私、鉢屋 三郎は、 に命を救われたことがある。
それを、は覚えていない。
なぜならば、その時の私は、狐のお面をかぶっていて、
血だらけの不審人物だったからだ。
任務に失敗した私は、茂みに隠れることも出来ずに、そのまま木により掛かかっていた。
何人かの人が通ったけれど、誰も助けはしない。
そうだろう。
私だって、こんなわけがわからないものを助けはしまい。
目が霞んで、腹から血が止まらない。
終りが近づいていることが分かる。
友人たちは、私が死んだら泣くだろうか?あのメンバーで最初に死ぬのが私だなんて、
思っても見なかった。
私は私の力に過信しすぎた。それは忍にとって、三病の一つなのに。
仮面の下の顔は、私本来の顔。
最後の、最後に、忍術学園の鉢屋 三郎として、
雷蔵の顔に変えようと、グググと力を入れて腕を動かすと。

「狐さん、動かさないで下さい」

「・・・誰だ」

「これは、失礼。 と申します。不肖ながら、医学の道を志すものとして、
命をどぶ川に捨てようとしているあなたに、助言です。
それ以上、血が出れば、死にますよ」

「知ってるさ」

「そうですか。では」

「・・・・・・何をしている」

「お構いなく。これは私の信条なので、私のために治療をさせて頂くだけです」

そういって、最後に彼は、笑った。

「狐さん、あなたは、生きれますよ」

と。目が覚めれば、忍術学園の医務室で、ハチや雷蔵、兵助に、勘ちゃんが、
勢ぞろいして、泣いていて、馬鹿。と殴られたりされた。
彼の処置がなければ、死んでいたと、新野先生に言われて、
彼が誰かと問えば。

 くん。あなたの後輩ですよ。一言、お礼を行ってあげてくださいね。
彼があなたの命を助けて、ここまであなたを連れてきたんですから」

私は、彼が、同じ学園にいることを知って、彼を探した。
すぐに、彼は見つかったのに、



「はい、なんでしょう?伊作先輩」

彼の周りには、不運の連中ががっしり肩を持って、周りを遠ざけていた。



「重いですよ。喜八郎くん」

滝くん、三木くんとにこにこと笑顔を、向けている。
彼らが、他を排除していることなんて知らずに。

ありがとう。の一言が、言えない。
彼らのせいでもあったけれど、彼らに囲まれて、は、幸せそうな笑顔であったから、
私は、木上から見ていることにした。

私は、狐。ずるがしこい。
だけど、時には素直に、恩返しをするものだ。



そう呼べば、顔をこちらに向けて、

「はい、なんですか?」

と答える。
今、彼は、彼らじゃなくて、私の傍にいる。
時々、立花先輩が、すまなそうに、声をかける。
時々、食満先輩が、お礼だと怪我が治った後でも、お菓子を持ってくる。
時々、七松先輩が、物欲しそうに見ている。
時々、悲しい眼差しで、潮江先輩がこちらを見ている。
私だけしか、ずっとは、いない。
を、独り占め出来る。
それは、彼女に感謝してもいいぐらい、嬉しい。
だけど。

寂しいと一言、哀しいと一言、言ったなら、
そうすれば、そうすれば、
私はすぐに、彼女の胸に、クナイを突き立ててる準備はできてる。
私の気持ちよりも、なによりもの気持ちが、最優先。

ああ、でも。

「三郎先輩って、抱きつくの好きですよね」

「嫌?」

「いいえ」

時々、私の気持ちも、最優先。









2010・4・30