神様神様神様。なんで、どうして?
神様神様神様。僕が悪い子だから?
良い子になるから。今すぐ、良い子になるから。どうぞお許し下さい。
どうぞ、どうぞ。夢だって嘘だって言って髪をなでてください。神様神様。

顔を覆う。見なくて良いように。
耳を塞ぐ。聞かなくて良いように。
そんな付け刃すぐ限界が来て、現実は僕の手をすりぬけ、耳に目に
信じがたいものを見せつけた。

「嘘」

三郎が僕に何か言っているけれど、僕は二人の姿を網膜に焼き付けるのに必死で、
僕じゃない人に彼女が見せた執着を否定することに必死で、
何も聞こえていなかった。

「嘘、嘘だ。嘘だぁ」

僕は駆けて走って、彼女に抱きついて、なぁに雷ちゃんと変わらない音色に
変わらない温もり。横にいる人が邪魔。
僕と姉さんの時間を壊さないで、邪魔だよ。ねぇ、姉さんも何か言ってやってと
ちらりと見たけれど彼女は困った顔をして、ごめんなさいね。雷ちゃん。
私達これから出かける予定が入っているの。と僕の髪をから手を離して、
姉さんとの名前の呼び合いで、初めて僕が負けた。
大きな肩に、ボサボサの短い黒髪に、隈の酷い男は、付いてきた姉さんの肩を抱くと、
学園一忍者していると豪語している厳しい顔を崩して、行くかと、歩みを姉さんに
合わせて二人の歩調が重なって見える。

僕は、獣のようなうめき声をあげて二人に向かっていた。

その声で振り返った姉さんはいつものように自然で、
それがなお僕を悲しませた。偽者だとさっきまで思っていた思いは消えて、
避けてくれと懇願したけれど、彼女は口元を上げたまま、
姉さんの瞳はとても綺麗で最後に僕が映っていて、とても醜い顔をして笑っていた。

これで、姉さんは僕のものと抱きしめた僕を、僕はどうすることも出来なくて
泣き崩れれる。だらりと投げ出された手足に、赤を彩った黒髪に
息絶えた姉さんの顔はごろりとこちらを向いて、

いいのよ。雷ちゃん。いいのよ。と


そこで僕は目が覚めた。これで何度目だろう。
汗がとめどなく流れている。汗だけでなく目からも涙が溢れていて、
隣の三郎が目が覚ます前に僕は顔を洗いにいった。
まだ夜が明けない朝に、冷たい水をばしゃりとかければ、ぼーっとした頭がさえる。
そこに現れた上の学年をさす緑色の服が見えて一瞬体が硬直した。
不機嫌そうな顔をしているのは、
一番最初、目がいく場所の下に黒い隈が占拠しているだけで、
本人の顔はどちらかというと整っており童顔よ。と顔が怖くて怒られた気分がすると
言った僕を慰めくれ姉さんの声が聞こえた。
朝練いいや、彼のことだから夜から今まで鍛錬していたのだろう。
僕が大好きだった人を奪ってしまった
潮江 文次郎先輩が、汗を拭きながらこちらを見ていた。

無言の時間は長くはないだろう。ただ、僕にとって一年のように思ったのだけれど、
彼は一回僕を見て水を頭から被ると、そのまま去っていった。
見えるのは背中だけだ。
一人の癖に今の彼の背中にはもう一人の背中が見えた。
もう駄目ですか。届かないのですか?
神様神様神様神様。

「雷蔵くん、顔色あまり良くないけど、ちゃんと寝ているの」

「大丈夫だよ。愛子さん」

僕はどうしてここにいるのでしょうか?
助けてください。神様。

ぼくのいちばんは、ねぇさま。そう言い切れたあのときに戻りたい。