TOP 01 02

擬似的箱庭2



【擬似的裏庭】



この学園はつくられた虚像の空間。
ここには、安全、平和、道徳がある。
ここからでれば、そんなものこの乱世の世では、間違だとわかるのに、
この世界はすこぶる甘い。そんな甘さにつけこんで私は存在する。

私の名前は。それ以上は、忍術学園では必要ない。
そんな私も、この学園で相手に求められる姿を映し出しているうちに、
大層な名前をもらったモノだ。

「姉さまは、この学園の最後の慈愛ですって、もちろん私もそう思います」

と私の擦り寄ってくる猫。
もとい、鉢屋 三郎は私の信奉者にして、狂人。
私のこの世界には不必要な現実の苦さを持ち込んでも、
彼は私ならば、そんなタブーなど気にしないと、私の後ろをくっついてくる。
思えば、最初の一年の時に彼に構ったのが悪かった。
ただ、一言。一緒にくる?と社交辞令で言っただけだったのだけれど、
彼にとってそれは、救いの一言だったらしい。
人の希望である像を演じている間に私は、
誰かの心の支えになることが多くなった。

それは、一体なんのために?

もちろん。なぜ、私がどうしてこの学園にいるかの答えにつながる。
裏切り者の最後の一族で私をかくまったなどと、それは建前に過ぎない。
殿様は私が生きていることなど知りもしないしそして、私たちを裏切った彼らもまた、
すべてを消したと思っているのだ。ただ、彼らが警戒しているのは、
私たち一族に懸念していたものたちだけで。

さま」

すっと現れた山伏の格好をした体格のいい大男。
私たちの側近だった男の兄で、彼は真実を知るもう一人の当事者なのだ。

「すべて、整いました」

「そう、では、満月の晩に」

「はっ」

短い言葉を言い終わると、ぎらぎらと青い炎が彼の瞳の奥に見えた。
彼もまた私と同じ、復讐にとりつかれた哀れな男だ。
彼がいなくなって、そこに小平太が現れた。



彼の呼ぶ私の名前は、本当の名前じゃないこと、きっと言う事はないんだろうな。

「なぁに?」

私は、おおよそ私に似つかわしくない笑顔を浮かべる。
三郎曰く、天女のような神々しい気持ちになる笑らしい。
そんな、大層なものではない。
すべての気持ちを押し殺して、
すぐさまここを飛び出して、彼らを討死覚悟で、私たち、いいえ、父上を裏切った
あの男の喉元に食らいついてやりたい。

は、どこにも行かないよな?」

「なにか、怖い夢でも見たの?」

その質問には、答えられない。その代わり、彼の髪を優しく撫でた。
彼は私の腕をとると、そのまま抱きしめるものだから、
彼の胸板からは、ドクドクと心音が聞こえて、ふわりと石鹸の匂いと小平太の匂いがした。
苦しかったけれど、彼の本来の力を考えればとても力を抜いていることがわかって、
それに暖かくて、このまま浸りたい気分にかられたから、
私は目を閉じた。



暗い世界には、父上が事切れた母上を抱いて泣いている。
母上の手には、生まれて間もない私の弟が、赤く染まっていた。

”私たちが殿を裏切るはずがない。
これはなにかの間違だ。お前も言ってくれよ。
私たちは、誠心誠意込めて仕えてきた。
お前とともに、頑張ってきた!!
我が友よ。
なぜ、何も言わない?なぜ、お前は笑っているのだ?”

目の前の男がくくっと歪んだ笑みを父上に向けて、
そして、父上を切った。
鮮血が散っていく間に、父上が涙を流しながら、
前まで、優しくて面白くてお菓子もくれたおじさんに呟いた。

”ああ、そうか。お前が、私たちを、裏切ったのか”

”裏切る?何を言っているんだ。私は最初から、お前など嫌いだよ。
お前は、人らしくなくて、気持ち悪い。
それなのに、殿はお前ばかりを、尊重する。
それを耐えた私に、なにか褒美があるはずだ。
だから、罪とともに、お前の存在を消せと神様がおっしゃたのだ”

すでに事切れた父上に歪んだおじさんはやっぱり笑顔のまま、言った。

”おまえが悪なのだよ”


かっと、目を開ける。
そこは、小平太の腕の中で、温度の差に泣きたくなる。
ねぇ、小平太。私、やっぱり、復讐するよ。
あなたが、どんなに私を愛してくれても、
目を瞑れば、闇が、私の体を食い尽くす。
逃げよう、一緒になろうって言ってくれて、嬉しかった。
本当に嬉しかった。
でも私、おじさんのあの時の言葉を聞いた時から、もうまっとうではないの。
皆が殺された時に私はとっくに死んでいて、
一族の闇だけで屍を動かしているに過ぎない。
私にかせられた生とは、一族を根出しにしないこと、彼らに復讐をすること。
それだけだから、この気持は必要ない。
私は屍人だから、生者に憧れる。
強く強く光を放ちながら生きている太陽のように笑うあなたの姿に。

