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浮気宣言1




私こと、 には、恋人で、婚約まで進めていた奴がいた。
名前を、立花 仙蔵。6年い組の天才くんにして、
作法委員の委員長な、
サラスト一位で、クールビューティーな美貌をお持ちの奴だ。
はじめは、いたずら大好き子仲間だったんだけど、
一緒に作戦を立ててやっていくうちに、
外見に似合わず子供なところとか、
天才っていうわりには抜けているところとか、
実は、部屋の掃除とかあんまり好きじゃなくて、
大雑把に置いてるだけとか、
色々な駄目な所を見ているうちに、なんでか惚れていたという。
ちなみに、あっちは、素な自分を見せれるからという理由で、恋人になった。

クールビューティで、冷静で、天才で、
武術も作戦も立てれれる完璧な立花仙蔵像を、大抵のものに抱かれている
我が恋人は、大層モテる。
老若男女にすべからくモテる。
そんな奴の彼女な私は、嫉妬、羨望の攻撃を受けていた。
まぁ、仙蔵と協力するほどの実力はもっているので、ものともしなかったけれど。
一回、仙蔵の浮気現場(結局、浮気ではなくくのいちの罠だった)
に、正座した仙蔵に、ルールを宣言した。

「おまえが浮気したら、私も浮気するから」と。

「・・・・・で?」
「だから、文次郎が私の浮気相手だ」
「なぜ、俺なんだ?」
「なぜって、仙蔵が一番嫌がる相手だからだよ。
あいつはプライドが高い。
私が、まさか文次郎と?
ギンギンで、鍛錬が恋人の童貞隈野郎と、浮気だと?
という、仙蔵のプライド、ズタズタを狙っているんだ」
「今ので俺の心はズタズタだがな」

隈だけでも暗いのに、もっと暗くなった文次郎に、
がりりと、べっ甲飴をかじりながら言う。

「私の知り合いで正常なのって文次郎しかいないじゃないか」

木の上で、学園のことを見ていた私と文次郎は、
廊下で騒いでいる彼女を見下ろした。





今、忍術学園には、菫さんという年頃で、
可憐な少女が事務員さんをしている。
別にこれは珍しいことではない。学園は、時々短期バイトを雇うからだ。
問題は、彼女が身元不明の怪しい人物であり、
天から降ってきたというエイリアン的存在なのに、
忍術学園は彼女の存在を認め、保護という対処をとっていること。
そして、ほとんどの生徒及び教師が、妖術にかかったように、
彼女を大切に思っていること。
そこには、性的感情、心愛、友情、と多少なりは違うが、
情には変わらないものがあるってこと。
統計、彼女はインベーダー的存在だ。

私も、インベーダーに、仙蔵を盗られた。
いや、仙蔵が私を見なくなったが正しい。
いや、仙蔵が菫さんを見続けているが正しい。
妖術にかかっている可能性が高いにしても、
菫さんを、甘やかし、時に優しい眼差しを向ける仙蔵に、吐き気がしたから、
宣言通り浮気をしたまでだ。

立っていた私は、飴を一回口から出し、木の枝に腰掛ける。
ちょっと木が揺れた。

「文次郎があんな腐れた感じにならなかったのは、
私が頼み込んで、一緒に、お使い行っていたから、
妖術にかかるときにいなかったから、助かったんだよ」
「なぜ俺を頼んだ?」
「荷物持ち」

一人忍たまを選べと言われたときに、
仙蔵の細腕を思い出したので、文次郎にした・・・訳ではない。
文次郎は荷物持ちではない。
一つの任務で、策士二人いてもしょうがない。
前衛で攻撃型の文次郎のほうが、
後衛で防御型の私との相性が良かっただけにすぎない。
事の真相を知っているくせに、文次郎はいちいち落ち込むから、
からかいがいがある。だからいつも私たちのおもちゃにされるのだ。

「だから、文次郎は私のお遊戯に付き合ってよ」

案に、暇だろう?という意味を込めた。
そして、文次郎は意外にこういう遊びも大好きだ。
じゃないと、私たちがこんなに遊びはしない。



仙蔵の見るか見ないところで、いちゃついてみた。
腕を組んで、はいあーんとかも、休日、二人で買い物も、
夜遊びに行ってみたりもしてみた。
噂もいい具合に流しておいた。
しかし、今のところ、仙蔵が私になにか言ってくることはなにもない。
刺したイチゴに、はちみつをかけながら、
文次郎と歩いていると横から凄い視線を感じる。

