね。

「いや、お前が伊作にあってくれると言ってくれるまで、俺は頭をあげん」

根性がありそうなので、私は

「そうですか。じゃぁ、そのままで」

放置を選ぶと、足を掴まれました。凄い力なので、離れそうもありません。
私がため息を吐き、
頼まれるというより、眉間にしわを寄せて脅迫に近い顔で、彼は言いました。

「伊作に会ってくれ」

「会ってどうするんですか」

「伊作は稀にみる不運で、おまえを見るたびに、拝み倒しているんだ。
次回の実習に留年がかかっている。本物に触れたら、幸運になるかもしれないと
伊作が頑張ってお前に会おうとしているんだが、会う前に、不運な事件が重なって」

沈黙。そういえば、噂で凄い不運な人がいることを聞いていた気がします。
たしか、カワイイ系のイケメンで、優しくて騙されやすい不運な人と。
最後ので、全部台無しな人と。

「なるほど。たしかに、祈願はかけられますけど、
最初に言ったように私に会っても、幸運にはなりませんよ」

「切羽詰っているんだ」

凄い眼光です。熊でも倒すような眼つきです。
ここで、振り払っても、彼は何度も立ち向かってくるので、
前回それで、今回これなら、次回どうなるのか分からないので、
私は、ため息を飲み込みました。

「なるほど。じゃぁ、その人に会えば、
この理不尽なあなたの行動で、くのたまから睨まれている私を開放してくれると
でも、それって割りに合わないじゃないですか」

「なんでも奢ろう」

「では、行きましょうか」

そういうことで、私と食満先輩は、伊作さんとやらに会いに行きました。

「・・・で、夜になりましたけど、伊作さんはどこですか。留三郎くん」

食満先輩と呼んでましたが、ほぼ一日、一緒にいて、話していくうちに、
先輩と敬愛の言葉は不必要だと感じたので、言うのを止めました。
苗字で呼んでいたのだけれど、食満さんと呼ぶたびに、
どこかから視線が強くなるので、もう一層名前で呼んでやれと思ったのです。
何事も、中途半端だからいけないのです。

「ああ、ここまで見つからないとは、もう、長屋に泊まってくれ」

そして、この人はもうちょっと中途半端になったほうがいいのです。
呆れました。

「変な噂がバンバン立つんですけど」

そういって帰ろうとした私は、乙女として正しいのですが、

「しょうがない。俺とトランプ勝負だ。勝ったほうが、奢りで」

奢りにぴくっと反応した私は、浅ましいのでしょう。
ですが、奢りは、素敵なことです。お金が浮きますから。
私は、襖にかけた手を離して、

「いいですよ。じゃぁ、一回勝つごとに、食堂奢りで」

と嫌な笑みを浮かべました。

はい、あがりと、同じカードを捨てれば、
ババを持ったまま震えている留三郎くん。

「留三郎くん。三年分溜まりましたよ。
あなたこれ、卒業後も奢ってくれるんですか?」

「な、なぜ勝てない。いや、もうひと勝負だ」

「留三郎くん。私眠くなっちゃったんですけど」

外を見れば、もう夜があけてます。

「勝ち逃げは許さん。それ、お前の番だ」

いつの間にか配られているカードを手に持ち、
カードを引くときに、留三郎くんに言いました。

「留三郎くん。あなた、ババを持っているカードに手を置くと、
バレないように、無表情になるの、知ってます?」

「な、なんてことだ」

「はい、あがり。もう、眠いんで。これで寝ますから」

そういって、留三郎くんのではない布団に入って、睡眠をむさぼりました。
そんな私は、乙女失格でしょう。でも、この人は、
そんなことをしない人だと一日で嫌ほど知ったので、構わないのです。

「じゃぁ、もう、お昼だし、帰るのもなんなんで、奢ってください」

目が覚めて、私が言った言葉に、同じように起きたばかりの留三郎くんは、
くそっと一回頭をぐしゃぐしゃにしてから。

「・・・・・・俺も男だ。二言はない!!」


いえ、男でなくてもあっても、約束を破るのはいけないのですよ。
と、言いたくなりましたが、奢られるので黙りました。
食堂にて、奢りのご飯は美味しいですと思っていれば、
横からゴツゴツした無数の手が伸びて、ベタベタ触られました。

「超幸運少女だ!!触りまくれ」

鬼気迫る顔で、男たちが寄ってきます。

「・・・留三郎くん。奢れない分は、守り代で構いませんよ。
この生物たちから私を守ってください」

そういえば、留三郎くんは、私から忍たまを離れさせました。
6年生が、切羽詰っているというのは本当なのですね。
でも、実力でどうにかしてほしいものです。
ようやく、静かにご飯を食べれるようになって、
私の横で同じようにご飯を食べている留三郎くんに言いました。

「あれですね。伊作さんとやらは、あなたの妄想な友達ってことはないですよね?
丸一日ずっとあなたといましたけど、会えないってなんでしょうか。
あえて、避けているとしか考えられないんですけど」

「伊作はいるし、避けてもない。お前と連れてくるって約束したんだ」

「そうですか。あ、栗入ってた」

「栗?・・・・・・俺のは入ってないぞ?」

「あ、じゃ、ラッキー」

そういって、茶碗蒸しを咀嚼する私に、
考え込んでいる留三郎くん。ご飯が終り、腹ごなしにそこらへんを歩いて、
伊作さんがいる所を歩いていますと。

「よし、伊作に会いたいと願ってくれ」

「え、私、伊作さんって知らないんですけど」

重い沈黙がおりました。

「・・・保健委員長だ。保健室を使ったことがあるなら知ってるだろう?」

「いえ、使ったことないですよ。あんまり怪我しないし、
しても、誰かが助けてくれるんで、大事になることないんですよね」

「・・・・・・そうか」

また、沈黙。
そして、ムズリと嫌な予感して、小さく手を上げました。

もしかして、これは伊作さんとやらに会うまで、あなたと行動するんですか?
と、言う前に、

「こんにちわ。ここに立ってください」

と、穴掘り小僧と名高い綾部くんが、目の前に立っていました。
相変わらず、脈絡の無い言葉に、はいと、指さしている場所に立ちますと、
後ろから、

「はい、どーん」

と、言ってました。
私はたまたま落ちていたお金を拾っていたので、
綾部くんが穴に落ちていく足しか見えませんでした。

「また、落ちていきましたね。綾部くん」

「どういうことだ今の」

「穴に落ちないのが気にくわないらしくて、
ここに立ってくださいと言われること数カ月。彼が穴に落ちてます。
自分の穴に落ちるなんて、墓穴ってやつですかね」

「おまえ凄いな」

素直に、凄いと感動されている視線が、むずがゆくて、私は話を変えました。

「一週間で会えなかったら、伊作さんを、幻覚って言っていいですか?」

「ああ、それまで、俺の傍にいてくれ」

一瞬頭がスパークしそうになりましたけど、私の様子に
頭を傾けている留三郎さん。なるほど。

「・・・・・・・なるほど、留三郎くんは、天然ですね」

天然ジゴロ。のジゴロを隠していうと、

「初めて言われた」

と、驚いた顔をしてました。なんで天然と聞いてきましたので。

「いえ、授業もあるのに、どうするのかなと思いましてね。ただそれだけですよ」

と返せば、お前賢いな。と変に理解している留三郎くんに、「はは」と笑いました。
私は、綾部くんほどではないにしろ、感情の起伏が少ないので、
久しぶりに笑った私に、

「お前、笑っていたほうがいいぞ」

と、留三郎くんは、余計な言葉をくれました。









2010・10・6



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