【white】


「滝」

ぼくの横にいた人物の名前を呼ぶ彼女は、目を弓なりにして微笑んでいた。
雪が降っていた外の渡り廊下で、黒い髪をなびかせ、白い息を吐き出し、
鼻を赤くした少女に、滝はかけ出した。
自慢話を途中で自分でやめるという珍しい行動に、ぼくは思う。

あの子は、ぼくを脅かすと。

あの子に初めてあったのはその時、ぼくがもうそろそろ高校1年になるころで、
今のような寒い時期が続いた日だった。
吐く息が白くて、何もつけないぼくに滝が風邪引くと、
マフラーを無理やり巻いた。
数分歩いて辿りつくぼくの通う大川学園は、中高大まで一環の学園で、
広大な広さを誇り、ご丁寧に寮までついている。
ぼくと滝は同じ寮生だった。
なにかと世話をやくうるさい同級生にして、
同室者の滝は、他のみんなよりも二三歩前の好きに属する人。
そんなある日、幼なじみだというの存在が現れた。

彼女が滝と名前を呼んで、ぼくに滝が彼女を紹介してから、
彼女は昼ごはんのたびに一緒にいることとなった。

「またか。お前は」

滝は、顔を歪めて、を見ている。
言葉は攻撃的だけれど、声音が優しいから、心を許しているのがバレバレだ。

「料理ぐらい作れ」
「あは、作った結果見せてあげようか?
悲惨すぎて、涙も出ない。地面に落ちたものでも、踏まれていなくて、
何もかかっていなくて、1分以内なら
食べてみせる私が、食中毒をおこしそうになった」
「そ、そんなにか?」
「実験なら、うまくいくんだけど。
どうして、ビーフストロガノフ作れなかったんだろう?」
「初心者がそんな手の込んだ料理をするからだろう!!」
「だって、食べたかったんだもん。食べたいものを作るのが料理でしょう?
まぁ、そんときに使った材料費で、こんなにキツキツになっているんだけどね。
松阪牛とか、高級ワインとか使うんじゃなかった」
「・・・お、お前。初心者で、なんで材料がそんな」
「そう、お金のやりくりめちゃくちゃ下手だって分かった。一歩大人になれたよ。滝」

色々とおかしい生き方に、とうとう滝がため息を吐いた。

「なにを威張ってるんだ。ほら」

そういって、滝は自分のA定食の中から、
数種類のおかずを小さく綺麗にわけて渡す。
は、それが当たり前なのだと言わんばかりの笑顔で、
いただきますと言って、食べ始めた。

放っておけばいいのに。一人暮らししたからなに?
彼女が悪いんでしょう?
幼なじみだからって、滝がそこまでしなくてもいいじゃない。

むすりとした気持ちのまま、ビックメロンパンほおばっていると、
視線を感じた。
なんだという敵意の意味を込めた視線は、
大量のヨダレと、にっこりした笑みにかわされる。
彼女のくれという意味が込められた視線に気づいている。
だけど、ぼくは彼女が好きじゃない。
色々ななぜに隠された陰謀に、滝をぼくから奪う。
だから、ぼくはそのままメロンパンを口の中に突っ込んだ。
滝が、そんな食い方すると、喉を詰めるぞと、言った。
別にこのくらいなんともない。
この行動に、はあーという顔をして、それから、
すぐに、視線をかえ三木のエビフライを見ている。
三木は優しいから、半分あげていた。

についてぼくは単独で調べ始めた。
だって、彼女はおかしいのだ。
だいたい、同じ学園にいながら、
なぜぼくらが中学3年の最後の冬に、中学2年の彼女が突然現れたのだ。
2年間の間になにがあったのか?直球で聞いてみれば。

「滝がうざいんだもん」

と笑顔で返された。
だったら、なぜ今、近づいてきたのか。

「それは、あの馬鹿が、中2の冬になってから一人暮らしをして、
エンゲル係数を計算していない馬鹿だからだ」

本当に、そうかな?
甘いよ、滝は。だってここは大川学園。
急にの行動は疑わなくちゃいけない。たとえ幼なじみでも。
そっとぼくは、鏡を覗いた。
ぼくらの学年がアイドル学年なんて言われるのは、
三木がアイドルアイドルいっているわけではない。
自分の器量は自覚している。
そして、滝も三木も、美少年というカテゴリーに入ることも。
ぼくらに近づいた女は多い。
見てくれだけを愛したハリボテのような女に、
昔、滝は一回傷つけられた。
優秀であるくせにどこか学園に染まらない滝は、
騙されて、傷ついて、涙を隠した。
ぼくは傍にいたのに、何も出来なかった。
ただ隠れて泣く滝を引っ張り出して、髪を撫でるくらいしか出来なかった。
滝が傷つくのは嫌だ。三木が傷つくのも嫌だ。
だから、ぼくは疑う。
彼女がそういう意味で、ぼくらに近づき、
ぼくらを騙すなら、ぼくは彼女を排除しよう。
大丈夫。バレないようにちゃんと出来る
だってぼくは、作法委員の一員なのだから。

