【ブサメン】



「・・・・・・」

「・・・・・・」

赤羽と書かれた長屋前で、二人の男が出会った。
二人は、彼ら自身を眺めて、一人は呆気に、一人は睨んでいた。

「あんた何してんですか?」

「そういうお前はなんでここにいる?」

「わた「言うな。お前は純粋無垢華麗な大吾を狙いに来たんだろう。この泥棒猫!!」」

「泥棒猫って、立花先輩の姿でしょう?」

三郎はとうとう突っ込みたくない部分に突っ込んだ。
立花仙蔵は、クールで女男関係なく泣かせていた男のはずだ。
なのに。と視界に毒だったので、目をそらしたが。

「ふふん。これは、ぷれぜんどだ」

その言葉で、その恰好を再度確認することになった。
立花仙蔵の恰好は、頭に黒いネコ耳をさし、シッポも黒で、そのこ赤いリボンを付けている。
どうしてその恰好が贈り物になるのか、さっぱり分かりたくもない三郎は目の前の物体を
無視して、襖を開けようとしたが、なぜか仙蔵に手を掴まれた。

「昨今、お前相手をしていた大吾に、胸を再度討ち抜かれてな。
可愛いと思っていたのに、恰好いいとは卑怯だ。だから、私は思った」

「・・・手を離してくれません?」

そのまま手をつないで、襖を思いっきり開ける。

「どうか、私を食べてください!!」

「・・・・・・何バカなことしてるの?」

座布団の上に座っていた伊作が、仙蔵の浮かれた姿に、冷たい視線を投げかけた。
三郎は、自分が巻き込まれたことに気づいて、すぐに手を無理やりはがせば、
後ろから声が聞こえた。

「おー立花に、鉢屋に・・・・・・立花?なんだその恰好」

「え、あ、あの、これは」

「まぁ、分かってる。潮江へのサプライズだろう?
俺に確認取らなくても、似あってるぜ」

そう言われた瞬間、もじもじさせていた仙蔵はその場でへなへな床に座り込んだ。

「あれ?早かったね。終わったの?お返し」

その言葉で、三郎と仙蔵の耳が大きくなった。

「うん?まぁ、俺はブサイクだからな。3倍がいけない相手は一人だけだし」

「あ、あいては!!」

「おっと、なんだ鉢屋。気になるのか?」

「はい、めちゃくちゃ」

「うーん、だけど、義理だぜ。ほらコレ」

義理と大きく書かれたハート形のチョコに、三郎は、大吾の鈍さに感謝した。
ハートの形は歪で、手作り感たっぷり、そして、どうみても義理の文字は、手書き。
渡した相手に合掌しながら、三郎は、持ってきたものを大吾に渡した。

「ん?なんだ。これ」

「なんだって、前回のお詫びと私の好意です。受け取ってください」

渡そうとしたものは、横にいた仙蔵に奪われた。
が、横にいた伊作によって、再度大吾の手に渡った。

「何をする。伊作。大吾が害虫に!!」

「君以上にしつこくて寄り付かないでほしい害虫はいないよ。
自分は渡すこともできない癖に、渡す相手に嫉妬するのはお門違いだ」

と二人が喧嘩しているが、大吾は二人を気にした様子はなく、
受け取った三郎のチョコをじっと眺めている。
その間、三郎は気が気ではなかった。
なんでもないふうを装って、なんて言えばいいのか、なんて返されるのかを
何十回も頭の中で組み立てていたのだ。
ふっと顔をあげて、大吾が三郎を見た。三郎はつい何を言われてもいいように身構えると。

「・・・・・・三倍返しはいつすればいい?」

そう言って、目の前のブサイクはくつりと笑った。









【痛い女】



「はい、チョコ」

ダメくのいちこと、吉野ルキは、この日のために失敗した数20個の中で、
一番いいものを一番大好きな人物にあげた。

「・・・・・・ありがとう」

「あ、あれ三木ヱ門どうかしたの?」

しかし、まったく元気がない愛しの人田村 三木ヱ門に、なんか失敗したか、
もしかして、料理が下手なのがばれたか。
こ、これから、料理も頑張らなくちゃ。おばちゃんに弟子入りして、特訓とか
思っていれば、後ろから二人の様子を見ていた平 滝夜叉丸がルキに声をかけた。

