僕の好きな人。
可愛くて、綺麗で、性格だって、綺麗な人。
ずっと、ずっと一番近くで見てきた。
グルリグルリと回る、愛しているの文字。
何度、この言葉言おうと思ったか。
何度、この思い遂げようと思ったか。
だけど、愛される人は、愛される人で。
いつも、人が一杯で、隙なんてなかったから、
一人でいる姿なんて、不運である僕はなかなか見つけれなくて、
ようやく、掴んだチャンス。
「僕、君が好きなんだ。愛してる」
気持ちは、ちゃんと届いたみたい。
二人、ようやく手を繋いで、おでこを近づけて、笑顔でいれる。
これからも、ずっと二人で一緒にいようって思っていた。
「きゃぁ」
「あんたなんて、いなくなればいい」
芙美子さんの叫び声を聞けば、くノ一の誰かが、彼女に攻撃を加えている。
僕たちにはそれだけで、十分で、彼女を取り押さえて、
芙美子さんを保護した。
彼女は、芙美子さんを睨みつけていた。
芙美子さんは、僕の裾を強く握って、怯えている。
愛される人は、時に憎まれる。
それは、なぜか?下らない嫉妬だ。
そんなことで、愛されるべき人が嘆くのは見たくない。
僕らは、彼女に受けるべき罰を与えた。
芙美子さんがいくら愛されていたかは、
そのくノ一の傷つき具合を見れば、分かった。
彼女の痛々しい姿に、誰も手を貸さない。
それは、当然のことだから。
蛇がカエルを食べることに、誰が悪いことだと言うのだろう?
いい気味。その思いしかなかった。
その女が、泣けば泣くほど、傷つけば傷つくほど。
なのに。
「大丈夫ですか?」
彼女に救いの手が差し伸べられた。
それは、目の前で起こったことで、僕は信じられなかった。
何をしてるの?あいつ。
近づいて、少年を止めようとすれば、少年には顔がなかった。
いやに白く、いやに細い。
なで肩な彼は、口元をにやりとあげて、薄気味悪い。
「なにをしてるの?」
「怪我を治療してます。彼女の傷は、とても酷い。打撲に、擦り傷に、打ち身に、
骨にヒビがはいっているかも知れませんから」
「違う。なに勝手なことしてるのって言ってるの」
彼の持っている包帯を叩けば、土の上に転がっていく。
「そう言われても、僕は保健委員なんで」
彼は、胸元から、新しい包帯を取り出した。
彼の裾は、くノ一が掴んでいて、彼は、ふっと、その女を見てから、
優しく頭を撫で、包帯を巻き、治療を再開した。
信じられない。彼は何をしている?
その女は、苦しむべきだ。罰を与えられるべきだ。
だって、僕が愛した人は、彼女が怖くて、外に出て来れなくなったんだから。
それ相応のものがあってもいいはずだ。
なのに。
カァーと怒りがこみあげてきた。
「だったら、委員長の僕が、言う。手当をやめろ」
彼は、顔だけこちらを向いて、手を止めない。
「嫌です。僕は、傷ついて倒れた人がいれば、助けます」
「そう。ご立派な精神だね。じゃぁ、やめないと、
保健委員をやめてもらうって言っても?」
彼の口が、笑顔から、驚いた顔になった。
彼は治療することが好きだから、これは効くだろう。
早くやめて、さっさと素知らぬ振りして遠くから眺めていればいい。
その女のために、捧げてきたものをおジャンにするなんて思えなくて、
僕はやめるだろうと思ったのに。
「・・・・・・・ええ、そのとおりに」
彼は、笑った。
「・・・っそう。その女を治したら、ここから出ていって」
しゅると最後の一巻が、思ったよりも長い時間で、
彼は治療が終わり、その女を抱き抱える。
「さようなら」
顔のない少年の顔は、ちゃんと顔があった。
それは、それは、微笑と哀愁をたたえた笑顔で、
僕の目の前から消えた。
残ったのは、土に汚れた包帯だけ。
あの子は、くすりと笑みを浮かべた。
2010・5・4