「こんにちわ」

入ってきた人物に目を大きくする。
驚いた。まさか、来るなんて。
だけど、本当は来るって思ってた。
いつまでも来ないから、来ないんだろうって勝手に思っていただけ。

私が、自分勝手な考えを持った時から、この日が来るのを待ちわびていた。

伊作くんに愛されてから、私はわがままになった。
まだ、くんの代わりだなんて、嫌。
ちゃんと私を愛して欲しかった。
オリジナルになるには、どうすればいいか?
簡単な話、消せばいいだけ。

私の計画は、簡単。
遠くから、私を睨んでいる子が熱心にみている人を特定して、
それから、葉っぱをかける。


「滝くんが、好きなの?残念。彼、私のことが好きなんだよ?
遠くから見ているだけなんて、気持ち悪い。
今すぐやめて、違うことしたら?くノ一なんでしょう?
時間の無駄なことして、鍛錬しなくていいんですかぁ?」

随分、キレやすい子だった。
いいえ、きっとずっと我慢していたんでしょう。
彼女は、私を押して、上に乗っかると、私の頬を叩いた。
パァンと良い音がして、叫んでいる。
結構、痛い。
もう一回くらうのは勘弁と、思えば、時間通り。保健委員の一行と、
4年生の一行が私のところへ来た。

対価は、頬の傷と押された時の腕のねんざくらいかしら?

助けられたあと、彼女、絶望していたわ。
そうね。好きな人からの攻撃なんて、私なら死んじゃいそう。
可哀想。
だけど、大丈夫。
彼が、助けてくれるわ。
助けてくれない可能性なんて、考えていなかった。
だって、彼は、不審人物の私ですら最初に助けてくれた。
案の上。
彼は助けた。しかも、彼らの目の前で。
私は、噂ぐらいでもいいかなって思っていたから、ベストな環境に小躍りしたくなった。
しかも、くんを嫌う程度で良かったのに、彼は、保健委員をやめた。
そして、今、彼は学園を去るらしい。

最高じゃない。と、思う反面、罪悪感。
だから、私、彼に殴られてもいいと思った。
彼になじられてもいいと思った。
いや、むしろ、して欲しかった。

そうすれば、完全に、彼は悪者でしょう?

ごめんなさい。嘘ついたわ。
罪悪感なんて、そんなもの。持ち合わせていないの。
いくら、私を助けてくれた人でも、優しくしてくれた人でも、
彼は最後まで、ちゃんと助けてくれないでしょう?
それどころか、障害だから。

だけど、彼は微笑んだ。

「僕は、去ることになりました。
これがあなたを守ってくださると思いますので、持っていてくださいね」

そう言って、赤い珠がついたうす緑の髪紐を渡して、部屋を出ていく。

なんだ。それ。
なんだ。これは?

よく分からない、苛立が巡っていく。

去った後でも、私にお前を演じろというの?
冗談じゃない。私は、芙美子。
天女でも、あなたでもない。私なの。
彼に愛されているのも、皆に愛されているのも、私なの!!

「巫山戯てる」

私は、その髪紐を、ゴミ箱に捨てた。








2010・5・4