「何、欲しい?」
「・・・・・・甘くないかそれ?」
「私甘党だから。ってあ」

パクリと、私のはちみつイチゴが文次郎に食べられた。

「意外といけるな」

そういって、唇についたはちみつをなめとる。
エロイ・・・・じゃなくて。

「ちょっと私のはちみついちごぉぉぉ。
棒に刺してはちみつ比率が面倒なのに」
「ほれ、これやるから」

そういって、渡されたのは、どうみてもさっきも文次郎がごもごしていたもの。

「食べかけをよこさないでよぉ。それ、何?」
「イチゴ大福だ」

みれば、餡の中からイチゴが見える。

「どんだけイチゴ好き?」

てか、文次郎も、かなりの甘党だね。
仙蔵とか、はちみつイチゴみて凄い顔してたのに。
一回食べて、井戸へ走ったのに。
そういえば、休日も、文次郎と行った場所とか、
私が好きな場所ばっかりで、趣味あいすぎにびっくりしたとか。
文次郎の勉強教えるのうまいとか、
持っている本が意外と楽しかったりとか、
ちょっと成績あがったとか、
話してると夜も忘れるほど楽しかったりとか、
浮気してるのに、普通に楽しんでしまってる。
いや、浮気は楽しいって誰かが言ってたから、正しいのか?

じーと見ていると、隈のある目が私を捕らえた。

「文次郎って、隈がないと、意外と童顔?」
「老け顔ってさっきは言ってたよな?」
「いやー今、じっくり見たところ、ほら」

無理やりかがませて、隈をドーランで隠した。
それから、鏡を文次郎に見せる。

「あ、やっぱ童顔だ。それに、イケメン。おお、カッコイイぞ。文次郎」

そういえば、文次郎は、照れて喜んでいる。
その姿になんでか満足した私は。

「これで彼女も出来る。合コンの時は私に言ってくれ」

そう言えば、文次郎はぴくりと動きを止めて、ドーランを乱雑に拭った。

「いかねーよ」
「なんで急に不機嫌になんの?」
「彼女はいらない」
「三禁だから?」
「違う」

そういって、文次郎は私を真正面から睨みつけ、手を掴んだ。

「ちょ、ちょっと手痛い」
「俺は」


「私に恋人なんていませんよ」

文次郎の俺は後よりも、聞き慣れているはずのに、どこか違う人の声が聞こえた。
さっと私たち二人は、隠れた。
そこにいたのは、私の恋人の立花仙蔵と、菫さんだった。
菫さんは仙蔵の言葉にふにゃりと微笑み、
仙蔵は彼女の白く細い手をとって、私たちに背を向けた。
完全に二人の気配がなくなっても、私たちは沈黙したままだった。

「あーあ」

私は腕を伸ばす。
私の下には、いつ落ちたのか分からないイチゴ大福が落ちていた。、
それを拾い上げる。
5秒なら食べてOKらしい。
私のなかでは5秒しか経っていないから、OKだ。
というよく分からない屁理屈を並べて、砂を払い、口に含む。
甘いもの食べないとやってられなかった。

「あーあ浮気しても意味なかったことかぁ」
「何か作戦でも立ててるんじゃないか?」
「仙蔵が私たちの気配に気づかないわけないじゃん。
あれは、菫さんに言ったんじゃない。
私に言った。つまり、つまりさ。私は振られたんだね」

口の中にじゃりという音がして、甘いはずのイチゴ大福が、
なんの味もしないことに気づいた。

「今の仙蔵は妖術で」

文次郎が必死に仙蔵をかばうたびに。

「だからってね。許されない境界っていうのが存在してるよ。
分かるでしょう。私のポリシーは、やられたらやりかえせなのよ。
やられっぱなしっていうのは、気に食わないし」

口の中に、苦味が増していくだけだった。

「だから、傷つけられた分、傷ついてもらうんだ。
まぁ、そんなことしたら、恋人じゃないけどね。いや違うな。
もう恋人じゃないのが正しいんだ」

もう二度とイチゴ大福は食べまいと誓った。



びろーんと木の枝に足をかけて、上半身をぶらぶらしていたら、樹の枝が揺れた。
そこにおりたのが誰だか分かったので、イタズラっこの笑みを浮かべて、言う。

「嫌がらせ完了」

私の言葉とともに、菫さんの叫び声と、違う違うんだという仙蔵の声が響いた。
よっと腹筋の力を使って、枝の上に腰掛けると、文次郎が凄い顔をしている。

「えげつないな」
「私にうけた傷に比べたら甘いよ。全然甘い」

厳禁トリオと何日間一緒の任務とか、なめくじ一杯とか、
食べる物全部、甘いか辛いかで、
かなりのドジっこなところが見れたりとか、
後輩からの好感度を下げたりとか、
持ち物が全部ファンシーな感じになってたりとか、
今のは、マニアックな春画を置かれ、
ベトベトしたもので汚れて着替え用としたところを、
菫さんに見られたとか。あははは。こんなのまだ軽いよね。

