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おっとオタクなおたくさん 2




【孤高の覇王】
そんな名前で呼ばれている後輩がいた。
4年ろ組、
彼が3年時元5年相手に一人で圧勝したという話は有名で、
鉢屋は今でもを目の敵にしている。
馬鹿な話だ。

「なんで一人で挑んだ?」
「友達いない」

その時の話を具体的に聞けば、くだらない理由がかえってきた。
が孤高?覇王?
笑わせる。
はただの引きこもりで本好きで
本の中の女が好きという人嫌いで苦手な子供だ。
だが、その事実は誰も知らない。
私以外知らない。
偶然といえば偶然で意図的と言えば意図的。
最初から少しは興味があったが、私の作法委員の後輩である
綾部喜八郎がに惚れ込んでいるということを知ってから、
興味が増えた。
だから偶然を装って、ヤツの部屋に潜入しようとしたら、
ちょうど本を読んでいたところに遭遇したわけだ。
しかも、全力で泣いている奴が、私を指さし、
「本から主人公が出てきた。こんな日が来るとは、ちょっと待て、
・・・よし。思いっきり踏んで罵声してもいいぞ!!」
と言った。
そこからトントン拍子で話は進み、
まぁ、は私の下僕になった。
凄く使いやすい。文次郎以上だ。
こんなに使いやすいやつがいるかというくらい。

「立花仙蔵先輩。これ」
「?なんだこれ」

頼んだ菓子の横に咲いている小さな可愛らしい花を指さすと、
は口元に手をそっと触れるか触れないかの距離に置く。

「先ほど摘んだ。きれいだから、一緒に食べると楽しい」

私がなにか答える前に、眉毛の間に眉間の皺を増やす。
これは照れているのだと分かるのに時間がかかった。
このように、は菓子に花をそえるほどの風流さも兼ね備えている。
野蛮人文次郎なぞと比べるのも恐ろしい。

「さっきから花をもってニヤニヤと可愛い子にでも貰ったの?」

横にいた伊作が私が持っている花を指さしで下品な笑を浮かべている。
6年の仲がいい奴らで集まって下らない話にしていて、
開始早々に小平太は文次郎と長次を引っ張って
バレーボールと言う名の破壊行動をしている。

「そんな可愛い理由がこいつにあるわけないだろう?
それより仙蔵、このごろと仲がいいみたいだな」

留三郎が伊作の言葉を否定して、この花を送った人物の話を切り出した。
さっと服の中に入っていた本に花をはさみ、留三郎を睨む。

「やらんぞ」
「えー貸してよ。彼毒の耐性強そうだから欲しかったのに」

私の答えに答えたのは、留三郎ではなく伊作で、新作がどうたらこうたら
熱心に話してくる。それを話されて、貸すとしたら私はが最高に嫌いだろう。
聞いていた留三郎は顔を青くしている。
私は手で伊作の頭をチョップして、恐ろしい話を止めさせた。

「可愛い顔して恐ろしいこと言うな。は後輩だろうに」
くんにそういえるのは仙蔵ぐらいだよ」
「どうやって懐かせたの?」
「それ俺も知りたい」

二人が身を乗り出して話を聞きたがる姿は、見ていて気持ちが良かった。
の弱みは本を読んでいる時だけだし、
本の中の主人公並の人間が目の前に出てこないと本性はでない。
それは私ぐらいの美貌がなければ無理な話だ。
つまり、の弱みを握るのはこいつらでは無理。
だから、必死な姿な二人に私は鼻で笑う。

「さぁな」








作法委員が終わり、みなが帰るなか、喜八郎がじっと私を見つめてくる。
いつもどおりなかなか思考が読めない。
なんだと聞いても、なかなか答えない喜八郎が、ようやく待っている間に
に借りた本の15ページ目で口を開いた。

「髪の毛サラサラにすべしって滝夜叉丸が張り切ってます。
私もしたいんですけど、どうすればそうなりますか?」

私の髪の毛を指さして、いつもよりも熱心な視線に、頭をかしげる。

「どうしたんだ。急に」
「だって」

だってもなにも、喜八郎は自分の美貌にとんと無頓着だ。
髪の毛や服に体に泥だらけでも気にしない。
服がよれてても気にしない。そんなやつが急に髪の毛を気にするだと!
それだけでも、驚きなのに、なんとあの見た目よりも男気がある喜八郎が
言葉をつまらせて、もじもじしている。
・・・・・・鉢屋か。そうか、なんのつもりか知らないが、一体何のつもりだと
言う前に喜八郎は答えた。