「吉野お前、今日が何の日か知っているのか?」

「滝くん私はそこまで駄目じゃない。あれでしょう?恋する乙女のなんのそのでしょう?」

「なるほど。では一か月前の日は?」

「お世話になった人に贈ろうチョコ会社の陰謀ディーでしょう?」

「だと、良かったな。三木ヱ門」

そう言った瞬間。三木ヱ門は、ルキに抱き付いた。
それから、三木ヱ門が貰っていないが、貰ったと思いこみ作ったチョコを貰い、
もちろんその後、三木ヱ門のほうが料理がうまいことが分かりショックを受けるのだけれど、
二人は、馬鹿プルよろしくに、互いのチョコを褒め合った。

あー悔しい。なんで、こんなに三木ヱ門のチョコ美味しいの!!

バレンタインの日、僕が、どんな気持だったか。
ルキの馬鹿。だが、そこも可愛い!!チョコも美味しい。









【きらい、きらい、だいきらい】



「いらない」

「いらないものを、貰って喜ぶ女性は少ないと思うよ。綾部くん」

と、言いながらも、目の前に置かれたものに、朝桐 夜霧は心躍っていた。
どこで拾ってきたのか、ちょっと土で汚れている
綺麗な青みがかったビードロの小さな瓶だった。
彼女は、綾部がいなくなると、それを布巾で拭いて、ふーと息を吹きかけ、
外へ出て、太陽に当て、キラキラ光るさまを美しいとうっとりと魅入ってるときだった。

「夜霧」

名前を呼ばれて、そちらを向けば、いつもの素敵な笑顔の利吉が立っている。
しかも、後ろに大きな箱を持って。

「どうぞ・・・で、なんですか。コレ」

夜霧は、お茶を横に置くと、その利吉さんの違う横に大きな箱が置かれている。
最初は存在を無視しようとしたが、気になってしょうがない。

「今日は、ホワイトデーだろう?三倍返しって、小春さんから聞いたんだ」

「三倍返し!!」

夜霧は、確かに、ホワイトデーが三倍返しなのは知っていたが、自分が上げたのは、
手のひらサイズだ。利吉さんの大きさは、確実に、三倍ではない。
三十倍だ。

「あ、あの利吉さん。それは、みんなの分ですか。あはは、もてますねーこの」

みんなの分で三倍でその量なのだろう。凄い律儀だ。と思ったのもつかの間。

「何言ってるんだ。夜霧。これ全部夜霧のだ」

そう言って、ぱっかと箱を開ければ、全部夜霧の好きなお菓子から食べ物が
ぎっしり詰まっていた。

「!?」

その量に驚いて、いえいえ、そんな三十倍じゃないですか。照れなくていいですよ。
との言葉が出ない。

「ああ、足りないか。確かに足りないとは思っていたんだ。
夜霧から貰ったものの三倍はこれでは、すまない。ちょっと走って」

どこかへ走りだそうとする利吉の肩を脱臼するんではないかと思うほどの力で夜霧は
掴んで叫んだ。

「いえいえいえいえいえいえ。めっそうもない、こんな多くって困、いえ、
すっごく嬉しいです。利吉さん」

そう言えば、利吉は、嬉しそうに、目を輝かせた。
それから、夜霧の好物への戦いは始まった。












【間の悪い男】



”ちょこれいとう禁止につき”

5年は組にいつの間にか、張られている紙に志藤は首をひねった。

「なんで、ちょこ禁止って書いてあるんだ?」

木籐と、藤野に聞けば、木籐は嫌そうに、藤野は至極愉快そうに。

「木籐に聞かないで」

「あはははは、なんでだろうな?」

ごまかすなよと言おうとするところで、
ガラリと開いた扉に席に着けば。

「みなさん。授業始めますよ」

5年は組の教師である篠神 悠一郎が、右頬を腫らしてそこに氷をあて、
包帯をぐるっと縦に頭に巻きつけている。

「・・・・・・その顔どうした。篠神」

「とうとう奴の陰謀ですよ。私はちゃんと歯磨きをしていたのに」

「・・・・・・お前」

子供さながらの言い訳をいう、篠神を哀れな視線で、眺めていると、
峰が立ち上がり言った。

「先生が、あの、甘いもの命の先生が、甘いもの断ちしているんです。
こういうときこど、先生と教え子の絆。志藤、分かってくれますよね」

「・・・・・・・・・」

何を分かれというのだろうか。いや、言わんとしていることは分かる。
つまり、俺にも甘いものを作るのをやめろということだ。
なんで、俺の生きがいをこんな奴にとちらりと見れば。