じっと静かに、彼女の行動を探って分かったことは。

「ねーね次屋。イチゴミルク増量と、バナナミルク増量。
量の差10ミリリットル。
本当に飲みたいものを飲むべきか、
それとも、量が多い方を優先すべきか・・・どうすべきだと思う?」
「とりあえず、バナナを買うから、どいてくれ」
「じゃぁ、半分頂戴。私は、イチゴを買うから」
「・・・・・・お前、半分って、俺が損しないか?
というか、俺が最初に飲むのか?
それともお前が最初に飲むのか?」
「大丈夫。そんなこともあろうと、ほら、水筒ここに半分いれるから」
「・・・・・・チッ。持ち帰りかよ。・・・いや、お前のを飲ませろ」
「え、どうした次屋。急にがめつくなって」

は、買った好物と思われるイチゴミルクのパックを手にとって、驚いている。
じりじりと寄ってくる男に、
ぷすりともうストローを刺し、液体を吸い上げそのまま背を向けて逃亡した。

「待て、お前、俺のバナナ忘れてるぞ」

聞きようによっては卑猥な言葉で、を追いかけている。
その後ろで、男の友人らしき二人が呟く。

「本当に、三之助は、が好きだよな。
間接チューをあんなあからさまに要求してるとか」
「僕たちは、三之助の純情に協力すべきだ。作兵衛」
「純情?いや、オープンにエロだろう。あいつ。
前、の食ってたクッキーを横取りして食べて、
の泣いてる姿に、どうみても興奮してたし。
その他色々、小学生低学年がやる色恋というには、
ちょっと度がいきすぎてる行動を
クールで飄々として素敵って言っている奴に見せてやりたかった」
「よし、作兵衛も協力するんだな!!」
「・・・・・・話を聞いてくれたか?左門?」

分かったことは、一人、を素晴らしく愛している奴がいるということと、
は、その分かりやすい愛よりも食い意地のほうが優っているということだ。
男のことを調べたら、滝の後輩だった。
次屋三之助。
後輩のなかで、なかなか人気高い男。
あいつにしとけばいいのに。と思うものの、
今日も今日とて、
ぼくのご飯の残骸を見つめているになぜか苛立つ。

「ん?どうしたの綾部先輩。そんな怖い顔しゃちゃって」
は、喜八郎の顔の変化分かるのか?」

三木が興味深そうに聞く。は、首を縦に振った。

「結構分かりやすいですよ。鉢屋先輩よりは分かりやすいです」
「鉢屋先輩と知り合いなのか?」
「ちょっとしたお知り合いなんですけど、あの人、傷ついたって顔して、
嘘だったり、本当だったりするんで、面倒くさくて、
だから、はっきり言ってやりましたよ。
泣きたいときは泣け。笑いたい時には笑え。怒りたい時には怒れ。
じゃないと、分からない!!ってね。
それ以来、違う意味で面倒くさくて、失敗したなとは思ってます」

ぼくの話から、鉢屋先輩の話になったことに、
なんだか、胃がむかむかして、お腹の中に、
何かが居残っているような気分になった。
それは、挑戦デカ盛りカレーカツ丼を食べたせいかもしれない。
が食べれない物を頼んだ結果こうなった。
ぼくは見事完食して、完食時間を塗りかえた。
ちなみに、は、今日ばかりは、呆気にとられた顔をしていた。
は、食い意地は張っているが、
短時間で多くを食べることは出来ないらしい。
もそもそとゆっくり、腹の中に保存するように食べる。

それから、ずっと鉢屋三郎の話をしていたに、急に滝が席をたった。
がたんという音は大きかったので、三木ももそちらを見た。
滝は怒っていた。

「滝?」
ぼくの問いかけに滝は無言だ。
「何怒ってんだ。お前」
三木の挑発も睨むだけですんだ。
「・・・・・・・」
は、静かに滝を見ていた。その姿は、普段おちゃらけている姿から
程遠く、モルモットを観察している研究者のような視線だった。
滝は、ぐっとその視線に、押し負け、席に座り、呟いた。

