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浮気宣言2



なーんて、嘘でしょう?
とおちゃらけて言えないほどの真剣な顔と空気に、
私は何をいうことも出来ず逃げ出した。
ひねくれてしまっている私は、
真っ直ぐとした気持ちに対しての免疫力がまったくといってなかった。
仙蔵と恋人になったのも、仙蔵が自分と同じ性質の人間で、
真っ向から好きだぁぁと叫んできようものなら、
それは仙蔵ではない。偽物だ。

あー、うー、ほりゃなーと奇っ怪な声をあげ、畳の上をごろごろと転がってみる。
いい案が出ないときとか、
ラブラブ甘甘なチョコレートを渡すイベントをやるべきか
はいあーんという橋渡しを口渡しのピクニックイベントをやるべきか
クリスマス、雪がきれいだねなイベントをやるべきか
要するに、乙女ぽいイベントをどうやるべきかのときに
前転や後転を自分の部屋一杯使ってやりつくしている。
忍術学園にいる間ずっとやってきたので、長くない限りくのたまは入ってこない。
今回のはいつもの何百倍か難しい。

「あー」

声をあげまくっていたら、とうとう枯れた。
変な声を出しすぎて口の中が乾いていて、気持ち悪くなったので、
転がるのをやめて、食堂へお湯を取りにいこうと立ち上がった。
こういう時に相談できたのは、仙蔵で、次に文次郎だった。
だが、今二人とも相談できない。
肝心な二人はおかしくなってしまっているから。
私はどうすればいいのか。
うんうん唸りながら、食堂へ入り、
湯を受け取り帰ろうとすれば、文次郎が入ってきた。
バチリと目が合う。
なにか文次郎が口にする前に、私は走った。
そりゃ、もう全速力で。
ここまで来れば文次郎は来ないと、
ぜいぜいと息があがるのを整えて、どこに来たのか分からない私は
柱を見上げると、図書室と書かれている。
彼もおかしくなっているが・・・・・いや、もうおかしくていいかもしれない。
かれこれ、二三日こんなことばかり考えていて、頭が爆発しそうなんだ。






「と、いうわけで、私はどうしたらいい?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「だんまりは却下。本たくさん読んでるんだから、いい案とかだしてよ」

は、ねーねーねと中在家長次の大きな体を揺すった。
もともと口下手な長次はあまり話すことをしないのだけれど、
特にこういった問題については、
経験が少ないこともあり口をだすのを渋った。
だが、揺れが大きくなったのと、沈黙程度では彼女が
いなくなることがないことを6年間でよく理解していたので、
とうとう聞き取りづらいと評判の声を出した。

「・・・・・・・・は、文次郎が嫌いなのか?」

は、長次の言葉で、ぴたりと動きが止め、丸い目をもっと丸くして、
長次を見つめる。
目がしっかり2秒あってから、は深い溜息を吐いて、
長次の大きな背中にぽすりと体を預けた。

「・・・嫌い。嫌いね。
嫌いだったら、文次郎で浮気なんてしないよ。
でも、私の好きと文次郎の好きは違うし。
だからって、面と向かって打ち払うのも出来ない。特に今は」
「・・・・・・」
「あーなんでこのタイミング言うかな。あの人。
私か弱いんだよ。精神的に。
支えがないとへにゃってなっちゃう朝顔みたいなもんなんだよ。
ほら、長次がかわいがってるあれ。
だから、あれと同じくらい水をくださいよー」

くるりと向きを変えて、は長次の背中をまたゆすり始めた。
今度は長次が深い溜息を吐く。

「素直に今の気持ちを打ち明けてみればどうだ?」
「恋愛対象としてみれないけど、離れたくはないので、一緒にいてくださいって?
それって、酷すぎない?私だったら、殴るわ」

