bad week2
「Hello!
You are very lucky Cinderella.
I will present you time for one week by me. 」
それは、それは、幸せの招待状。
「It is time of the selection.
Do it become Cinderella?
Yes.?No.? 」
彼女は嬉々として、YESのボタンを押した。
だって、この物語は、シンデレラストーリー。
夢から覚めれば全ておしまい。永遠なんて続かない。
一週間だけの、あなたの恋人。
もちろん、相手がいようがいまいが関係ない。
あなたは、ただ幸せを得る。
そんなお話。
押した彼女は、その場について、まず、ちゃんと報告をした。
今から自分のことを好きになる王子様のもともとのプリンセスに。
シンデレラガールは、少々ズル賢い少女だった。
「一週間だけお借りします」
言われた人物は、目の前のとりわけ普通な少女に、目を白黒させたけれど、
彼女の言っていることがその後に分かった。
誰も傷つかず、誰も死なない物語は、例外を作らずに
平穏な一週間を終えた。
そう、一週間は。
彼女がいなくなってから、もう一週間後。
物語は、意外な方向へ動いた。
「初め」
教師の言葉に、対峙しあっている男たちは、恋仲である。
一人は、やる気満々に、型を組み、もう一人はだらんと力を抜いた形でいた。
その姿に、一人潮江文次郎は吠えた。
「早く組め」
ゆらゆらとただようような動きをして、しかし、
目だけはしっかりと文次郎を見つめている男に、周りがざわめいた。
「文次郎」
「なんだ」
「私から言ったんだった」
「は?」
「私からお前が好きだと言ったんだったな」
「お、おまえ、なんでこんな時に」
目の前の男に羞恥はないのかと、赤くなった顔で文次郎は思ったけれど、
同級生の男は、普通よりも白い肌を変えずに、そのまま話を続けた。
「お前が押しに弱いことは皆、周知の事実だ」
「お、おい、どうしたんだ」
ゆらゆらと揺れている様が徐々に気味が悪くなって文次郎は聞いた。
男は、ようやくピタリと動きを止めた。しかし目だけは文次郎を見ていた。
「好き合っているということは初体験だったから、
これがいいのか分からなかった。だけど、確信した」
一回の瞬きは、普通よりも長かったけれど、違和感のない長さだった。
しかし、文次郎には、異常にしか見えなかった。
「これは、違うのだろうと」
何を言っているのか理解が出来ない。
いいや、目の前の男は、最初から思考が人と違うと文次郎は思った。
しかし、自分たちは恋仲になりお互いをよく知り得たはずだ。
なのに、一週間前から、男は変な行動ばかり、そして今日は特に。
組み手の実習中に、男は恥ずかしげも無く愛を言い、間違えを語る。
文次郎は、これが現実なのかよく分からなくなった。
「私がお前に抱いている思いと、お前が私に抱いている思いは、違いがある。
だから、なんだろうな。戻ろうというか、終わろうというか」
「何が言いたい」
ひやりとしか感覚を覚える。
目の前の男は、確かに文次郎を見ていた。
見ていたのに、どこか遠い。男は、淡々と感情を込めずに、平坦な声で語る。
男が教師になれば、みな寝てしまいそうだけれど、
男の話はすべて突拍子もなく、陥落が激しいので、
聞いている方は面白いかも知れない。
変な方向へ考えが進んだ文次郎は、どこか現実逃避をしていた。
「恋仲であることをやめたい。それだけだ」
男は、常々死んだ魚のような瞳をしていて、
飄々として猫のような気まぐれさを持っていた。
急に、好きかもしれないと言われ、
あ、そうか?俺も嫌いじゃない。と、友人の意味でとってしまった文次郎に、
接吻をかますような飛び抜けた思考を持っていた。
「先生。私の負けです」
そう言って、教師に頭を下げて、文次郎から背中を向ける男に、
文次郎は何も言えなかった。
いいや、男は、何も言わせなかった。
「いいのか」
立花仙蔵が、呆然と立ち尽くしている文次郎に尋ねた。
男は、いつだって突然だった。
突然好きだと言って、突然別れようといつもの調子で言われただけで
自分はどうすることも出来ない。
いつだって、振り回されているのは周りだけだけだと文次郎が思っていると、
近づいてきた人物が増えていた。
善法寺伊作は、文次郎の方を見ずに、優しい顔にハの字の眉毛をたたえたまま
話しかけてくる。
「彼は、悩んでいたんだよ。ずっとね。
文次郎が好きだって分かっていた時だって、悩んでいたんだよ。
男だとか、友人だとか、それを超えてしまったあとどうしようとかね。
飄々として顔に出さなくけど、いつだって考え事ばかりしているような男だ。
彼女が来て、あの一週間。君らをずっと見ていた。
細部にいたるまでしっかり見ていた」
一週間の記憶がとぼしい文次郎には何のことか分からなかったけれど、
ああ、と横の仙蔵が頷いていた。
