カチコチカチコチ、この世界では時計もなければ短針長針なんてありやしないし、
時刻をちゃんと目に映せるものなどありはしないのに、
私には確かにその音が聞こえた。

「雷ちゃん。今度のお休みだけれど」

彼はとても困った顔した。その顔を見て私は、
「雷ちゃん。そういえば、あなたの友達が」と話を変えてみた。
困惑した顔をどうにか隠して笑っている幼馴染の姿を見て、
神様の奇跡とやらの威力を見せ付けられた。
雷ちゃんは次のお休みは愛子ちゃんと5年のみんなで町に出かけていた。
私は、ぼうっと友人の愚痴を聞きながら、
そうねそうね甘いものが食べたいと言い彼のとっときの饅頭を口にした。
修正修正上書き修正上書き。
私の数年分がすぅっと音も立てずに消えていく。
雷ちゃんと愛子ちゃんがこのごろセットになって、朝昼夕がどれか一つだけ、
三日に一回。五日に一回。一週間に一回。どんどん距離は開いていく。
その姿に悲しいと言うよりも、私は嬉しかった。
彼が私に抱いている感情が憧れだと言うことに気づいたのはいつだったか、
それなのに私の興味のせいで毒を与え続けて、私のことに関して
彼が狂ってしまったのを見ていたから、
コレで正常に戻れるかも知れないとどこか思っていた。

だから、彼が私を見る目が助けを求めていても放っておいた。

私の感情も変化していく。
最初は面白いこと。次は彼が元に戻るように、その次は。
私の感情の変化していく中で、彼は悩んだ。
元より悩み癖のある子だったけれど、とうとうある日彼は悩みすぎて
倒れてしまった。彼の友達である三郎くんに私は怒鳴られた。

「あんたのせいで雷蔵が!!雷蔵が悩んでるんじゃないか」

怒鳴って喚いて、何も言えずその姿を見ていれば彼は崩れ落ちて私の足に縋りつき
小さな声で言った。

「私じゃ駄目なんだ。あんただけが、雷蔵を救えるんだ」

私は、三郎くんが好きだった。
恋愛感情ではなく、純粋な好意だった。
彼もそれを薄々感じていて、彼も同じ感情を抱いていてくれたのだろう。
雷ちゃんのことに関して暴走する彼は、女でも関係なくて、
前雷ちゃんに迷惑をかけたストーカー女を思いっきり蹴飛ばしていた。
だから、彼が私を殴りも蹴りもせずただ縋るだけなんておかしい。
結構気に入られていたみたいね。と遠い目でその姿を見ていた。
好きな理由は簡単、彼が少しだけ自分に似ていたそれだけ。
人に執着する。そのくせ人を拒否する。
それが本質である私達はどこか人を信じていない。
彼と私を別ったのは、環境と人だ。
彼は、人に執着して受け入れる術を手に入れた。
私は、人に執着して捨てる術を手に入れた。
それがごく微妙な差に結びついた。
私はちゃんと人に為っているだろうか?このごろ自信がない。
すっと襖を開ければ、善法寺君からの視線が強い。
そうね、愛子ちゃんが好きだったあなたは、
愛子ちゃんと彼の邪魔をするものは許せないのね。
愛子ちゃんの強い眼差しを受けても、何か言っててもどうでも良くて、
寝ている雷ちゃんの額をそっと撫でた。

「ごめんね」

音にならない言葉は誰にも届かなかったけど。
私の感情も変化していく。
もう、悩まなくてもいいのよ。
私のことを放って、ちゃんと憧れの「好き」から一人の女性への「好き」へ
移動していっても、大丈夫。
元から私達は恋人同士じゃなかったし、あなたは自由よ。
私は、普通でも異能者だから、感情を封印する術なんて知らないけど、
失恋の対処の方法は色々知っているから。

ああ、それにしても、私はいつから彼を幼馴染から、面白い対象者から、
愛しい人としてみていたのだろう?

私の感情を初めて話したら、友人はバカモン知ってたと言って傍にいてくれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・なーんだ。
こんなにも簡単なことだったのね。三郎くん。
他の人を拒否するんじゃなくて受け入れることは。
嗚呼。どうしてかな、嬉しくて悲しくて心が痛くて涙が出た。

今度会ったら、私は彼に言葉をあげよう。
最後の最後は毒じゃなくて薬。
あなたが正常になってこれ以上悩まなくていいように。
あなたが私に望んだ言葉をあげよう。
ちょっとは悲しむかもね。でも姉離れしなくてはいけない。
あなたは愛されているから大丈夫。みんなが癒してくれるわ。