あはは。と笑っていたけれど、ぴたりと口を閉じる。
あれ以来、甘いもの食べていても、
甘く感じなくなっちゃった私は、口寂しさに爪をかじる。

「まだ全然したりないけどさ。
もっと、やってやろうかと思ったけど、・・・・・・・。
菫さんに、いい顔みせようとして、かなりカッコつけしいのあいつが、
冷静の顔崩してあたふたしてるんだ。
これって、なんのバツゲーム?って奴よ。
そんなこと毎回毎回確認させられて、私が可哀想だし。やーめた」

やーめた。が、弱い気がしたから、もう一度言う。

「もうやーめた」

そう言ったら、暖かいものに包まれていた。
ちょっとしょっぱい汗の匂いと墨の匂い。文次郎の匂いだ。
私は抱きしめられていた。

「もう休め」

上から聞こえた声に、文次郎の体を軽く押す。
顔を見れば、文次郎のほうが泣きそうな顔してた。変なの。

「文次郎。覚えておきなよ。
こういうときに好きでもない女をね、慰めちゃいけないんだぁ。
友人でもダメ。そういうのは好きな子だけにしときな。
じゃないと、誤解されちゃうぞ」

ぞっと鼻をつついて、私は完全に文次郎の腕から抜け出し、背を向けた。

「付きあわせて悪かったね。じゃぁね」

とんと枝を蹴ったはずだ。
だけど、体は、行く方向と逆方向に傾いた。
文次郎が私の腕を掴んで、今度は後ろから抱きしめられている。
枝が大きく揺れた。


「・・・・・・文次郎。人の話聞いてた?」
「だから、してるんだ。馬鹿」

馬鹿馬鹿ばかばかばかばかぁぁぁ。
言葉がエコーして脳みそに響く。
え、え・・・え?思考がついていけない。
でも、彼の泣きそうな顔を思い出して、
ああと体から体温が抜け落ちる心地がした。

「いつもの台詞のくせに、もんがないだけで、
こんなにぐっと来るとは、最強な落とし技だねぇ」

おちゃらけた言葉で誤魔化して、
離そうとしたけど、今度は離す気がないらしい。
そして、誤魔化される気もないらしい。
真正面から来る奴は苦手だ。私も真正面になっちゃうから。
流されやすいんだ、私。だから後ろでちょいちょいしているだけが楽だったのに。
ぎゅっと強くなる力に、このまま放置していれば、
私の内蔵が出るかも知れないので、向きあうことにした。

「文次郎。私すっごく嫉妬しいなんだよ。
わがままだし、寂しいの嫌だし、自分にすっごく甘いの。
人を攻撃することでしか、自分を守れないよ?
全然好みじゃないじゃん。
自分を律して、自分の足で進んでいける凛とした子が好きじゃん。
勘違いしちゃいけない。同情で恋をしちゃいけないよ。
私はすっごく可哀想だけど、なんて可哀想な私の妄想で泣きまくるから。
人魚姫ばりの悲恋に、誰の手もいらないよ」

ポンポンと、私を抱きしめる腕を叩き、離せと示す。
少々緩んだものの、離される気配がない。
文次郎。脅すぞ?と最終手段に出ようとするまえに、

「だったら、俺を突き飛ばせ。そして二度と現れるなって俺に言え」

文次郎が私を脅した。

「・・・どーしてそうなるの?」

絶句した私に、文次郎が続ける。

「お前こそ勘違いしている。
俺の好みをお前に言ったのは俺ではなく仙蔵だ。
それに寂しやがりなのに、誰の手もいらないことがあるか。
おまえの言葉には矛盾だらけだ」

結構冷静なんだ。文次郎。と、文次郎像を修正しなおしながら、
たしかに、文次郎の好みは仙蔵から聞いていて文次郎本人には、
聞いていないことを思い出した。

「それと」

それ以上聞いちゃいけない気がして、耳を抑えたけれど、
文次郎の言葉のほうが早かった。

「同情なわけがあるか。
俺は、いつも仙蔵のそばで、お前を奪う方法ばかり考えていた」













2011・3・4

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