さんに髪きれいだって言われてたから」
「そんなこと言っていたか?」
「・・・言ってた」

喜八郎が乙女だ。
大きな目をうるませて羨ましげにこっちを上目づかいで見てくる。
記憶をめくると、確かには、
サラスト1位というのが分かるくらい綺麗な髪している。
ポニーテールだしそっくりと言っていた気がする。
なんで、後ろの言葉を聞いていないんだろう。

「そ、そんなにあいつの言葉を気にしなくても」

あいつの言葉は基本、本の主人公が中心での綺麗だとか、格好だとか、設定だとかが
好きであって本人がそうかどうかはどうでもいい。
・・・そう思うとムカツイてきた。
むっと眉毛を寄せる私に、喜八郎が肩を少し下に下ろした。

「なんだ仙蔵先輩は違うんだ」
「は?」

何が違うんだと聞く前に、喜八郎がずいっと顔を近づけてきた。

「私も仙蔵先輩の髪はきれいだと思います。
でも、私の髪の毛はうねうねで、サラサラにはならないから、
違う方面からアピールするつもりなんです。
だから、協力してくれませんか?」

ぐいぐいくる圧力に、なぜ私が協力しなければと小さな声しかでない。

「仙蔵先輩は仲いいですよね。僕もそうなりたい。どうすればいいですか?」
「喋ればいい。あいつは口下手な寂しがり屋だ」

そういうと、盛大に複雑な顔をした喜八郎が私から離れ立ち上がった。

「行ってきます」

そういって喜八郎は帰って来なかった。
それからといつもよりしゃべる喜八郎が目撃されるようになった。
喜八郎は幸せそうで、も少し口端をあげていた。
良かったと思うものの、やつが部屋にこもる時間が少し減った。
あいつは喋れれば誰でもいいようだ。腹立つ。
だから、本をごっそり借りていった。
なかなか来ないあいつが悪い。






本を開いて今日も今日とて6年で集まっていると、
小平太がうーんうーんと言いながら部屋に入ってきた。
パーンと扉が壊れるくらいの力で留三郎が直すのは俺なんだからきちんと扱えよと
怒鳴ってから何秒たっても小平太が顔をあげない。
不気味に思っていると小平太はいきなり顔をあげた。

「どうしよう。私の目腐った」
「藪から棒にどうしたんだ」

文次郎が言葉を返すと、小平太はすっと庭を指さした。

「あれを見てくれ」

小平太がさしたところでは相変わらず騒がしく
4年の滝夜叉丸と田村が喧嘩をして、それを止めようと斎藤さんがワタワタし、
喜八郎がぼーっとしている。

「4年だな」
「相変わらず濃いメンバー・・・これがどうしたいつものことだろう?」
「滝夜叉丸が可愛くなった」

一瞬何を言われたのかみなが口を開いたが、アホはもう一人いたようで、
文次郎がゆらりと立ち上がった。

「・・・・・・それなら言わせてももらう。田村も可愛くなった」
「タカ丸さんもキラキラが髪の色だけじゃなくなったな」

留三郎の言葉につい返す。

「喜八郎はいつだって可愛い!!」

髪の毛のキューティクル度も上げてるし、あの顔で上目づかいとか兵器だからな!!
いつの間にか後輩のどこが可愛いか言い合いになったが、
しばらくして、そろそろやめたらという伊作が持ってきたお茶でみな黙った。
こういうときに置かれる伊作のお茶は、
飲んで一休みではなく、飲んで永遠の眠りだ。
みながその存在に静かになってから小平太が小さな声で呟いた。

「4年全員のキラキラ度があがってアイドルが国民的アイドルになるつつある。
仙蔵、にどうにかするように言ってくれ」
「はぁ?なんで綺麗になってありがたいことばかりではないか」
「滝にひどい事するとどこかからか攻撃されるようになったし、
なにより、私が手を出さない自信がこのごろない」
「おまえ男でもいいのか」
「いやだ。おっぱい大好き。
でもこのごろ、滝キラキラ光ってて
正直もうなんでもいいかなって思い始めてて怖い。私、私が怖い」

