遠くで聞こえる祝福の声。
とうとうくっついた彼らの姿を一人遠くで見ていた。
文次郎は今日は会計委員会。
だから、体を小さくさせて、彼らの話に耳を傾けた。
愛子ちゃんと雷ちゃんが恋人になったらしい。
良かったと安堵するほうが強い。
もう私は私を偽らないで泣いても良いと思う。
未来は変わった。その事実だけで、私は満足だ。
光が少しだけ入ってくる窓に私は決意を決めたときのことを思い出した。
フリーズして一週間眠りについたときのことを。
夢を見たことがない私は夢という情報を知っていても経験をしたことがない。
いいや、ある種夢を人の倍経験しているのかも知れない。
誰かの過去・未来・現在。人の経験。人の願望。全て見ているのだから。
夢を見たことがない改め、夢しか見たことがないということを考えていた。
いくつもの連なった画像と箱が一杯ある空間。ふよふよと漂う私の姿。
私が自由に彼の夢を選択する狭間と呼んでいる場所に彼は存在した。
真っ白なボロボロの大きな一枚布を体全身に巻きつけて、同じく真っ白な髪をしていた。
目が確認できないほど長い前髪なのに、確実に私を睨みつけていることは分かった。
「こんにちわ」
マナーはちゃんとしなくちゃね。私は初めてあう人への言葉を彼に贈った。
彼の視線を強くなったように思える。
「君はなに?僕の管理下にいないなんて、なんて存在?」
誰か分からなかった彼はどうやら愛子ちゃんを愛した神様だったようだ。
まぁ、私神様見るの初めてなんてうそぶく。
前見ていたから実は誰か知っていたけれどね。
何も答えないことに彼は不機嫌にもならずに言葉を続けた。
元から私に答えを求めていなかった。
「なんてバグ。この世界でみんな僕の言う通りになるはずなのに、
君というイレギュラーのせいで狂ってしまった。
消してしまいたいのに、君の存在は僕の管理下にいないから
消すことも出来ない。君に関しての他の人物の感情も支配できない」
すっと、彼の口元が歪んだ。
「君はなに?僕と同種なわけないよね?」
「君はここに来れるだけで、君は枠から外れただけで、僕と同じなわけがない。
だって、僕は唯一だもの。神様だもの。
君は僕のように人を支配することなんて出来ないでしょう?
君は僕のように世界を支配することなんて出来ないでしょう?
邪魔だな、君。僕の愛した子が幸せになれない。さっさと譲ればよかったものの、
君は僕の作り上げた世界を壊そうとした。それは許せない。
僕は君が嫌いだ。どうしようもない。今ココで殺したいほど。
でも、ココで殺すとどうなるか僕にも分からないから、生かしてあげる」
全て言い切った彼は、ねぇ、とようやく私に答えを求めた。
私は、彼の言葉に目を見開く。
ああ、嗚呼嗚呼。なんて勘違いをしていたんだ私は。
私の様子を見て彼はようやく顔を歪めた。人らしい感情で。
「君はなんなの?嫌いでしょうがないのに、
僕に捧げられたら傍に置いてもいいなんて思うなんて、よく分からないよ」
そうだろう。だって、あなたは私と。
口が彼の知らない事実を告げようとして、私は闇に呑まれた。
長髪で見えないはずの髪が、私に手を伸ばそうとして、
揺れて彼の目が見えた。自然界でありえない色赤珊瑚の色。
神様と名乗った彼の瞳が揺れているのが分かった。
黒い空間の中をふよふよと漂っている。
時間の感覚も重力も自身の感覚すらない。
闇ばかりの空間で、私は自分が操作していた能力を解放した。
目を凝らして黒を眺めれば、一本の糸くずが見つかって、私はそれを思いっきり引っ張った。
しゅるしゅると音を立てて私の周りを囲っていた黒が消えて、
見れるはずの情報・映像・音声私の目に脳に耳に全てに伝わる。
答えが見えて、泣きたくなった。
ああ、ああ。そうでしょう。人が神に敵うわけなどないのですから。
彼は彼は・・・・・・。
でっかいスクリーンに映っているのは、ボロボロの白い服を着た少年。
神と名乗った赤珊瑚の目をした雪のように白い髪をした少年。
彼は、光の差さない場所で囚われて狭い世界で、愛されたいと望んだ。
手を伸ばせば、届く距離に唯一彼に笑顔をくれた人がいた。
彼は彼女に愛されたくて一生懸命、力を求めた。
求めて求めて求めて、強くなりすぎた彼は、唯一に裏切られ、暴走した。
力に溺れて力に支配されて、彼はその世界を喰らいつくして
自身の力でまた世界を渡っていった。彼は世界を人を全て操れた。
だから、自身を神だと思い、愛子に出会い、昔の自分の夢を託したんだ。
ああ、つまりそういうことだ。彼と私は同種。
ただの異能者だ。だから、彼は私を消せないし、彼は私を生かした。
だって、ねぇ。私の存在を知らないものが、本物の神のわけはない。
そして、ねぇ、神様。あなたは残酷だ。
私の存在も彼の存在も認めたうえで掌でコロコロ転がして笑ってる。
だから私に、見えなかったはずの私の未来なんて見せるのね。
もうこれ以上必要ないはずの能力をあげるのね。
ねぇ、神様。あなたは私をどうしたいの?
彼のように狂って、神まがいにさせたいの。それとも。
いいえ、そんなことどうでもいいのね。
あなたは私と同じ面白ければいいのだわ。
胸糞悪くて、その世界を放棄した。
自分の力で浮上していく。昔できなかったことが色々できる。
おめでとう。スキルUP。
ありがとう。最悪だわ。
おめでとうを言っている人物が分かって、未来を無理やり知らされて
私は彼と同じように神様にはならないだろうと決意した。
確定私神様大嫌い。