愛されたがりや 下
愛されたがりや 下
私はそれから仙蔵先輩と文次郎先輩と一緒にいるようになった。
先輩たちは後ろで触れるか触れないかの距離にいる。
ごはんも1人じゃなくなった。
休みの日も1人じゃなくなった。
疲れたことがあるとお疲れ様って撫でてくれて
喜んでいるとよくやったって褒めてくれる。
文次郎先輩は、しかめっつらでぶっきらぼうな態度だけど
私になにかあるとすぐ察して黙って傍にいてくれる。
仙蔵先輩は3人と天女さまをみてしょげている私を
怒らせたり、笑わせたり、からかったりして、
気づいたときには、忘れて彼らはいなくなっている。
彼らはとても優しい。
でも、彼らは絶対私に触れない。
それがなぜか気づいていたけれど、
寂しくてしょうがなかったから一緒にいた。
時間がたって今度はそれに恐れ始めて、
そうじゃないように祈り始めている。
これじゃいけない。
2人に依存し始めていることに気づいた私は、
もうやめましょうと言うために2人を待った。
仙蔵先輩は用事があるらしくまだ来ない。
私の横で本を読んでいた文次郎先輩に目を移す。
暇だった私は、人差し指と中指をトトトと左右に振り先輩の手まで歩く。
つんつんと文次郎先輩の手をつつくと、困惑したような顔をする文次郎先輩。
3人の激しいスキンシップで私は人肌恋しくなっていた。
「何をしている?」
「文次郎先輩の手、ずっと触ってみたかったんです」
先輩の手をつついていた私の手を上から重ねる。
私の手のほうが小さくて、文次郎先輩の手は大きくて、
ゴツゴツとしていろいろな傷があった。先輩らしい手だ。
文次郎先輩は眉間にぎゅっと皺をいつもよりよせて難しい顔をしている。
私はそんな文次郎先輩をじっと見る。
目の下の隈が酷くなっている気がする。
隈に触れたくなって重ねている手と違う手を先輩の顔に触れようとすると、
文次郎先輩は私の手を掴んだ。
「きもんじ」
ゴスっといい音がした。
文次郎先輩が前に倒れて、仙蔵先輩の足の裏がみえた。
仙蔵先輩が、文次郎先輩の頭に蹴ったようだ。
なにすんだよと怒っている文次郎先輩に
仙蔵先輩はふんと鼻で笑い、私の横に座ると、
私の髪を一房とってちゅっと口づけて妖艶に微笑む。
「こういうのは私だけにしとけ。こいつはやばい」
私から髪を離して離れていく仙蔵先輩にそうですか。
と、泣きそうなのを我慢して微笑んだ。
それは私の意地で、くのたまで習った5年間のすべてをだした。
文次郎先輩も仙蔵先輩も気づかないほどの技術力を
誇らしく思いながら気づけ馬鹿と貶す。
そんな矛盾した思いを抱いて、
まだ寂しがっている自分の心に気づいたから、
やめましょうは、もう少し先延ばしにした。
先輩、あなたたちは気づかなかったけど、私は気づいたよ。
あなたたちはたしかに私を愛してくれているけれど、
私よりももっと愛している人がいるってことを。
学園長に言われた任務はさほど難しいものではなく、余裕で終われた。
ゆっくり宿に泊まっても、帰る予定日よりも早い。
でも、私は宿に泊まることなく足を忍術学園へ動かした。
3人が私から離れていったのは、任務が終わった後だったから、
もしかしたら任務から帰ったら、
2人も私から離れていくのだろうかと心配になったんだ。
それと、私の胸もとには家から届いた手紙。
もし彼らがそうだとしても、私は前みたく死にはしないだろう。
だって未来があるのだから。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
3回繰り返して、自身に言い聞かる。
目の前には忍術学園の門。
「早かったね」
門番の小松田さんに渡された入門表に名前を書いて、
ドドドとはやる気持ちを落ち着かせる。
「早く帰って、体を休ませたかったんです」
するりと出てきた嘘に小松田さんはそう、じゃあ早くしたほうがいいねと
ほわほわした笑顔で返ってきた。本当に忍者にむかない人だなと
思いながらほわほわが移った私に、あ、そうだと小松田さんは振り返る。
「おかえり」
「・・・・・・ただいま」
たかだが4文字の言葉だ。それなのに私の心をかき乱す。