私もお前がどこまで行くのか怖い。
顔を青ざめていると、私の肩に文次郎が手をのせた。

「仙蔵、俺からも頼む」
「おまえもか?」

遠ざかる私に、違うと文次郎は叫んだ。

「そういうわけではないが、そのこのごろ、田村がその」
「その・・・なんだ?」
「会計委員の集まりの徹夜の時、との脳内妄想を呟き始めて、
聞いてるこっちが恥ずかしくて」

顔を赤めて両手で顔を隠してる。
その行動をしている文次郎にとても気持ち悪くなったので、
ついお茶を投げた。
ぎゃぁーという断末魔とともに、どう?その薬の効果?どう?
と声をはずませた伊作の声だけが響いた。




「で、どうしろというのだ?」
「滝とくっつけて」「田村とくっつけろ」

小平太と文次郎は互いの言葉に睨み合った。

「なんで田村?滝の方がきれいだし、優秀だし後輩思いだし」
「あぁん?田村はな、今日はどもらずに話しかけれるかなとか
目が会えばいいなとかそんな小さな事で幸せ感じちゃってる
聞いてるこっちが応援したくなる恋してるんだ。
お前も一回聞いてみればいい。すぐに田村を応援したくなる」
「滝だって、名前を自然に呼ぶ練習を何回もしてようやく言えたし、
ちょっと手が触れただけで凄い幸せそうだし、
あの自分大好きな滝が自分より好きな相手なんてなかなかでてこないんだからな」
「「仙蔵!!田村・滝を」」
「仙蔵ならもういないよ」

なんで私が恋のキューピットをせねばならない。






イライラした気持ちで廊下を渡っていると、
丁度いいところにが歩いていた。

、来い」

そういうとはコクンと頷き私の方へ近づく。
だが、ある所で止まった。

「ま、待って」

隣にいた滝夜叉丸がの裾を握っている。
は緩慢な動きで振り返る。

「どうした、滝」
「私と話をしていたのに、急にいくなんて許さない」

なんて言い草だ。それは私のだというのに、最初から虫の居所が悪いというのに、
火に油を注ぐような真似を。

「私は来いと言ったのだぞ」
「滝」
「やだ」

じわりと滝夜叉丸の瞳に涙が浮かぶ。
あのプライドの高い滝夜叉丸が、涙を人前で浮かべるなんて普段なら、
もういいと言う私だったが、私だって引けない。
だって、は滝夜叉丸のものではなく、私の下僕だから。
はぁと重い息を吐き、滝夜叉丸の肩がびくりと揺れた。
は、私の方へ向きを変え。

「・・・立花仙蔵先輩、滝も一緒でいいですか?」
「勝手にしろ」

なんだ。お前下僕のくせに、ちゃんということも聞けないのか。
私はお前をと言ったのだぞ。
滝夜叉丸はいらない。
でも、滝夜叉丸の涙に、
が無表情だけど凄く焦っているのが分かったからそれ以上何も言えなかった。
言えば、お前は私の下僕じゃなくなるかもしれない。
喜八郎が言っていたのだ。
お前が本が好きだっていうこと。
もうお前の弱みが弱みじゃなくなりつつある。




部屋に来ると、滝夜叉丸は私を空気のごとく扱い、
ベタベタとに話しかける。
それではが本を読めない。
つくづく滝夜叉丸は空気を読まないなと思っていたら、
滝夜叉丸が、さらりと髪をかきあげた。

、このごろの私なにか違うと思わないか?」
「違う・・・・・・」

????がの頭の上にみえた。
ちらりと私の方を見る。ふんと顔を背けると、
困った顔をして、はじぃっと滝夜叉丸を見て、
何度も髪を掻き上げる滝夜叉丸に合点いったようで、
ようやく細い目をやめて口を開いた。

「そういえば髪質が良くなったか?」
「!!綺麗か?私」
「滝は綺麗だ」
「そ、そうか」

照れる滝夜叉丸。レアだ。レアだが別に見たくない。
ぎりっと本を掴んでいる私に、は滝夜叉丸の髪を撫でた。
それから。

「勉強も実習も頑張っている。だから少し休め」

そういって滝夜叉丸は静かに沈んでいった。
何をしたのかは、見たくないから見ていなかった。
は意識のない滝夜叉丸を膝の上に乗せて本を読み始めた。

「滝夜叉丸の前だと別人のようだな」
「幼なじみだからな」
「なんだ、それは滝夜叉丸は特別か?」

は、私の質問に数秒考えて答えた。

「・・・・・・そうだな。特別だな」

それから私の頭に読んだ本がなんだったのかの記憶もない。




自室でペラリと本をめくっていると、後ろからやかましい声が響く。

「仙蔵」
「なんだ」
「なんだはこっちのセリフだ。なにがあったら、俺を空中逆海老反りを仕掛けて、
そのまま何も言わずに黙々と課題やってるかと思えば、本逆とか何してんだお前」