「それから、一週間彼女と同じことをしていたけれど、やっぱり違うんだってさ」
その後の一週間。確かに男は変だった。これを食べろとか、
頭をなでろとか、笑えだとか、好きな場所へ行こうとか、
した後に、何かに抜け落ちたような顔をしていることも分かっていた。
それから、思案顔でいつもどこかへ行って、そんなことを繰り返して、
今日に至った。
「やっぱり、君の好きは友情でしかないってさ。
あの子のときと、自分のときの違いをまじまじと見せつけられたって、
そう言って笑ってたよ。だから、別れるってさ。
突拍子も無いけど、彼も考えているんだよ。
・・・まぁ、行動が速すぎるところがたまに傷だけど」
なんでそんなことを聞かされなくてはいけないのか。
伊作の情報よりも、自分の情報の方が男の情報をたくさん持っていると
言いたくなったけれど、文次郎は黙った。
急すぎて頭がついていかない。
食堂へ行けば男がいた。
さっきのはなんだったんだ?と問い詰めようと、文次郎が、
男の前の席に座れば、
男は、魚の骨を、丁寧に丁寧に、一本一本取っていた。
それは、いつも文次郎に綺麗に取ってとせがんでいたことだった。
しかし、目の前でご飯を食べている男は、相変わらず目が死んでいる。
醤油をたらして、すべて完璧に調和されたと言わんばかりの顔で、
男はご飯の入った茶碗を持ち、もう一度のいただきますをした。
それは、とてもうれしそうな顔だったので、
文次郎は追求することをやめて、いただきますと口にした。
それから一週間して、文次郎はようやく、彼と自分が別れたことを知った。
いいや、情報を知ってはいても理解していなかったのだから、
理解したが正しい。発端はとても簡単なものだった。
男は、ただ自然にそこらへんで、寝ていた。
その横は誰もいないことや、己だけのスペースだった。
なぜなら、男曰く、
『昼寝って、お日様に、抱かれているような気分なんだ。
それはそれは幸せだから、そこにいるのは、自分か、
それか自分が好いた人ぐらいが、丁度いい分け前なんだよ』
と、よく分からない理屈を言っていた。
しかしその理屈が、いかにワガママで筋が通っていなくても、
彼にとっては絶対なのだ。
だから彼は、たとえ友でも、信用している相手でも、
昼寝の時は、誰も近寄らせず、
近寄ったら、目を開けて、昼寝をやめてしまう。
しかし、その彼が寝ていて、隣に誰かいるということは、そういうことなのだろう。
文次郎は、小平太のボールを打つこともやめて、そのままつたっていた。
なんで?疑問は波紋のように体に広がっていく。
「どうしたんだ?文次郎怖い顔をして」
「俺はそんな顔をしていたか?」
「ああ、なんだか、泣きたいような怒りたいような変な顔だ」
そうか。と言うと、文次郎は、その場を去った。
後ろから小平太の声がしたが、聞こえないふりをして、そのまま走り去った。
あれ以上その現場を、見ていたくなかった。
裏裏山に来て、いつもの練習場。
クナイの跡がいくつも付いている木の下で、文次郎は、
そのままそこに座りなぜ、と、自問した。
なぜ、あの時すぐに別れる理由を追求しなかったのか。
なぜ。
答えは出ている。
何も変わらなかったからだ。自分と男が付き合っていたときと、
今が大差なくて、男が言った違うとはそういうことだったのだろう。
だったら、なぜ。
文次郎の問いが、相手を変えて問う。
なぜ、お前は、こんなことを分からせてくれるんだ。
彼ののんびりとした、静かに草の音を聞けるような空間は嫌いではなかった。
温かい日差しの中で、まどろんでいる男の顔も嫌いじゃなかった。
その横にいられるのは、自分だけだと優越感に浸っていた。
男の手が、人よりも少しだけ冷たいこと。
朝の寝言がとても面白いこと。髪型はいつも寝癖だということ。
笑うと、少しだけ幼くなること。文次郎と呼ぶ声が実はとても好きだということ。
任務に行き終わった後は少しだけ、甘える。
それ全部、もう俺にしてくれないのだな。
そう思うと胸に空白を感じた。
それ全部、違う奴にするのか?
そう思うと胸が傷んだ。
一週間、その間は長すぎて。一週間、その間は短すぎて。
やっとお前の言っていた違うが分かった。
お前はいつでも俺に何かいいたそうで、求めてくれなんて言ってたけど
バカモン。勘違いしいが。
俺はいつだって、お前の背中を追いかけてばかりだ。
いつだって、お前の言う速度が速すぎて、だから、
後から気づくんだ。
お前の感じた一週間。その後、俺が感じた一週間。
ああ。
今ならお前と同じ気持ちだ。
2010・06・27
主人公が好き(恋愛)と文次郎の好き(友情)が違くて、
ずっと焦れったい思いをいだいているところに、シンデレラガール投入。
で、その時の文次郎の姿をみて、試したけれど、やっぱり、
友情か。と認めて、別れる。
だけど、その一週間後に、主人公が違うやつと恋愛におっこちそうなのをみて、
文次郎が、好き(恋愛)だったことに気づく話。