「私は・・・が、鉢屋先輩と知り合いとか知らない。なんで言わない」

ぽつりと言われた言葉は、幼稚な考えで、
あまり干渉しあわないぼくらにとっては、滝らしくない態度だった。
は、そんな滝を気持ち悪がるでもなく、そっけなく。

「聞かれてないからね」

そう吐き捨てて、は立ち上がる。

「そろそろ、始まっちゃうから、バーイバイ」

後ろを振り向かない彼女に、滝はぐっと拳を握った。

ぼくは、が嫌いだ。
滝が傷つかないようになんて、三木が傷つかないようになんて、
理由をつけたけれど、三木は傷つかない。
だって、すでに好きな子がいるから。
盲目的なLoveを持っているから。
そして相手も同じだから。
滝は傷つかない。
だって、
だって、すでにが好きだから。
ぼくが嫌ったのは、
ぼくは、まだ子供のままでいたくて、周りもそうであって欲しかったから。


白い雪が降ってただでさえ、寒いのに、周りが甘ったるい。
その日は、バレンタインデーというらしい。
愛を告白する日らしい。
でも、ぼくは、そんなもの望んでいないから、
頬を染めて渡されるチョコに、なんの感情も抱かない。
食料としか見ていない僕に、
愛なんてもの押し付けるわがままさに、吐き気がする。
真っ黒の物体は、エゴの塊に違いない。

何度目かの愛の告白にイライラがピークに達した。
いつもぼくを止める滝は、
体育委員のなんちゃらほんちゃらのなんかのために、
わざわざ周りを回ってチョコを集めてくると言っていた。

「なにこれ」
「え、えっとチョコレート今日、バレンタインデーだから」

頬を染められても、興味ない。
バレンタインデーなんて知ってる。それも興味ない。
なんでぼくに渡すの?いらない。
そう如実に語っている顔は、いつもどおり無表情にしか見えないらしい。
のほうが、まだマシだ。分かってる。

「手作り?」
「う、うん」

気づかないなんて馬鹿みたい。
それなのに、ぼくを好きだとか笑えない。
包装紙をぐしゃぐしゃにして、中身を出し。

「じゃぁ、いらない」

そのまま、チョコを地面に捨てた。
いや、僕は捨てたはずだ。

「・・・・・なにしてるの?」

チョコは、地面にぶつからず、
顔面でスライングしてきたの手の中におさまっている。

「捨てたものを拾いました。頂いていいですか、綺麗なおねーさん?」

そうにやっと笑った。
ぼくはいらっときた。
その姿に、はまた笑みを増した。
確信。やっぱり。
は、ぼくに嫌われていることに気づきながら、傍にいたのだ。
そして、共に歩みを進める。少しの距離を開けて揃えて歩く。
煩わしい女の視線がなくなった。
一歩歩けば、チョコを渡されることもなくなった。
ちらりと見れば、ひらりと手を振られた。
無視すれば、どうってことなさげに無邪気に、チョコを食べている。
幼さと大人さのアンバランスさを保っているような姿に、
ぼくの中にむずがゆい思いが芽生えた。
例えるなら。

「うわぁ、ドロドロのホワイトチョコ入ってる。
あーあ、こぼしちゃったじゃん」

そういって、は、腕についたチョコを舐めた。
白く細い腕に、ちろりと覗き込んだ赤色が綺麗で、
その姿に欲情した。

カッチン。
ぼくの何かのスイッチが入る音が聞こえた。

「ねぇ、それ、ぼくも食べる」

の腕についたミルクチョコを舐める僕を目を見開いて見る
彼女の顔がキライから、反転した。

だって、美味しいそうだったんだ。






うほぉぉい。なにしてんですかぁぁぁ!!
と鳥肌を立てながら、腕をすぐさまぼくから離し、
何か言いたげに口をパクパクしていたに、

「ん?」
とニコニコ笑顔に、頭を傾げる。
妙な空気を察知したは逃げようとしていたけど、腕を掴む。
逃がすわけがない。
ぼくの一言に最大な恐怖を抱いている姿にゾクゾクしながら、
口を開こうとすれば。