・・・・・・言ってもしょうがない。

だって、最後の子孫をこちらに呼び出そうと決めたとき、
時空を超えさせるなんて、そんなこと出来るの?と尋ねれば、
山伏の格好をした男は言った。

「この忍術学園は、不思議なことが起きやすい場所です。
空間の歪ができやすのです。
それと、神と契約を交わしました」

「それは、どうやって?」

私だってちょっとは、陰陽のことをかじっているけれど、そんな方法聞いたことがない。
私の質問に、彼は少しだけ間を開けから、意を決した顔で言った。

「確かに、いくら私が陰陽師であっても、時空を超えるさせるなんて技はできません。
それを行うには、多くの対価が必要なのです」

「・・・・・・もしかして」

「そう、私と、私の妻、そして、あなたに従うすべてのものの命です」

目を見開く私に、静かに彼は言った。
一言で終わってしまう言葉がこんなに重い。
彼らは命を捨てた。私の一族の復讐のせいで。
何十との数の命が私の肩に乗りかかっている。

さま。そのような顔をしないでください。
あなたが思っているよりも、私たちは、あなたの父上様をお慕いしていたのです。
だから、悔しくてならない。今でできぬなら、未来でしかないのです。
たとえ、それで命を捨てる事になっても、私たちは後悔などしていません。
むしろ、胸を張って、幸せだと言えるのです」

彼は笑ったけれど、瞳にはやはり炎が見えていて、今更やめるなんてできなかった。
私はまた目を瞑った。
やっぱり、闇が私を侵食している。

私は、復讐をする。


その時は来た。彼女・日神 亜里抄。
私の一族を私以外殺した一族の最後の子孫。
彼女は不安そうにだけど、どこか嬉しそうに周りを見て、
花のような、風のような、鳥のような、草のような、自然である笑顔を見せた。

ああ、ああ。

「私、日神 亜里抄。天女なんてそんなもんじゃないよ」

「ねぇ、ねぇ、どうして、ここは、トイレがこんなに遠いの?」

「あははは、楽しい。私、こんなに楽しいの久しぶり。
誰にも監視されないで、自由で、自分の意志でなんでもできるなんて、素晴らしいの!!」

ぎしりと、拳を握りしめた。手は白くなっていて、爪の跡が、赤くにじんだ。
だけど、笑わなくちゃ。望む姿を演じなくちゃ。
私は、最後の慈愛。そうであれば、我慢すれば、彼女は。

「あのね、秘密を教えてあげる」

「私の一族の家宝。綺麗でしょう?この箱。立派でしょう?この箱。
あなたは私の一番の親友だから、見せてあげる」

そう言われて、彼女が過ぎ去ったあと、厠で吐いた。
ぜいぜいと息を吐いて、生理的な涙が、そのまま床に涙がポタポタ垂れて、
あっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!
叫びたいのをドンと一回拳を握って、こらえる。

一番の親友だ。と言っていた歪んだ男を思い出す。
彼は幾度も父上に会いに来て、笑って楽しそうにしていた。
その様がそっくりで、さぶイボすら立っている。

笑わないで、そんな笑顔で笑わないでよ!!

堪えきれなかった。今すぐ、殺してしまいたかった。
近くにいればいるほど、殺意を抑えるのに必死で、
そんな私に三郎が言った。

「姉さま、それならば、私が」

三郎は、日神 亜里抄に近づいた。甘い言葉、キツイ言葉いろいろ使い分けて、
彼女を陥落させた。
もちろん、彼は優秀であったから、周りからは、いつもどおりの三郎であっただろう。
なにより、彼女は、プライドが高かった。
高かった故に、好きだと分かるまで好きだといわない。
そしてそれが裏目に出たのだ。
三郎は私を好いていた。誰もが知っているほど私を好いていた。
彼女は、ずっと私を下に見ていたから、それは相当な屈辱のはずだ。
案の定。彼女は周りに愚痴をこぼした。
これが最後の選択だと知らずに、親友だなんて言っていた彼と同じ言葉を吐いた。

「彼女って、人らしさがないね。気持ち悪い」

彼女は、自分で運命を決めた。
最初から決まっていたけれど、そういえば、少しの罪悪感なんてさっぱり消えて、
目の前のことだけできるから。

もちろん、それから忍たまから攻撃を受けたけれど、
彼女の傍にいる時よりも幸せであった。それに、私が6年間かけて、
私を慕う人たちの確かな鑑別もでき、
何も対策を練らない学園に不信感を抱き、私についていく感情を高めた。
それも、三郎が、
「学園の全てがおかしい。
それはすべて日神 亜里抄がやったことだ。
皆が慕っていた姉さまを迫害しているのも彼女の仕業だ」
と風潮してくれたおかげなのだけれど。

すべてがとんとん拍子で進んで、カウントダウンは数えられていた。
それなのに、
時々こちらを見る小平太の視線に、ドキマギしていた。
・・・・・・嫌われたくはない。
すべてを話したけれど、実際見るのと聞くだけの差は大きい。
きっと私の本当の姿を見れば、彼は私を嫌う。

