木の下から触ることができた狐が驚き、
水面をただようあひるは、がぁと一鳴き、熊は踊り、
眠たい羊は、いつも通り、動いていた。
木の上から見ていることしか出来なかった狐が笑った。
ああ、これで、自由だ。
「いけいけーどんどーん」
自分でも分かるぐらい大きな声に、声が弾む。
私、今とっても楽しいんだ。とっても嬉しんだ。
止める人いなくなった。
やったね。嬉しい。
ようやく、欲しかったもの手にはいるんだ。
どうしようか?こうしようか?ああしようか?
色々策を練ったけど、誰も何も言わないし、
彼は一人だから、そのままぶつかって、保健室から盗って来ちゃえ。
私には、欲しいものがあった。
白くて細くて、もやしみたいなのに、芯が強い。
みんな笑顔だけなんて、あの顔見たことない?
目が見えないなんて、そんなモグラじゃあるまいし、
彼はちゃんと目があるよ。
私に見せてくれた。あの、ゾッとするくらいの金色に近い茶色が、
輝いて私を捉えれば、ああ、なんて至福。
あの顔は、上からぐちゃぐちゃに潰して、壊して、そうすれば、私だけ。
彼は、きっとなかなか壊れない。
体は弱そうだけれど、心は強い。
ああ、どうしようか?こうしよう!!
にぃっと歪んだ三日月の笑顔。
上に二つ、下に一つ。
なんて、綺麗。
あの女が来てから、素敵なことが一杯。
いっさくんも、滝もなーんにも言わない。
ずっと、うるさかったのに、手を出そうとする度に、戦輪に怒り声に、泣き落とし、
毒薬、しびれ薬、よく分からないけど、
ビリビリして喉がヒューヒューする奴色々なものを仕込まれたんじゃぁ、
たまらない。
だって、いっさくんは、友達だもん。
だって、滝は、可愛い後輩だもん。
我慢してたけど、いらないっぽいから、もらってもいいよね?
は今日から私のおもちゃ。
可愛がって、壊して、作り上げて、私だけのものにするんだ。
あー楽しみ。
と、思っていたのに。
保健室が見えて、嬉しくて、つい駆け出す力をあげたら、
上から殺気が飛んできた。その場所を離れれば、そこにはクナイが刺さってる。
くるりと上を見れば、案の定な人物。
「なんで邪魔するの?」
「それは正当な義務だ」
「義務?なんで?文ちゃんにはどーでもいいことでしょう?」
文ちゃん、これは野暮だ。
私はすごっく我慢してきた。4年間、一回も手を出さなかった。
だから、いいでしょう?彼も一人で寂しいに違いない。
だから、私は一緒にいて。
ぐちゃぐちゃに。と言いかけて、殺気があがった。
文ちゃん。その顔、仙ちゃんみたい。怖いよ。ヒステリー。
なに?睡眠不足?
そういえば、目の下の隈ひどいよ?
「小平太。お前は、に近寄るな」
横暴な言葉に、不満を投げかける空気ではない。
「いいか。近寄るな。近寄ったら、お前をどうするか、俺にも分からない」
文ちゃんの鬼気迫る顔。
ひどいよ。ずっと、興味ない顔していたのに、逃げて逃げて、
彼に捕まえてもらえる立場にいたのに、
いまさら、こっち側に来るなんて。
私は彼が欲しいんだよ?
ああ、でも。
負けた。
私は、保健室から離れた。
無理だ。無理。前よりも、強敵だ。
だって、文ちゃんは、友達で、そんで、
あんなに必死なんて初めて見たから、
文ちゃんの初めてはとっちゃだめだ。
だって、私には一杯ある。
あれが一番お気にいりだっただけ。
だけど、文ちゃんには一人っぽい。
しょうがないから、二番目のおもちゃで我慢しよう。
そういえば、後ろにいた奴も面白そうだったなぁ。
ようやく、立ち去った小平太にため息を吐きながら、
木上を睨む。
「おい、でてこい」
「おやー?ばれちゃいましたか?」
すんなり出てきた鉢屋に苛立が募る。
全然、殺気を隠そうとしなかったのに、何を言っているんだと
にらめば、彼はへらりとその顔の持主である不破がしないだろう、
掴みどころない笑顔を見せる。
「知らなかったなぁ。潮江先輩が、後輩思いだ、なんて」
「お前こそ、そんな優しい奴だなんて知らなかったぞ」
二人の間には、奇妙な沈黙が生まれ、それから、奴は、
ふっと嘲笑した。
「そうですね。俺もまさか、こんな奴だなんて思ってませんでしたよ」
俺のことかと思ったけれど、奴はちょっと困った顔をした。
それは、とても不破に似ていて、いつも一緒にいれば似るようになるのだろうか
なんて馬鹿なことを思いながらも、こつもこんな顔をするのかと、
本当は不破が化けでいるんじゃないかと思ったけれど、
俺のなかにいる不破は、こんなことしない。
目の前にいるのは、正真正銘、鉢屋 三郎だ。
「でも、これで」
そう言って、彼は笑った。
「これで、自由だ」
2010・4・24