ウザイ人2
授業が終り、俺・竹谷 八左ヱ門は、
たちあがりどこか行こうとする、やつを捕まえた。
「おい、三郎。さっきも言ったがな、凛子さんがお前と喋りたいって」
三回目だ。今日この台詞。
そう言おうと思ったが、鉢屋 三郎は、
色とりどりの帯紐を握りしめてぶつぶつと呟いている。
「それより、この帯紐どう思う?やっぱりには、藍かな。
藍・・あい・・愛よし、こういう下りにしよう。じゃぁ、行ってくるな。ハチ」
「ああ・・・ってちょっと待て!!」
「なんだ?私のLovetimeは無限だけど、
今日という一日の中では、有限なんだぞ?なんせ、24時間しかない。
私はと出会って、授業とか、長屋の邪魔な壁とかを、
ぶち壊したくてしょうがないんだ。分かるよな?この気持ち」
「・・・・・あー」
頭がいたい。こんなの俺の知っている三郎じゃない。
雷蔵が朔ちゃんと付き合って、それにともない双子のと付き合い始めて、
いや、その頃はまだ色男モテ男最低男だったはずだ。
今のようなこんなデレデレのダルダルの甘甘ではなかった。
なんでこうなったのか。
そして一番嫌なのは、それを受け入れ始めている俺。
毎日毎日こうだから、これが元々の三郎だった気がし始めてる。
いや、気をしっかりもて、俺。
三郎は、
「ごめん。飽きちゃった」
「騙す?なにいってんの。そっちから好きだって言ったじゃないか。
私は一度だって好きなんて言わなかったよ?」
「遊びだって最初から言ったでしょう?約束を破ったのはそっちじゃない」
・・・うん。最悪だな。三郎。
なんか、こっちの三郎のほうがいい気がしていた。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、雷蔵が、三郎の肩を叩く。
「三郎。凛子さんがお前も連れて、お茶でもどうかって」
「えーお茶なら、と飲む。
いや・・・一個の茶碗を、二人で飲むってどうだろう。
いい考えだ私、茶碗を取りに行く」
「うん。行こうか」
和やかに、話がまとまった。
おい、俺と雷蔵の差が酷いぞ。ちょっと、俺を置いていくな。
と、足を進めたら、急に三郎が止まった。
おかげで、俺は驚いて、前につんのめりそうになった。
その姿を雷蔵がなにしてんの?という白い視線で見てくる。
いや、三郎が悪いって。との言葉に、三郎は思いっきり言葉をかぶせてきた。
「ちょっと待って、まずのとこ行っていい?」
「なんで?」
「行っていいか聞く」
「え、彼女にそれ聞くの?」
「うん」
三郎と雷蔵の会話に、雷蔵が俺をみた。
気持ちは同じらしい。
「馬鹿だろう」
「馬鹿だね」
なんで彼女に、女のところへ行ってきます。見送ってね(ハート)
なんてわざわざ怒られにいくようなことをいいにいくのか。
俺には理解出来ないと頭をかしげていれば、三郎が答えた。
「ちょっと嫉妬してもらいたい。
嫉妬するとか、もう想像だけで、鼻血出るし、絶対可愛い」
ふんふんと鼻息を荒くし、
頬を染めて恍惚の表情をしている三郎に、
馬鹿を通り越して、なんだか尊敬した。
そこまで人を好きになれて良かったなと子供の成長を見守る
母の気持ちを味わってしまっていたので、
色々間違っているところに突っ込むことすらせず、そのままくのたま長屋まで、
付いていった。
別に、どうなるかの興味本位が勝ったわけではない。
断じて違う。
三郎が遠慮なしに、凄い音をたてて襖を開けた。
おい、忍び目指しているのに、そんなわざわざ存在アピールかよ。
と、思ったが、双子の姉妹の姉・は、
こっちのほうを見もしない。
「!!私、凛子さんのところへ行くんだ」
ド直球に言った言葉に、は、書物から目を離すことはない。
「へー」
「凛子さんの所へいくんだ」
「二回聞いた」
「解答を求む」
「行ってらっしゃい」
そういって、は、立ち上がり、襖を閉めた。
音はないが、ピッシャンという音が聞こえた気がした。
・・・・・・WAO。
「三郎。お前、嫌われてないか?」
プルプル震えている三郎に、ひそっと耳打ちをすれば、
ガバっと頭をあげて、そのまま俺の手を握りしめた。
雷蔵は、ちょっと一歩下がって退避していた。
雷蔵、酷い。
「見たか、ハチ。。
超嫉妬してくれた。私の顔見なかったし、
行ってらっしゃいの後ろにハートがついてたし、
ああ、すっげ、やっぱ、私お茶碗でラブラブ作戦やめる。
今から、慰めに行かなくちゃ!!」
つらつら流れてくるかなり勘違いな発言に、俺は何もいうことが出来ず。
「!!愛してる。私にはだけだ」
「行ってこいって言っただろうがァァァ」
その言葉と共に、ガッと完全に肉が打ち付けられるような音が響いた。
・・・・・・ともかく、俺の凛子さんの元へ、三郎を届ける任務は失敗した。
恋は盲目と言うが、三郎のは、恋が迷走と言ったところだろう。
2011・2・5