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陥落者1



家が隣だから、親が仲が良かったから、男と女だったから、
私たちは婚約者になりました。
ただそれだけの仲だったのです。

小さなころ、彼しか知らなかった私にはこの学園は大きすぎました。
大きくて大きくてしょうがなかったから、
小さな手は同じく小さな手を掴んだのです。
しかし、二年経てば、いつしか彼の手も大きくなり、
私以外の手を掴みはじめました。
私は対等でありたかったから、私も違う人の手を掴みました。
名前をつけるならばその行為は、友情であったのです。
でも、また月日が経ち。彼はいつしか私の手を離しました。
もう大丈夫だからと行ってこちらを見なくなりました。
もうとはなんでしょうか。
私は、あなたと対等でありたいから、手を取ったのです。
あなたが優秀ならば私も優秀であるべきとクナイを握ったのです。
三禁とほざいているバカがいて、私は鼻で笑うのです。
だったら私の努力の源は、なんなんだろう。とね。
そもそもお前はどこから生まれたんだ。とね。

すでに歪んでいるのがバレていたのでしょうか。
彼は私以外の小さな手を取りました。
とても可愛らしく、優しく、そして普通な子でした。
なにがいいのだろうと、観察しましたが、最後まで分かりませんでした。
私は、クナイを今日もふるいます。
彼と対等でありたいから。
もう、手を繋いでくれなくても、同じ視線でありたかったから。

愛愛愛愛愛愛愛愛

そんな中、そんな言葉が私の周りを埋め尽くしていきます。
友人が私に言う愛。
狙ったかのように、私の友人だけが、愛を得ていきました。
友情すら私の手を離れて、
私に残ったのは、クナイだけだったので、もっと以前よりふるいはじめました。

「マジ、あいつ女じゃねー」

私に倒された男が呟きました。
負け犬の遠吠えと言ってやろうと思いましたが、彼等の冷たい視線に、
彼の視線も混じっていたので、私は、地面を音もなく駆けました。

私は、あなたと対等でいたかったから、クナイを毎日、
雨の日も、風の日も、照りつける太陽の日も、雪の日も、ふるっていたのに。

手はボロボロになっていました。
体もボロボロになっていました。
でも、それ以上に、心がボロボロになっていました。

彼女たちが歌う愛の中の運命が本当にあるなら、誰か私を助けてください。
そう思っていれば、光が溢れました。
もしかしてと、立ち上がった私はその光を掴めば、それは人でした。
人の形をしたそれは、天女と呼ばれました。
みなが、愛し、愛されたいと思われる人物のようで、
ひよこのように、拾った私に懐きました。

小さくて綺麗な手は何も出来ないから、
私のボロボロでごつい手を差し出しました。
とても庇護欲を誘う相手でした。
でも、男も倒す女と何も出来ない女は比較対象になってしまうようで、
私が男女やら、怪物やら、ゴリラやら、暴君の女versionやら、
年頃の女としては耐え難い名前が増えていきました。
思えば、それは彼女に一番懐かれているという彼等の嫉妬に違いなかったのです。
そのたびに、彼女は、私の手を握って、

ちゃんは、ちゃんと女の子だもん」

と目に涙をためて言うのです。
私は私自身のために、何十、何百も泣きました。
だから、貯蓄がもうなくて、
この年齢になれば私は自分のために泣くことすらできなくなってしまったのです。
だから、私のために泣いてくれる誰かを大切と言わずなんというのでしょうか。
私は、あんなに好きだった元婚約者を忘れました。
あんなに大事だった友達も忘れました。

彼女がいれば、いいんです。
私の手は彼女のためだけにあるのです。

だから、そんな彼等がこちらを見て、
唇を噛み締めていることすら気づきもしなかったのです。

ある日、三日かかる任務が入りました。
ちょっと行ってくると挨拶に行くと、
最初はいかないでと駄々をこねましたが、
最後には、絶対帰ってきてよと、指きりげんまんをしました。
指切った絶対だからね、ちゃんが死んじゃったら、私も死んじゃうからね?
なんて、素敵なことをいってくれるので、私は彼女の柔らかな髪をなでました。
彼女は、猫のように目を細め、気持よさそうでしたが、
私のほうが年上なんだよ!!私に撫でさせろと私の髪を撫でました。
撫でられることが数年ぶりだったので、久しぶりに、頬が赤くなりました。
今思えば、幸せな時間なんてものは短いのだから、
任務なんて放っておけばよかったんです。
私の存在は彼女のためだけだったのに、
学園に帰ると、彼女の姿がありませんでした。
それどころか、彼女のことをあんなに好きだと大事だと毎日
いいあっていた人ですら、淡白な返事しか帰ってきません。

「なにが」
「彼女、敵の間者だったんだよ」

その声に後ろを振り向くと、私の元婚約者・鉢屋三郎がいました。
本当の彼の顔を知っている私としては、
彼の今の不破の顔は、異物を飲み込んだような気がしていたのですが、
何年もそうなので、慣れてしまったものです。
いや、そんなことはどうでもいいことなんです。

「間者?」
「そう、お前がいない間を狙って、生徒を殺そうとした。
それに、潮江先輩が密書を発見して、学園も彼女を敵と認め排除した」

敵、間者、密書、殺そう―――排除―――

「くのたま一優秀ながダマされるなんてな」
「・・・あの子は、どこ?」
「・・・・・・。しっかりしろ。目を覚ませ。お前は騙されていたんだぞ。
奴の狙いは、お前の暗殺だったんだ」

久しぶりに、三郎に抱きしめられた気がします。
三郎が匂いがこんなにも近い。
でも、そんなこともどうでもいいのです。
あんなに必死で愛されたいと願っていたけれど、もういらないのです。
だって。
あの日。私に愛と運命が降って来たから。
だから、私は残り少ない私の涙をあの子のために流すのです。

。なんで泣いてるんだ。お前は助かったんだ。生きているんだぞ!!」

三郎がもっと強く抱きしめました。
でも、私に見えるのは、あの子の笑顔だけで。

「あの子なら、私は、殺されても良かった」

この大きな場所で、私は一人で。
あの子が私の傍にいてくれるのも、泣いてくれるのも、
私を殺すためだとしても、
それでも、一人でボロボロにあり続けるほうが、苦しいのです。

私は泣きました。わぁわぁと子供のように泣きました。



あの子がいないのに、どうして私は生きているのでしょうか?












2010・1・16
傍観後。罠にはめて、天女を彼等がやっちまった後話。




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