「見てください。こんなに痩せちゃいましたよ」

ほらといいながら、体を生徒に見せている。
木籐が、うわっといいながら心配げに言う。
「てか、ご飯食べなよ」

藤野が、笑いながらやっぱりどこか心配げに見ている。
「いい歯医者紹介してあげますよ。割安で」

峰に向き返り志藤はため息を吐いた。

「しょうがない。篠神、雑炊作ってやるから」

「ええ、本当ですか?志藤くんの手作りならなんでもいけます」

そんな、こんなで、甘いものを徹底的に遠ざけた結果。
彼らにはホワイトデーというものがありませんでした。











【嫉妬する男】




「どう思う?」

目の前には、綺麗にピンクの紐に白い包装紙。
可愛すぎる見た目に、それを目の前に出された。

「どう思うって、それをあげるの?」

「だって、今日はホワイトディーという、男がチョコあげる日だろう?」

一か月前にチョコあげて、なんでくれるのかという疑問に、
今日という日を教えた私は馬鹿だ。
あげるのの最後の言葉を三郎くんにを、飲み込んだ。
自分で言って自分で傷ついているなんてざまぁない。
私はそれでも信一郎さんが好きだと公言したけど、ちょっと泣きそう。

「だけど、信一郎さん。
それは、女の子から男にあげて、男の子がその子に返す日なんだよ?」

だから、やめてほしいなんて、言えずに、遠回しに言う。
忍びの授業では感情を顔に出さない方法があるのだという。
だったら、私は授業を受けなくとも、大丈夫。
今の私は呆れた顔をしているだけ。
悲しいなんてちぃっとも分からない。
少なくとも、信一郎さんは分かっていない。
んーと、手の中のものを見つめている。
捨ててやろうかなんて黒い私がにょっと出てくるの同時に、
私の視界に白と十字のピンクとリボンがめいっぱいに広がった。

「うん、分かってる。だから、はい」

「はいって、え、これを私に?」

「そうだよ。くれたじゃないか。チョコ。だから、三倍に増やして」

リボンをとって、白い包装紙をあけると、白とピンクのちりめんの紐を
数十枚もの花弁にして、真中に小さな丸を描いて黄色の細い紐。
菊の形をしている花細工から、垂れている三本の糸には
赤いちょっと大きな玉と白い玉を連なっている。

「わ、わわわ、可愛いなにこれ、え、髪飾り?」

「付けてみて」

「え、あ、はい。どう?」

しゃらんと、三本の糸についている玉が鳴った。

「うん、よく似合ってる」

信一郎さんは、その髪飾りをつけた私を見て、上機嫌に喜んだ。
うう、駄目だ。さっきまでは、乙女の気持ちが分からないなんて!!
と非難げな私の気持ちが、昇華される。

「・・・・・・信一郎さんって、女好きだったら、ホストになってる。この、モテ男!!」

頬は真っ赤だ。どうしようもない。ちょっとくらい嫌わしてくれてもいいものの、
この人は、まったく。
まったく、まったくだ。
照れたのがちょっと恥ずかしいから、うおーと体当たりしてみた。
簡単に受けととめられて、上からあははと乾いた笑いと小さなつぶやきが聞こえた。

「本命には相変わらずだけどな」

笑顔がちょっと寂しそうだから、そのままぎゅっと抱きしめた。



帰ってみれば、小さな包装紙が置いてあった。
緑色したその中には、

「あいつって、・・・・・・本当に恥ずかしい奴」

別れたんだから、くれないかと思っていたのに、
チョコだって誰にも見つけられた痕跡もなく奥に眠っている。
バレンタインが愛を告白する日というのは、あの女が来る前から忍術学園にはあった。
ホワイトデーもある。
彼が昔のように部屋をあさってくれれば、発見して喜んで、好きだよ三郎って言って、
その場でいつも倍返しだったから、
ホワイトデーということを知らないとばかり思っていたんだけど、

箱の中は、一面に私が彼に唯一好きだと言ったもの。
月見草
夕方咲き、朝にはしぼむ花。沈黙の愛














2010・3・14