「おい、。これを食べろ!!」

と、三木が、だーんという効果音を背に、白く細長い箱を突き出していた。
その隙に、は、腕を振り払い、三木の元へいく。

「三木先輩って、とってもかっこいいね」
「そうだ。僕はアイドルだからね。ファンサービスにも気を使うのだ」
「どこがだ。アイドルなら空気よめ」

呟いた言葉に、三木がこっちを見た。
喜八郎?とぼくの様子を伺うが、かっこいいって、ずるくない?
だから。

「三木ヱ門の馬鹿ぁぁあ」

そういって、三木の大好きな吉野ルキが完全に勘違いして、
あげると思われた箱を顔面から受け取っている三木の姿に、嘲笑しといた。





昼休みが始まる前に、を探す。
あの次屋という男にチョコをあげるかどうか見るためで、
他の奴にあげたら、作法委員の力を身にもって覚えてもらおうと思っているからだ。
2−2と書かれたプレートに近づくと、
きゃんきゃんと、聞き覚えのある声が聞こえた。
二人の少女を囲んで、周りは傍観者に徹している。

「わ、私のほうが三木ヱ門をとってもとっても大好きなんだからね!!」

組が違う同学年の吉野ルキは、もう半泣きだ。

「え、ええ、知ってますよ。ルキ先輩が好きなの。見てバレバレですけど」

どうしていいのか分からずに、どうどう落ち着いてのポーズをしているのが、
。どっちが年上か分からない。

「だ、だからぁ。三木ヱ門のお菓子を食べていいのは私なんだから」
「えと。どうやら勘違いしてますよね?
田村先輩は、試行錯誤して、ルキ先輩が美味しくて、
なおかつヘルシーなのを作っているようですよ。
私はただの試食係です」
「う、嘘だ。三木ヱ門あんなスーパーデラックスにカッコイイのに、
そんな眼中なしとか。そんなわけないでしょう?」

凄い気迫に、は、頷いた。

「え、ええ、まぁカッコイイですね」
「ほらぁ、見ろ!!やっぱり三木ヱ門が好きなんじゃないかぁ」

堂々巡りに、困ったなの顔が、
もうこうなったら、
ええ、本当は、三木先輩のこと好きなんですとか言おうかな。
これが望みな気がしてきた。障害があるほうが燃えるとか、
人を勝手に障害物にしてくれたお礼に、
障害と言わず、ズッタズタになるほどの邪魔をしてやろうか?
な黒さが見え隠れし始めたので。

「違う」
「綾部くん?」

吉野ルキがこちらを向いた。
邪魔したのが意外な人物で驚きが隠せないのだろう。
目を見開いてる。

「これは、ぼくのですから。三木のじゃないです」

そういって、の腕を引っ張って、教室を出て行った。
そこに次屋がいなかったのが、残念でしょうがないと思いながら。

横を歩くぼくより、少しだけ身長が低いは、
朝のことを忘れているのか、普段どおりに話していた。

「いやー助かりましたよ。綾部先輩。
まさか、三木先輩の彼女が勘違いするとは。
あの二人かなりお互い盲目になってるから、嫉妬しいなんでしょうかね?」
「三木の食べなきゃいいじゃない」
「それだと、私の食料が」

しぶる姿に、いらっとした。
さっきのも、好きって言いそうになってたし、
本当は三木が好きなんじゃないかって疑う。
足を止めれば、綾部先輩と?は、立ち止まった。

「じゃぁ、ぼくのあげる」
「・・・・・・どうしたんですか?天変地異?」
「だって、今、ぼくのものになったから」

は、無言なまま笑顔で、
どうしてそうなったの顔をしていた。

「いや、言葉の綾でしょう。私は私のもんですよ」
「じゃぁ、ぼくのもんになってよ」
「え、話が読めない。何この超展開。
朝もおかしいと思ったけど、今もおかしいとか、え、なにこれ?ドッキリ?」

一歩近づけば、一歩逃げていく。
顔を青くして、何か助けをもとめているに。



遠くの豆粒大の滝の声が響いた。
よく見えたな。

「て、天の助け!!滝、どうしよう綾部先輩がおかしい」
「喜八郎」
「え、なに急に自分の名前、言ってるんですか?」
「滝は滝で、三木は三木、なんでぼくだけ、綾部先輩?」
「綾部先輩のファンが怖いからです」
「じゃぁ、なおさら、呼んで?」
「え、嫌」

本気でイヤと、両目にかかれている。
ふっと笑う。も笑った。

「じゃぁ、今ここで犯されそうになったって言う」
「ちょっと待ってなんでそうなった。
ツッコミがもはやついていかないんですけど」
「きゃぁぁあああああああああああ」

