雷ちゃん、幸せになってね。私、あなたの幸せを祈っている。
なんて言葉を吐ければ、私は彼をちゃんと諦めたことだろう。
何年間の毒曰く愛は私にも侵食していたようで、なかなか言うことが出来なかった。
だから、こういう機会を設けてくれた神様に
「良い迷惑だ」と言ってやった。

不思議なくらい上手くいく任務。
昔から一緒だったから癖がよく分かっている私達だからなりえた技。
だけど、昔と違く二人の間に会話はなくて、時間が経てば経つほど
居心地の悪い空間だけを作り上げていくのに、
もう少しでお別れなのが寂しくなった。
自分から離れたのに馬鹿ね。と苦笑して、
目の前のふさふさと大きな茶色の髪が揺れるのが止まった。

完全停止して足を止めたから、私も止まった。


ゆっくりとこちらを振りかえる。
大きな茶色の優しい色は緊張のためか、少しだけ目じりがきつくなっていて、
三郎くんのようだったから、「以上鉢屋 三郎でした」と言ってくれないかと期待したけど、
私を呼ぶ声で彼が彼だと分かり示された。
いくら三郎くんが上手くてもこんなに苦しくて、泣きそうで、痛い音色は出せないから。

「どうして、どうして?僕が悪い子だから?
良い子になるから、だから、僕を捨てないで」

縋ってきた手を振りほどけないで、私も泣きそうになった。
ごめんなさい。これは甘く、苦い私の罪、私の罰。

私は普通。たった一つを除けば。
私は異能者。夢を渡れるの。
そして、一週間の夢の中で私は、真実を見た。
だから、あなたの手を掴むことは出来ない。
そのくせ、あなたを愛してしまったものだから、
もう離れていいの。愛子ちゃんと幸せにと言うことも出来ない。
けど。
後ろにいる人に気づいた。
色々な人に囲まれて、私はこの舞台を創っただろう神に嘲け笑った。
所詮、私もあなたも誰かの手の中にいるのに。
勝ったとばかりに喜ばないで頂戴。私が負けたのは、運命よ。

縋り付いて来る手を離して、真実を口にしましょう。

「雷ちゃん。私のこと好き?」

「好きだよ」

「そう。だけど駄目。分かるでしょう。私と愛子ちゃんへの気持ちの差。
だから、駄目なのよ」

「っなんで僕は」

「ねぇ、雷ちゃん。いまここで私かあの子か選べないでしょう。
昔なら選べたのに、それがどういうことか、分かっているでしょう。
私の気持ちは憧れでしかないこと、分かるでしょう」

真実は彼を、私を傷つけた。
崩れ落ちた彼。
私は、緑色の不機嫌そうな顔を追いかけようとして
最後まで残っていた左手を振り払うことが出来ずに。

「だからね、私雷ちゃんのこと大嫌いなの」

言葉ではらった。
それで、終わり。