息が荒い。きもいな文次郎がダンと机を叩く。
私は本を閉じて立ち上がる。

「なんだ、縄が解けたのか。しょうがない。次はもうちょっと解きにくいやつを」
「ああ、緩かったからもっときつめに・・・ってそうじゃない。
このごろぼーっとしてないか?前は美容に悪いとかいって夜更かししなかったのに、
あんまり寝れてないみたいだし・・・・・・になにかされたのか?」

ぴくりと動かなくなった私に文次郎が顔をしかめた。

「図星か」

どかりと文次郎が床に座る。

は賢く強くてよく分からないやつだ。操れたと思っても侮れない。
何をされたのかしらないが、
もしおまえが何かされたというなら全力で戦ってやる」

何をされたと思っているのだバカめ。
文次郎の優しさを知りながら私は怒りで立ち上がった。

「うるさい黙れ。お前にの何が分かる。
争いごとが嫌いで、本ばかり好きな男が私に何かするわけがあるまい」
「なにもされてないと?」
「くどい。あれがなにかするとしたら、私じゃない・・・・・・滝夜叉丸だろう」

そういってから私はすとんと床に座った。
私の発言に文次郎は。

「滝夜叉丸か両思いだな。田村はどうしよう」
「・・・おい、馬鹿文次郎、私を慰めないのか」
「なんだ、仙蔵おまえ、が好きなのか?」
「・・・・・・そんなわけあるまい」
「じゃあいいじゃないか。滝夜叉丸とができても」
「私の下僕が滝夜叉丸とイチャイチャしているかと思うと虫酸が走る」

想像しただけで、ぞぞっと背中に何かが走った。
大体だ。あんな性格破綻している顔だけのやつが好きとか
わけわからん。なんて趣味が悪いんだ。
あの眉毛だぞ?あの眉毛。それに綺麗っていってもヤッたこともない
子供で全然青くさいのに、何がいいんだ。
そうだ。私のほうが優秀で綺麗だし、うるさくないし空気読める。
つらつらと出てきたへの愚痴は。

「じゃあ綾部ならいいのか?」

文次郎の言葉で止まった。

「喜八郎は」

私は知っている。喜八郎がのために頑張っていること。
穴を掘るのが好きな喜八郎が、その時間を削ってに話しかけていること、
話すのが得意じゃないのに、頑張ってしゃべっていること。
服も綺麗になって、髪も斎藤さんに手伝ってもらって綺麗になって、
贔屓目なしに喜八郎は綺麗になっている。
それがすべてに好かれるためだけでなんて健気なんだ。
それに比べて私は、パサリと前にこぼれた髪をみると、いつもよりも
みずみずしさがない。睡眠不足とストレスのせいだ。
そんなことを考えていた私の脳みそに
喜八郎との中睦まじい姿が出てきた。
嫌だ嫌だけど、なんで嫌なのか分からない。
喜八郎は私の自慢の後輩だ。それなのに、私が文次郎に答えた答えは。

「・・・分からない」

答えがでない答えにぶつかって不安が押し入っている私に、
文次郎が話をそらした。

「そうか。その前に本当に滝夜叉丸が好きだと本人が言ったのか?」
「いや好きだとは、特別だと」
「その前には?」
「幼なじみ」

私の答えに、文次郎は口元に手を当てて答えた。

「・・・・・・それって、幼なじみだから他よりも特別ってだけじゃないか?」

文次郎の言葉に数秒固まった。
だが、その答えは十分ありえた。
あの口下手で説明が全く入らないの文は勘違いが多い。
本人も勘違いされているような気がすると言っていた。
そうだ。あいつは好きな女の主人公の時は、はっきり一言で、
「この子は好きだ」と答えていたはずだ。
つまりの特別というのは・・・。

「・・・・・・そ、そんなこと分かっていた。
さぁって、ここにいるむさ苦しい男より、風流で物分りの良い下僕の方へ行こうかな」

そういってさっそうと出ていった私に文次郎が呟いた。


「面倒な事になったな。でも、まだ気づいてないようだし、
仙蔵がが好きだと気づくまえに、田村をさっさとけしかけよう」









2011・10・14

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