友情なんて呼んだ
は、いつもほわほわ笑っていた。
幸せなことは?と聞けば、寝る前の一瞬の浮上と笑って言う変わり者であった。
久々知 兵助は大の豆腐好きならば、彼は大のつくね好きだった。
いつもマイ串を持ち歩き、肉団子があればわざわざ串にさして、
これはつくね。と笑顔で食べていた。
そして、俺は時々彼の部屋を訪ねるのだ。
彼の部屋は一人部屋で、訪れると彼は決まって体半分入っている布団のうえで
本を読んで眠そうな顔で、「んー」と俺の顔を見て本を閉め、
火が消されて、二人重なり合う。
彼は優しい男であった。
俺達の関係を、彼は友情だなんて豆腐好きの彼に笑顔で笑って言った。
彼は、触れて欲しくない曖昧な部分に明確な答えを突きつけなかった。
俺はその優しさにつけこんだ。
俺・竹谷 八左ヱ門は、と体の関係はあったけれど、
好きな奴は彼の横で豆腐を食らっている男であった。
久々知 兵助という彼はなかなかに鈍い男で、
そうして俺もなかなか言い出せず友情は深まりはしたものの、
その分ドツボに深まっていく。そんな悪循環の中、
体の疼きを押さえるいわば儀式で、終わるたびに罪悪感が残る俺に、
いいよ。いいよ。俺だってムラってすることあるしと笑っていた。
彼はいつも笑っていたので、俺は彼の体を貪りつくしていたことへの
罪悪感が薄れ、彼がいう友情とやらにいたく感謝しているときだった。
その日の委員会は逃げたペットを見つける作業で、は立っていた。
なに馬鹿みたいに突っ立ているんだ。と疑問に思う前に、
暇そうなら手伝ってもらおうと声をかけようと近づけば。
「先輩好きです」
は笑って、
「そう、俺も好きだよ」
とのたまっていた。俺は、なぜかその現場が信じられないようなもので、
足が可能な限り動く早さで動かして、その場所から離れた。
今日は、同室のものがいない。好きな女の元へ行くらしい。
行かないでと言ったら、お前も時々行っているところへ行けば良いのにと言われた。
知らないって残酷だ。
布団を引かずに、ごろりと床に横になった。冷たいな。
横にごろりとなれば左手が見えた。昨日この左手の中では目を瞑っていた。
あれは、儀式であった。だから彼との間になるものは。
「ハチ」
「へ、兵助?!!な、なんだこんな夜更けに」
睫毛が長い綺麗な顔がUPでドキドキ。
こんな夜更けに俺の元も来たのでドキドキ。
けど、彼の手に持っているものを見て、なーんだとがっくり肩を落とした。
「俺はちゃんと声を何度もかけたぞ。三郎と雷蔵と勘ちゃんみんなで酒盛しようって」
豆腐と酒のつまみを持って兵助は俺の横に座っていた。
みんなの中にが入っていないことに気づいたけれど、
今は触れたくないのであえて聞かなかった。
「も薄情な奴だよな。まったくどんだけ良い女なんだろうな?」
酒が入って妙に饒舌になった三郎が俺らに言った言葉で、
熱くて楽しくてふわふわした気持ちから地の底へ落ちたようで、
俺の中の酒は水となって溶けた。
何度行ったか分からない場所へ足を運ぶ。
そういえば、俺は彼の場所へ行った事があるけれど、
彼が俺の場所に来たことがないことに気づいた。
昨日から、俺の頭はで支配されていた。
こんなこと、初めて抱いてしまった夜以外になくて居心地が悪い。
すぐに解決させてしまいたくて早足で彼の元へ行けば、
部屋の中で、は正座で机に向かっていた。
初めての出迎えの格好にどきまぎしたけれど、彼はコトと筆をおき、
ゆっくりとした動作とお決まりの笑顔で俺へ振り返った。
「おや、珍しいな。竹谷、こんな時間に来るなんて」
「。聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
手ぬぐいで手を拭っている。
手ぬぐいを拭うとき目が伏せて睫毛の長さが長いことが際立った。
俺はそんなちょっとした発見を見つけながら、どかどかとの後ろを陣取って、
背中を穴が開くほど見つめた。彼は振り返ることなく手ぬぐいで手を拭っていた。
こっち見ろと言わんばかりに俺は唐突の質問をぶつけた。
「って好きなやついんの?」
「いるけど、そうがどうかした?」
はこっちを向かずに、手ぬぐいをそのままゴミ箱に捨てた。
簡単に言われた答えに俺の方がど肝を抜かれた心地して、口ごもる。
「・・・・・・いや、だって」
「竹谷だって好きな奴がいても俺を抱けるだろう?
それと同じだよ。で、どうかした?」
彼はようやく俺の方を振りかえって笑った。
確かに、当たり前な話だ。俺は兵助が好きだけど、を抱いている。
も誰か違う誰かを思いながら俺に抱かれている。
それは逆に何の見返りもない行為よりも同等で、安心するはずなのに、
どうしてか俺は。俺は、何も言えない代わりに目の前の、
いつも笑顔で優しい大のつくね好きを抱いた。
彼の体からは先ほどまで使っていた墨の匂い、汗の匂い、の匂い。
昨日何していたのかって
誰が好きなんだって聞ける関係じゃないから、
それを望んだのは俺だから、彼は笑う。
そういうばいつから名前じゃなくて苗字になったんだろうって伸ばされた手を取って、
口付け交わして、ほぅっと蕩けた顔に、
お前は好きな奴には、どんな顔をみせるんだろう。なんてこと思ってた。
俺は違う誰かが好きだけど、お前は俺を好きでいてくれないと嫌だ。
なんて子供の理屈の感情がよく分からなくて、
俺達は、その感情を友情だなんて呼んだ。
2009・12・30