今日が明日か昨日か分からない。
心配そうにみやる顔が誰だったのかも思い出せない。
僕は、最愛の人に嫌いと言われた。しかも大嫌い。
悲しいのに涙が出ない。
好きは憧れだから、と言われて待っていたのに、ずっとずっと大好きで
誰かのものになるならその人を殺してでもあなたを愛していたのに。
ああ、でも今僕を優しく抱きしめる人がいる。
柔らかくて温かくて甘い匂い。
ちょっとだけ姉さんに似ていて、ドキドキする。
いいや、僕は姉さんに似ているから彼女にドキドキしているわけじゃない?
じゃなぜ?
それは、だって。
姉さんの声が聞こえた。
「ねぇ、雷ちゃん。いまここで私かあの子か選べないでしょう。
昔なら選べたのに、それがどういうことか、分かっているでしょう。
私の気持ちは憧れでしかないこと、分かるでしょう」
違う。僕は姉さんが好きだった。憧れなんかじゃなくて、いいや、違わない。
僕は姉さんを忘れていった。それが嫌で、へばりついていただけ
つまり、つまり僕は選択したんだ。
本当に?分からない。本当は?分からない。
僕が二人いていがみ合っている。
「大丈夫。もう何もかも忘れて眠って」
上から聞こえた甘い甘い毒のような言葉に、少しだけ抗ったけど、
最後には目を瞑っていた。
「ねぇさん」
幼い僕が笑っていう言葉。なんて羨ましい。なんて妬ましい。
僕もと行こうとすれば、誰かが僕を抱きしめて、
「私を見て、行かないで」と言ったから、僕はその人を強く抱きしめた。
自分の気持ちがぐちゃぐちゃでひどいことになっているけど、
僕は、その人が運命の人だと分かったから、この人を一生愛せる
自分の命を捨てても惜しくないと思えるほどだったから、
僕は彼女を捕まえて愛を紡いだ。
「好きだよ」
捕まえた少女は顔を赤くして涙を流して私もと言って涙した。
僕はこれが正解なんだと、笑って彼女の髪を撫でて、
それから・・・・・・誰かを忘れていく準備をした。
幸せそうな少女と周りの友人の祝福に、隠れた真実に彼は気づかなかった。
夢の中にいたのだから、誰か分からない少女を捕まえたとしても、
現実で目の前の捕まえた少女とイコールではないことに。
愛子は、その言葉を言ってはいなかったことを。
言ったのは違う忘れようとした少女だったことを。
不破 雷蔵と神に愛された愛子が結ばれたその日、
くしくも今日この日が、約束の日だった。