雑渡 昆奈門がいなくなった後、僕は、ふーと息を吐いた。
なんてこと。このくらいで、緊張するなんて、と手のひらを見ていれば、
誰かに手を握られた。
後ろを見れば、僕をだき抱えている三郎先輩。

「私のことも最初から計画のうち?」

最初と言うのは、彼を助けたところからだろう。
賢い彼のことだから、気づいているだろうなとは思ったけれど、
ヒントをあげていても、ここまでたどり着いたのは忍術学園では彼だけだった。
僕を、忍術学園の と扱いながら、いつも疑っていたのは。

「そうだったら、あなたは僕を離れますか?」

「いいや、むしろ、願ったり叶ったりだ。
のその性格を、受け入れれるのは、至難の業だから、私ぐらいが傍にいれる」

そうか。そうきたか。と思いながら、彼の懐に頭を下ろした。
彼が優しく頭を撫でる。その温かさにうとうとしながらも、
僕の最後の仕事の報告を、頭の中で整理する。

長次先輩の手紙では、タカ丸くんは、手紙を受け取ったらしい。
彼は、忍としての腕は、まだなっちゃいないけど、磨けば化ける。
なんせ、彼だけが、暗示がとけたんだから。
髪への執着とも言えるけど、他の人よりも数ヶ月しかいない
彼がとけたんだ。評価は平等にしなければ。
それにしても、あの芙美子とか言う女は、
本当に、自分が人に取る替わっているということを信じたなんて、
さすが、未来から来たというだけはある。
彼女に、最初に渡した催眠効果のある香は、随分お気に召してくれたようだ。
彼女に近づけば、近づくほど、彼女を好きになり、
前を忘れるという効果の実験結果も取れたし、実用に使える日も近い。
ま、それも兼ねてたんだけど、言う必要なんてないよね。

タカ丸くんの、引き抜きの予約は取れた。
あと、残りの時間、僕の役目を受ける長次先輩には、
今度、何かお礼しなくちゃいけない。
しかも、後始末まで、頼んでしまって。
長次先輩は、僕の協力者。最初から、僕の味方。関係は簡単。
長次先輩の先輩を、僕が引きぬいて、彼に紹介してもらっただけ。
良かった。余計なことは言わないし、馬鹿でもない。
髪紐だって戻ってきたし。

6年生の評価としては、

立花先輩は、動かなすぎる。しかも、全体をちゃんと把握出来ていない。
七松先輩は、野生の勘は凄いけど、チームワークが出来ない。
食満先輩は、もっと使えない。感情ぐらい、制御出来なくちゃ。
潮江先輩が、冷静だったら、僕の言葉が分かったでしょうに。
言葉だけしかない存在だから、ここにはいない。
みんなが思い描いている、 なんていない。
捕まったら、学園生活が終わるってこと。
まぁ、ムリかな。分からないように言ったし。
なんで、泣いたかはよく分からないなぁ。

あーあ、潮江先輩は、惜しい物件かなぁ。
僕は暖かな温もりの中、とうとう目を閉じた。


僕の信条は正しい。

【怪我した人・動物、なんでも救え。
ただし、ある規定に反しないもののみ適応。】

だから、僕は一度だって、伊作先輩を治療したことなんてなかった。
彼は、ハズレ。
だって、僕に、よく分からないことを言うんだ。
僕はそのたび、よく分からない気持ちになる。
分からないのが多いのは、とっても怖いから、彼は苦手で、大嫌い。
僕のこと、待ってる?だから、なんだ。
僕は、待っていない。それだけのこと。

世界には、
分からないことが多すぎて、こんがらがってしまうから、一つの信条を作った。
それは、僕を制御し、僕を縛り、僕を豊かにし、僕を僕らしくしあげた。
だから、僕は、僕であらせなくさせるものだけは、助けない。













2010・5・8
【終わった。腹黒。平凡顔。傍観。
・・・・・・よし!!たぶん大丈夫な・・・はず。長くなりましたが、
hanakoさんがお気に召してくれれば、幸せです。】