3人から欲しかった言葉。2人から欲しかった言葉。
でも、私に”おかえり”を言ってくれるの小松田さんだけ。
目を瞑った。
私は、3人の思いからも、私自身の弱さからも、全部から逃げた。
もういいの。
もういいでしょう。。
すっと目を開いた。映る世界は単色。音も静か。
一箇所だけ聞こえる騒音に足を運ぶ。
そこには天女さまがいて、楽しそうに談笑している。
私を好きだといった三郎・兵助・ハチが彼女を囲んでいる。
それはいい。分かりきってることだ。
問題は、彼らは誰かと天女さまを取り合っている。
その誰かってこと。
「なーんだ、やっぱり」
私の声で、騒がしい声が止まった。
全員私を見た。
私の格好はピンク色じゃなくて黒。私の感情と同じ。
「やっぱりその子の方がいいじゃない」
文次郎先輩と仙蔵先輩が私を見てどうしてって顔をしている。
ははと、どうしてもこうしてもない。
私は体中に仕込んであるクナイの場所を確認して、天女をみた。
すっと誰かが動く。それに嘲笑。
殺さないよ。別に。だって私には未来があるもの。
虚しいさをそのままに私はその場から消えた。
未来がある。その言葉だけで天女さまを殺さなかった自分を褒めた。
結論を導きだそう。
まず私は5年の3人から振られる。それは天女さまのせい。
五本の指に入る優秀な成績なくのたまの私は、
学園にとって+な存在で、その子が自殺なんて−。
学園大好きな6年い組の彼らがそれを見逃すはずはない。
そして、自殺が天女さまのせいだなんて知られたら彼女が悲しむ。
彼らは後輩である私の愛されたがりやの性格をよく知っていて、
側にいれば変なことをしないことを理解していた。
私が冷静になってなにをするかも理解していた。
彼らは私が天女さまを殺さないように監視していたのだ。
つまりそういうこと。
文次郎先輩も仙蔵先輩も
私よりも天女さまが好きだから私に触れることをしなかった。
愛してやろうと言われたけど、愛しているなんて言われてない。
結論:私はやっぱり1人だ。
「」
「文次郎先輩。そんなに慌ててどうかしました?」
息を荒くして、汗を拭っている文次郎先輩に私は微笑む。
私の様子に文次郎先輩はぐっと喉を飲んだ。
「話を「何がですか?文次郎先輩と仙蔵先輩は
言葉通り、私を愛してくれていたじゃないですか。
たとえ天女さまを愛していたって私は何も言えません。
だって恋人じゃないんですから。
束縛するものが私たちの間にはなにもない。
でも、そうですね。私も話があります。
私はもう大丈夫です。あの子を殺したりしませんし
死んだりしません。だから、監視なんて必要ないんです」」
「いいから、話を聞け」
苛立つ先輩に私の顔は能面。
「証拠が必要ですか?これ、これが私が彼女を殺さない証拠です」
はいと渡す。手紙の内容は両親のもの。
手はずは整ったから帰って来いの文字。
文次郎先輩は顔をあげて私に説明を求めた。
「婚約者が決まりました。3人がいたからなかったお話だったんですけど、
事情を話しまして」
「なんで」
その後ろは、俺達がいるのに婚約者を?だろうか。
私はようやく顔を崩す。
「なんでって、私はちゃんと気づいてましたよ。
2人が私を最初から女としては愛してないこと。褒めてくれてもいいですよ」
皮肉1つで許してあげますから、出ていってください。
私は荷物をまとめますと、
黒い忍服を脱ごうとする私に文次郎先輩の気配は、
「・・・なんだ。じゃあ我慢しなくてもよかったわけだ」
遠くならず近くなった。
「え」
振り返るのが遅く、私はそのまま床に倒れていた。
視界には文次郎先輩が一杯になっている。
「お前は俺達があの女を愛している
と思っているようだが・・・ふっ笑わせてくれる。
あっちが監視だ。あっちのほうが明らか様に不審人物だろう?
まぁ今回の任務であの女が、ただの女だと分かった。
今頃、仙蔵が報告してるだろう」
先輩は私の上で上着を脱ぎ始めた。
緑の服が私の横にパサリと落ちる。
「あ、あの、なんで服脱ぐんですか」
この状態から逃げようとするが、
学園一忍びをしているは伊達ではなく文次郎先輩はびくともしない。
「なぁ、。なんで仙蔵がやばいと言ったか分かるか?
