探して見つけ出したときには、彼女の雰囲気は変わっていた。
何かを諦めていた目が、覚悟を決めた目になっていた。

「こんにちわ。三郎くん」

やや少し頭をかしげて私を見る彼女に、泣きそうになった。
私は、入学して少し経ったときに彼女を知った。
なぜなら、彼女は自分の親友の幼馴染で、そして依存者だからだ。
彼女は普通の体と普通の顔をしていたが、どこか人と違う匂いをさせていた。
観察していくうちに、彼女が自分に良く似ている存在だと気づいた。
そして彼女もそれを知っているだろう。
私と目が逢うと手を振って答えた。
彼女の世界の中に、不破 雷蔵という名前と友人と私の存在も入っていたのだろう。
どうでもいいと思っている人たちよりも私にきつくあったから。
彼女の愛は、どちらかというと鞭が強いのだ。
好きなほど棘が出る。そこは私と逆で面白いと思ったものだ。

私は が嫌いではなかった。
きっと雷蔵のことを抜きにしても嫌いではなかった。
得てすれば、愛情に近いものすら抱いていたのかも知れない。
だから、私は雷蔵の顔を被ったのかも知れないと思って、自嘲した。
何年間も考えてきた問題の答えは解けていない。
そういうことだ。気づかなくても良いものもある。

挨拶をされたから、挨拶しかえした。
彼女は、そう人はちゃんと挨拶しなくちゃね。
マナー違反よね。とよく分からない言葉を交え笑っていた。
くだらない言葉を喋って、本当は聞きたいことをなかなか聞けない。
今まで何してたんですか?一週間探したんですよ。
雷蔵と愛子はどうするんですか?
私、見てましたよ。あなたが倒れる瞬間を、あなたが最後に口にした本当の言葉を。
どうするんですか?
は、近頃出来た美味しいうどん屋の話に変わっていた。

「そうねぇ、私はうどんよりも蕎麦派なのだけど、文次郎はおにぎりだって言うのよ」

「ああ、あの人は馬鹿ですから。鉄分と鉄を勘違いする辺り」

「そうね、彼一年の時、先生の煙幕みて忍びは消えれるって信じていたのよ。
アレは笑ったわね」

あはははは。と笑いあう。違う。私が聞きたいことは。

「ねぇ、三郎くん」

「なんですか?」

「私がいなくなっても、三郎くんは雷蔵の傍にいてあげてね」

「え?」

「もう、後私は一年もない間に卒業するし、あなたたちにはもう一年あるんだから
お願いよ?」

「あ、ええ」

なんだ。そんなことかと頷いてしまった私はどこか焦っていたのかも知れない。
気づけたはずの彼女の真意に気づかずに、
風の噂で潮江先輩と先輩の婚約の話を聞いて、ようやく気づいたのだから。


「どうして、先輩」

「どうしてって、三郎くん私に言ったでしょう?私なら雷ちゃんを救うことが出来るのよ」

とても満足そうな顔で笑うから、私はあの時の言葉が嘘だったんじゃないかと疑ったけれど。
「私を見て、行かないで」
と、確かに彼女が言った言葉を知っているのは私だけなので、
そしてもう言われることがないので、私だけは一生忘れてやるもんか。