たしかに。と長次は思いなおした。
だが、打開策は言ったし、お役目御免とばかりにまた本に目をうつした長次に
はぶつぶつ文句と策を練ろうとあーでもこーでもと呟いている。
どこか違うところに行ってやってほしいが、
そんなこといえば一緒に考えろと言われるので黙る。
がうーんと唸る姿を見て、ふと長次は思う。
自分の目から見て仙蔵とは切っても
切れないほどの仲であったはずだけれど別れたのかと。
いつからなのだろうと気になったものの、
の悩みの種である文次郎が動いたとなると、それはつい最近のことだろう。
傷をわざわざ抉ることなど長次の趣味ではないので、長次は黙った。
それが悪かったのか、長次の背中が良かったのか、
はそれから長次に逐一報告するようになった。

「今日、文次郎に追いかけれた。
なんか言いたいことがあるなら面と向かって言えだって、言えたら逃げてないし」
「文次郎の中の私って、どんだけ食力旺盛なんだと思う?
みて、これ。大量の甘味が・・・・・・
それに今の私って、甘いの分からないんだよね。
ああ、でもよく分かってるな。私が好きなもんばっかだよ」
「くそーこんな真っ正直からくるなんて、忍びなんだから忍べよ!!
私がこういうの嫌いなの分かってやってるに違いない。
性質悪い文次郎。略して性悪文次郎!!あがぁぁ!!」

今日の文次郎から、愚痴から最期に叫び声で、
もんどり打つのパターン化してきたが、飽きないのだろうか。
長次としては、冷静さは仙蔵並で人前に見せることないの姿に、
驚きつつもおもしろいとも思い始めているときだった。



「なんだか騒がしいな」

今日も今日とて、文次郎の話をしにきたは図書室にいた。
立ち上がるに、長次も読んでいた本をおいた。
床におちているピンクの物体を囲んで、
危害を加えている様がから見えた。
一回目を大きくしたものの、すぐに目を細くすると、
は先程まで行動が嘘のような表情で緑色を着て、
前までは友人だった彼らの元へ近づいた。

「・・・・・なにをしているの?」
「なにをってこいつ薫さんに危害を加えようとしたんだ」

七松小平太が片手で掴んでいるのは、くのたまの後輩で、
男数人に囲まれて攻撃されて、ボロボロだけれど、
目が鋭く研ぎ澄まされていた。体は負けても心は、まだ負けていない。
彼女は、を見ると、一縷の光を見るような目で叫んだ。

「こいつはおかしい、みんな取り憑かれたように執着して、
幻覚かなにかの使い手で、敵の間者だ!!」

くのたまの声にきゃっと声をあげたのは、
事の発端の当事者にして、彼らの守るべき最優先事項の天女の菫さん。
怯えるような顔をして、食満留三郎と善法寺伊作の背中に隠れている。
6年は組は守りで、仙蔵と小平太が攻撃かと、ふむとは理解する。
状況を判断するに、くのたまが天女たる菫さんを殺害し、
おかしくなった人たちをもとに戻そうと考えたらしい。
しかし、策を練るのがたりなかったのか、私念でくのたまの目も汚れていたのか、
暗殺失敗。暗殺が失敗したものはどうなるか?な授業でうけた内容を
いま目の前で行われているらしい。
が冷静にことのあらましを整理していると、仙蔵の美しい顔が歪んだ。

「黙れ、薫さんの手を見れば一般人だと分かる。
お前はただ嫉妬しただけだろう?
知っているぞ。お前は、竹谷と恋仲だったんだろう?
竹谷から別れを告げられて嫉妬した。
お前は何もできない一般人の薫さんを攻撃した。醜いな」
「ま、そーいう悪い子にはお仕置きだ?」

バキリと拳を鳴らす小平太に、精神的に追い詰める仙蔵に、
ひっとくのたまの後輩が泣いた。
険悪なムードの中、

「待ちなさい」

と、の声が凛と響いた。

「なんだ。お前まさか、かばうきではないな」

昔恋仲であったものにそんな目をむけるのか。仙蔵と、
は胸が傷んだが、彼女にはすべきことがあった。
彼らが天女を守ることが第一なように。

「この計画は私が立てた。彼女ではない」

はくのたまを守ることが第一だった。

「・・・なんだと?」

ゆらりとした殺気がこちらに向かう。
くのたまの目が大きく見開かれている。
バカね。そんな顔をしたら嘘だってバレてしまう。
はくのたまから目をそらして自分を見るように、
にっこりと笑みを向けていつもよりも大きな声を出した。