お前は俺が仙蔵を止めていると思っていたようだが、
逆だ。仙蔵が俺を止めていたんだ。
俺はあの時、お前をその場でたべようと思った」
「・・・え、本当に文次郎先輩ですか?三郎の変装じゃなくて?」
いつもの先輩と違いすぎて、なにその色気に狼な思考。
三禁はどこいったと叫ぶと首筋を舐められた。
「ひっ」
「こんなときに他の男の名前を出すな。そいつを殺したくなる。
。5年坊主のあんなおままごとよりも、もっといいこと教えてやる」
そういって文次郎先輩は、私の頭を掴んでそのまま奪うような口づけをした。
何度も何度も。
最初浅かったのが深くなり、1回1回が長いので、
息も絶え絶えになり、体の力が抜けぐったりした私の頬を撫でる。
「やっぱりお前は美味いな。」
いつの間にか私の膝は立てられ、その間に文次郎先輩は体をいれていた。
服をとめる紐が外され、乱れていた。
着物の境目からすっと手が入れられようとしたとき、パーンと扉があいた。
「なにしてんだ。えろんじ」
「仙蔵、邪魔するな」
「邪魔?するに決まってるだろう!なんで他の女には初心なくせに、
を目の前にすると獣になるんだ。離れろ!!さっさと離れろ」
ゲシゲシゲシと文次郎先輩を蹴りながら、
下にいた私を神業で救い出した仙蔵先輩に安堵感から名前をよんだ。
「仙蔵先輩」
先輩は私をみて、数秒固まり、
いつもの涼し気な顔が嘘のように顔を真赤にさせ
「・・・・・は、はやく服を整えろ!破廉恥な!」
と、テキパキと私の服を整え始めた。
すごいな。全然私の姿を見てないのに直せるなんて
と関心していれば呆れた声が後ろから響く。
「俺としてはこの状態のをみて手を出さないお前の雄機能のほうが
どうなってるんだと思うが?他の女にはバンバン手を出してるくせに、
なんでになると初心になるんだ。オトメ回路な仙蔵きつい」
2人の言葉に、くるくると迷路構造になった脳みそ。
私はちょっと時間をくださいと額に手をあて、
片方の手をストップの形で手を伸ばした。
「えーと、つまり」
6年い組の彼らは天女さま降臨の時、
任務に出ていたので天女さまにメロメロにならなかったらしい。
最初は天女さま警戒ぐらいでメロメロな奴らを笑って、
ゆするネタを書き綴っていたけど、
私を置いていく5年の3人の異常事態に、ようやく事の大事に気づいたらしい。
で、天女抹殺しようとしたけれど、
実は私を狙っていた2人は、5年がいない今チャンスじゃね?と思い
抹消するのを思いとどめた。
チャンスを存分にいかし、傍にいることが出来たものの、
2人が2人で牽制しあっているので、触ることも出来ない。
しかも触ると文次郎先輩はいつもの先輩の皮を破ってオオカミさん。
仙蔵先輩はピンクなフリフリな乙女になる。
これは私が文次郎先輩に触って、
仙蔵先輩が私に触れたときに分かったらしい。
そんな膠着状態な彼らに学園長から天女の実態の任務が入り、
私の任務時期にあわせてしていたのだけれど。
「・・・・お恥ずかしい」
「いや、むしろ好機だった。
このままではに勘違いされたまま
婚約者とやらに盗られるところだったのだからな」
「天女さまさまだな」
後ろから抱きしめて首筋に顔をうずめる文次郎先輩に、
私の方を見ないでそっぽ向き、赤く顔を染めてるけど恋人つなぎの仙蔵先輩。
そんな2人を交互に見て思う。
もしかしたら私は、前の3人よりも面倒な人たちに捕まったんではないかと。
でも、逃げる気はない。いや、逃げれない。
私の救いどころだった未来の紙は、彼らが握りつぶし燃やしてしまったのだから。
長い髪をポニーテールにしてくくり、
唇に何を塗ろうかと悩んでいると
横からぬっと出てきた私ではない手。
がっと強い力で唇を奪われた。
あいかわらずの奪うような口づけに、
息も絶え絶えになれば、にっと男の顔をしている文次郎先輩。
もう一回と私の顎を持った時、
上から文次郎先輩の頭を狙い落ちてきた仙蔵先輩。
昏睡状態で白目を向いている文次郎先輩を放置して、
仙蔵先輩は、私の唇を真っ白の手ぬぐいで拭う。
拭いすぎて痛くなって口を塗る必要がないくらい赤くなれば、
仙蔵先輩は、私の唇をずっと凝視している。
目があえば顔を真っ赤にして逸らすから、
ついムラっとして、チュッと可愛い音をたて仙蔵先輩の唇に唇を合わせた。
仙蔵先輩は2・3秒固まってそのまま後ろに倒れた。
今日おめかししていたのは、仙蔵先輩と出掛ける日だったからだ。
仙蔵先輩は、先ほどまで文次郎先輩に制裁を加えにここにいた。
あと少しで終わるからここで待っていればと言えば首を振られた。
待ち合わせというのがいいらしい。
したくがすんだ私は、
私の長屋でのんびり本を読んでいる文次郎先輩に尋ねる。
「心配とかしないの?」
私の言葉使いは先輩は抜けないものの、
尊敬語からタメ語になった。
少し距離が縮んだような気がするけど、まだ物足りない。
1人とデートすると、他の2人は心配して、
いつも付いてきたのだけれど、と不満が顔に出たのだろう。
文次郎先輩は笑ってる。
「するか。俺は、あいつと同室だぞ?