ぼくは、叫び声をあげながら、服を破った。
僕の叫び声に、なんだなんだと、人がこっちによってくる。

「うわ、ほんとしやがった」
「ぐす」

嘘泣きも加えてみる。
は、冷静に今起こっていることを、まとめようとしているのか、
額に手を当てて目を瞑っている。

「・・・・・・え、まじで女に男がって展開?
ありえるとか言われると、綾部喜八郎ならありえるになるし。
完全に、私が加害者だ。
え、なんで私、女なのに獣とか。
いや、何もしてないです。何もしてないから。
なんで、信じてくれない。やばい、私保護する人いない。
これから、あと6年間強姦魔とか、耐えれるかな?無理だ。
・・・・妥協します。妥協して、綾ちゃんとかどうですか?」

滝が一番早くぼくたちの所に来たようだ。

「どうした、なんで喜八郎泣いている?」
が」

縋るように滝の服をつかめば、が変な声を出した。

「うひゃぁぁ、初めて名前呼ばれた。って喜んでいる場合ではない。
何もしてない。何もしてないから」

ぶんぶんと手を振っている。

「何を動揺しているんだ?お前」

むしろ余計怪しくなった。それを感じたのだろう。
は一息で長い台詞を口にした。

「綾部先輩、いや綾ちゃん。
喜八郎なら、一杯呼ぶ人要るじゃないですか。
現に滝だって呼んでるし、でも、綾ちゃんなんてそんなこと言えるのは
私だけなんで、超嬉しいなって思ってるんですけど?それでもだめですか?」

もう半泣きだ。
その姿になんだか満足したし、それに。

「特別。なるほどそれは、いい」

と、言って、顔を元に戻す。
は、はーとその場に崩れた。
滝だけは訳がわからない顔をしている。

「で、なんだったんだ?」
「仲良しになれて、嬉しくて泣いちゃった☆」
「うわぁ、可愛いけど、怖い。さすが作法」


それが、前のバレンタイン。






今、ぼくと滝の部屋に、
フォークをケーキに刺したまま、魂が抜けているがいる。
ちなみに、三木は吉野ルキとラブラブなので、いない。

、どうした」

心配した滝がゆらすが、そのままされるがままに揺れている。

「なんでもない、なんでもないし」
「いつもなら、ちょっとは喜八郎に抵抗するだろう?」
「・・・・・・そうだっけ」

ウェディングケーキ入刀を一緒にしたとき、
たしかにもうちょっと抵抗するかと思ったのだけれど、
意外とすんなりできた。
写真も収めているので、なにかあったら使おうと思っている。

「食欲もいつもよりないし」
「乙女的な体重問題」
「嘘だ。そんなこと気にしていたら、朝、あんなにチョコ食べてないだろう?」
「・・・乙女な理由です」

ぶーと横を向き膨れている。

「三之助になにかされたか?」

滝がそういった瞬間、フォークを落とした。
べちゃと、床にケーキが落ちた。
いつもなら、そのまま食べるのだけれど、
は落としたことにも気づいていない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや」
「・・・何されたんだ」
「別に何もされてない」
「魔法とか言ってたな」
「っなんでもないってば、馬鹿」

立ち上がって、そのまま逃げようとするの手をぼくは捕まえる。


「ついてる」
「へ?」

前は腕だった。今度は、口についていたから、そのまま、舐めたら、
口の中にもチョコがあって、そのまま絡みとった。

ふっとの息遣いが聞こえた。
顔も近くて、白い肌がピンク色になるのがエロイ。
あーあ、滝が空気をよんでいなくなればいいのに。
と思ったけれど、そんなこと滝がするわけもなくわーと叫びながら、
顔を真っ赤に染めて、ぼくらを離した。

「ななななななにしてるんだ。喜八郎」

は、ぐいっと口元を拭い、半泣きだ。

「セカンドがディープとか、もうわけ解らない」

と意味深の台詞を残して出て行った。

「は、なんだその言葉ちょ、おい、逃げるな」

滝が、扉を開けて、部屋を出れば、もういない。
ここの隠し扉の場所を知ってるのは、だし、
の住んでる場所を知らない滝は、そのまま部屋に戻ってきた。

「なんであんなことしたんだ喜八郎」

ねぇ、滝。
への滝の好きって、幼なじみのもの?
妹みたいなもの?それとも、ぼくと一緒?
それを問おうと思ったけれど、気づいていなそうだしやめといた。
敵は少ないほうがいいい。
だから。

「だってはぼくのものだから。
それなのに、違う男のこと考えられるのは、むかつく」

ぼくは、敵になる前の滝に敵にならないように訴えかける。


に抱いたのは、ミルクチョコ。
むずむずとほのあまい苦手な味。
ぼくは、彼女が好きだけど、彼女が苦手だ。
だって、彼女の存在は、
いつでも、きっと、ずっと、色々な意味で、ぼくを脅かすから。












2011・2・14