「あんたら、みんな馬鹿ばっかりだから、目を覚まさせてあげようと思ったのよ。
一人の女に蟻みたいにたかちゃって・・・あわれ、滑稽。
どうしようもない、救いようがない阿呆が集まって何が出来るの?
使えない能なしを守ることだけ?たしかにサルよりは使えるかもね。
その女のすべき仕事してデレデレしていればいいのだから。
馬鹿に付ける薬はない。先人はいい言葉を残すわ。
あんたらはまだ馬鹿じゃないって信じてたのに、・・・失望したわ。
冷静さをかいて何が最高学年か。もっと物事を深くみなさい」

最後まで言う前に拳が飛んできた。
短気さが定評の小平太からの拳だった。
は、避けることも出来た。
これでもくのたまをまとめつとめあげるだけの実力がある。
以前の小平太ならいざしらず、天女に参って、
鍛錬を怠っている小平太の動きは遅く、目で追えた。
しかし、はそれを受ける気でいた。
捨て台詞を吐く前から殴られることを覚悟していた。
それはと6年生の決別、
くのたまと忍たまの決別を意味するのだけれど、
女をよってたかって攻撃する彼らに
腹が煮えくりかえるほどの怒りを感じていたので、
彼女は決断を下した。
は目をつぶることなく、くるだろう衝撃からぐっと奥歯をかみしめた。
だが、それは届くことなかった。
の前に、緑色の背中が現れたからだ。
それは、長次のように大きいものではなく、が逃げていた背中だった。
ふわりと、汗と墨の臭いが香った。

「俺もと計画した。その女が間者であると思った。殴るなら俺を殴れ」

俺を殴れといいながら、小平太の拳をいなして、
殴り返している文次郎に、は驚き、目を見開いている。
殴るならというのは、殴れるならという意味がこもっているんだろうと
ちょっと頭のすみで考えていたが、文次郎に手を握られては言葉をなくした。

「行くぞ」
「待て、文次郎。

後ろからの仙蔵の言葉に振り返る。
くのたまの後輩は、いない。
彼らの視線がにきたときに、他に待機していたくのたまが連れ帰ったようだ。
ほっと安心したのもつかの間、
手から伝わる熱には、文次郎に何か言おうとして顔をあげ、
なんて言っていいのか分からなくて下を向いた。




と文次郎がいなくなったあと、
伊作は菫さんに怪我がないか確認して、
それから小平太の具合を確認している。
仙蔵は口元を覆って何か考え事をし、留三郎が呟いた。

「・・・・・・・あいつら何を考えているんだ」

その言葉に、長次はぼそりと答えた。

はやっていない」
「?なんだ長次までかばうのか」

小平太のぎらりとした視線に、はぁと長次はため息を吐きたくなった。
ここにいるみなそのような顔をしている。
長次だってくのたまが菫さんに攻撃したことに怒りを感じるものの、
いつもクールなが、がぁーと変な声をだして、床を転がり、
子供のような行動をしている姿が邪魔をする。

「違う。は、違う計画に精一杯で、この計画を考える暇はなかった。
はくのいちのまとめ役だ。あのくのたまを守ったのだろう」

長次の言葉に、そう考えるのが妥当だろうと仙蔵がいったことで、
と6年生の最悪はまぬがれた。
ほっと一息つくまもなく、小平太は頭をかしげて長次を見る。

「違う計画って、なんだ?」

長次はちらりと白い肌と美しい容姿をもつ美青年な仙蔵を見た。
仙蔵は、長次の視線に気づいて不思議そうな顔をしている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・今は酷く難しいが、
時が経てばおのずと結果が出る・・・いや、もう・・・」

長次は目を仙蔵から離して、と文次郎が行った場所を見る。
愛しいものを守る男の姿と、黙ってついていった守られた女の姿。
長次のところに来ている時からその終末は予想できた。
ただ予想よりも早く結果が出るに過ぎない。

、頭がその人のことで一杯で、他を考えれないというのは、
それは好きだと言うのだと思うぞ。

と、長次は、誰に言うでもなく心のなかで呟いた。












2011・5・8
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