あいつのカレンダーに赤く丸がついている日があってな。
お前とあいつの誕生日の真ん中の日なんだ。
あいつはその日を記念日にしたいらしい。
だからそれまで仙蔵は手を出さない。
ちなみにお前がキスした日にはハートマークが書かれている」
「・・・・・・・」
想像した。・・・やばい。物凄く顔がにやけて赤くなる。
あの冷静沈着と言われていてる先輩がそんなオトメな事をしてるなんて。
ギャップに母性本能がやられまくっている。
そんな私をみて面白くなさそうに文次郎先輩が言う。
「なんだ、仙蔵に惚れたか?妬けるな」
「い、いや、そうでなく。近い近い近い!!」
顔を近づけてくる文次郎先輩に手で防御するがすぐに
崩される。抱きつかれて耳元で囁かれた。
「いいか。俺は仙蔵なら一万歩譲って許してやる。
だけど、ほかは許さない」
文次郎先輩と目をあわせて、私も笑う。少女ではなく女の顔で。
「それはこっちのセリフ。
もしも私以外にこんなことしたら、その女を殺して、2人も殺す」
「いいぞ、こい。そんな勘違い出来ないほどもっと愛してやる」
まっすぐ見つめられる、嘘偽りのない眼差し。
言っていることが末恐ろしいことに気づきながらも、
私は3人のときでは得られなかった充実したものを感じていた。
心臓がドキドキと動きが早くなる。
距離がまたゼロになりそうになったが、
にゅっと私の手でも文次郎先輩の手でもない
白く綺麗な手が真ん中に入った。
「やめろ。変態。今日のは私のだ。
。何度も言っているが、この獣に触れるだけで孕むぞ」
「お前が邪魔しなかったら孕んでた」
「から半径100メートル圏内に入るな!!この外道」
ごすごすと正確に急所を狙って蹴っている仙蔵先輩。
文次郎先輩に感じていたドキドキがもっと大きくなる。
2人をみて、ああ、これがそうなのか。
と胸の近くの服を握って、顔を赤くする。
「どうした」
そんな態度をしている私に、一方的な喧嘩をやめてこちらを見てくる2人。
これ言ったらやばいと思ったけど、
感動に近い気持ちを抱いた私は口を開く。
「わ、私ね、変かな。
2人の子供ならどっちも欲しいって思っちゃってるんだけど、
これって酷いかな?」
「「・・・・・・・」」
2人の沈黙が痛い。
ごめん。頭冷やしてくると言う前に、仙蔵先輩が私の手を両手で包み込んだ。
「大丈夫だ。文次郎はいずれ死ぬからいける!!付き合う前提に結婚しよう」
「なんで俺が先に死んでるんだよ。しかも反対だ。
俺は子どもが2人でも構わない。仙蔵の子供も一緒に育てられる」
「お前城付の忍びだろう?帰る暇などないだろう?
その点私は夫婦OKな城を選んだ。お前の子供はやるがは渡さん」
用意周到な仙蔵先輩に、おもいっきり顔を歪めている文次郎先輩。
さぁ、いこうかと花を飛ばしている仙蔵先輩に、
一瞬で服を忍服から私服にかえた文次郎先輩。
「やっぱり俺も行く」
そんな会話がなされている中、天女さまはいちご大福を食べました。
あ。と思ったのもつかの間、天におわす神様がカウントダウン。
神様が帰りたくなったら食べてと、彼女を落とす前にいったものでした。
天女さまは帰るつもりなんてなかったのですが、
あまりに楽しい生活にそんなこと忘れてしまっていたのです。
5・4・3・2・1
ゼロ。
はい
天女さまが帰りました。この世界から消えました。効果も消えました。
誰も天女さまなんて好きじゃなくなって、元通りです。
さぁ、大変。
3人は慌てふためいて彼女を探します。
その彼女は両手を違う手に握り締め微笑んでいます。
そして、たくさんの考えから結論を導き出し、昔を書き直しました。
うん。分かったんだ。私3人に感じてたのは友情と愛情未満だってこと。
この2人ならセクハラされたって、変態なことされたって、妄想されたって、
何をされたって構わないもの。
あーあ。間に合わなかった。残念。
2011・6・14
【愛されたがりや 完】
どうでしょうか。まどか拝さん。6年い組に溺愛されてみました。
それと拍手にあったリクの5年の変態愛されも追加してみたり。
喜んでくだされば嬉しいです。