ああ、なんで、なんで、私は。
私はこんな弱いのだろう。
こんな箱庭の空間など、優しくて、暖かくて、大嫌い。
そこをでれば、世界がいかに寒くて、辛いかわかっているから。
これから先、闇しか残っていないと知っているのに、
なんで、ちょっとした光を見てしまったのだろう。

小さな声で、壁に頭を預けて名前を読んで、来てくれたら、
なんて思っていたら、やっぱりこの空間は虚像らしい。
彼が立っていた。
そして、あの時のように手を差し伸べた。

「逃げよう!!私と一緒に」

涙が頬に伝わる。もう進んでしまっているのに、最後の最後であなたが邪魔者なんて。

「愛してるんだ」

その言葉は卑怯だ。きっちり締めた思いを解かす。
手をとろうと、伸ばしかけた手に、彼が開けて入ってきた後ろに真っ暗な闇が見えた。
月を飲み込む、闇が見えて、手を戻した。
それから、一回目をつぶって、私は笑った。
きっと、あの男と同じ歪んだ笑みで。

「いいえ、私は愛してないわ」



私の人生は、すべて復讐に取られた。
これから先も同じだろう。
そんな私が望むことは、私の子どもが、こんな道を行かなくていいように、
私の代ですべて終わらすこと。

日神 亜里抄が帰るらしい。

「神様に、箱を渡したから、帰れるんだ。これが代償なんだ。
ごめんね、本当のこと言えなくて、これを捨てたら、家族が怒って私を嫌うなんて、
そんなこと思っていたの。馬鹿よね。
私家族なんて嫌いだけど、本当は・・・・・・・。
ううん。これはどうでもいいことだよね。ありがとう。楽しかった。
私のことちょっとぐらい忘れないでね?」

なんて、最後に茶目っ気の笑顔で言う。
馬鹿を言うな。お前が来ることが、そんなものの訳がない。
もっと、もっと大きくて、もっと大事なものだ。
私たちはそれにすべてをかけたんだ。
彼女が穴に近づくに連れて、私の心音は大きくなっていた。
近くでは三郎が、じっとその様子を見ていた。

私は胸元の入っていた札を、彼女が帰る前に放った。
空間を閉じる札は、山伏の格好をした男が書いてくれた。
もちろん、彼は今まで共にいた山伏ではない。
彼の子供だ。
「恨んでいる?」
と聞けば、
「父と母が望んだことです。それを恨むなんてお門違い。
むしろ、私にその後を見せてくれる役目を預けてくれたことを感謝しております」
彼は、彼女が神様と勘違いして、渡された箱を手にしている。
その後ろには、時空を超えさせるために犠牲になったものたちの子どもたちが見ていた。

パリパリと音が鳴り、光が見える。

これで、最後だ。と小平太を一回見て、下を見てから、まっすぐ背を伸ばした。
私の復讐を、ちゃんと見ていて、私を嫌いになって。
そして、私を忘れないで。
嫌いも好きも紙一重。記憶に残るものだから。

誰だと叫ぶ食満に私はあの歪な男と同じ笑みを見せた。

すべてを吐き出して、私の過去、私の復讐私の全てを言えば、
すっきりした。山伏が、箱をもって、私のそばに来る。

「これから私はどうなるの?」

どうなるの?それは私だって同じだ。
いつ消えるか分からないことを考えながら生きるのは怖いだろう。
それも、私だって同じ。
裏切り者の最後の子供として、バレたら、殺される。
この箱庭をでれば、そんなことざらにある。
あなたは、自由を勘違いしている。

自由は、いつでも不自由な選択を余儀なく叩きつける。

私も選択した。あなたも選択した。
自由であるから。それが間違いなんてどうでもいい。
崩れ落ちる彼女の姿を、今度は、あの父上母上みんなを殺した男の姿にかえる。
それが私の選択だから。
決意して進む道にかつての旧友。
あらあら、と思って、この6年間の集大成の、彼らを出せば、
なぜか、その中に、小平太が入っていた。

なんで?

動揺を隠すために、一回息を深く吸い込んだ。

「何している。小平太、長次、そこをどけ!!」

「文次郎こそ、何を言っている?おかしいよ。
私たちはに助けられていたのに、裏切ったのはそっちだろう?」

いいえ。裏切ったのは、最初から私。
このためだけに、この学園に来た。この時のためだけに皆に優しくした。
私は悪なのよ。
だから、綺麗に光っているあなたには、違う道を選んで欲しかった。

「待て!!お前は何をしようとしているのか分かっているのか!!」

分かっているわ。私の横には、小平太がいてにかっと同じような笑顔で笑って、
私の手をとる。

が、逃げないなら、私も一緒にいる。
すべて終わったら、子供を作って、一緒に幸せになろう」

私は最後に、自然に笑った。
このあとの道がいくら茨でも、小平太がいっていることが、
生ぬるい学園と同じ虚像の希望であっても、
この手があれば、私は、悪でも構わない。













2010・3・21
【擬似的箱庭の主人公視点変え】


BACK  TOP

-Powered by HTML DWARF-