世界には、
やりたい事が多すぎて、あるものが多すぎて、欲しいものが多すぎて、
こんがらがってしまうから、一つの信条を作った。
それは、僕を制御し、僕を縛り、僕を豊かにし、僕を僕らしくしあげた。
信条
【怪我した人・動物、なんでも救え。
ただし、ある規定に反しないもののみ適応】
その教えを守って、赤紫色の服を着た少年は、6年生の長屋の扉を開いた。
全ての6年生が揃っていても、彼は堂々と胸をはり、
綺麗に背筋を正し、にこやかな笑顔をたたえながら、
こんにちは、お辞儀をすると、緑色の服を着た一人の少年の前に立った。
「潮江先輩。その顔はどうなさられたんですか」
「おお、文次郎、わざわざ6年長屋まで来られて、
とうとう後輩まで顔がやばいと言われるとは、可哀想な奴だ」
「ち、違うよ。仙蔵。は、顔とかどうでもいい、良い子だから、
そういうことじゃないと思うよ」
仙蔵と伊作の言葉を聞きもせず、6年の中、一人4年の彼は、
ガッと文次郎の顔を、両手で掴むと、数センチまで顔を近づけて、
笑顔を変えずに、言った。
「潮江先輩。昨日、修行時間増やしませんでしたか?
隈が、ほらこんなになってしまって、隈が、どういったものか分かりますか。
体が疲れていると言うサインなんですよ」
「。毎度、毎度うるさいぞ。俺は、学園一忍者をしているのだ。
人の倍修行することの何がいけない」
「潮江先輩。学園一忍者しているというのに、
授業を軽くお考えですか?危険が伴うのに、そこに寝不足など、
足元を救われてしまいます」
「。こいつは、馬鹿だからな、話なんか聞きやしないぞ」
「食満先輩。そうは言っても、僕は保健委員として、
学園で一番危険がある人物に注意をすることをやめはしません。
怪我してからでは遅いのです」
「ええーい、ウルサイ!!俺はこれから訓練だ。ついてこれるものならついてこい」
「あ」
文次郎が外へ出て行った姿に手を伸ばしたけれど、
の手は真っ白で細かった。
彼はため息を吐くと、
後ろで、彼の委員の先輩である善法寺 伊作が、優しく肩を叩いた。
「。もう文次郎は、しょうがないと思うよ」
「文ちゃんのあれは病的だもんな。だけど、。
お前も、ちょっと鍛えた方が良くないか?
その細腕で、やっていけるの?なんなら、私の体育委員で鍛えても」
「小平太。そんなことしたら、どうなるか分かってる?」
小平太だけに見えた伊作の顔に、小平太は声をとめ、顔を青くした。
「・・・・・・わ、私はのことを思って」
「大丈夫です。これでも、大人一人ぐらいなら肩車出来ます。
だから、思う存分倒れてください」
文次郎一人いない6年生が、みな一斉に、 の体を見た。
4年生として体は標準だが、なで肩で、細い体、細い腕、白い肌、
どうみても力なく見えるが、実習で本当に大の大人を
背負っていたのだから、彼の言うことは本当だ。
しかし、目の前でじっくり見ても、やはり嘘だとしか思えない。
「では、僕は、課題がありますので」
そういって、最初と同じように、またと言ってお辞儀をし去っていく二つ下の少年に、
皆がそれぞれ違う思いを抱いた。
「一貫して笑顔だったな。その顔を崩してみたい」
「一回くらい鍛えてみたい」
「・・・・・・・・・・」
「は、文次郎のこと構いすぎじゃないかな」
「あいかわらず、イイ奴だ。用具委員会の後輩に欲しい」
の柔らかな茶色の髪は、頭の上でお団子しに、
上から白いキャップをつけ、その周りを緑の紐で、括られており、
紐は、腰のあたりまで、無造作に垂れている。
紐の先端には赤く光二つの石が光っていた。
彼の特徴的な格好は、遠くからでも識別できる。
綾部 喜八郎は、彼の若草色の紐を見つけると、鋤を捨てて走って、
彼の名前を呼び、そのまま抱きついた。
「」
「おっと、どうかしました。喜八郎くん」
「どこ行ってたの?」
土の匂いがかすかにする喜八郎に、毎度の同じことを聞かれて、
同じことを返すのだが、二人の間に、平 滝夜叉丸が割り込んだ。
「こら、喜八郎。勝手に抱きつくな。が重いだろうに」
喜八郎を無理やり引き剥がすと、ぷーと頬を膨らまして、
滝のウンコという単純な悪口に、髪を逆立てて怒っている。
そんな二人を、置いて、田村 三木エ門は、眉毛を八の字にして、
に謝った。
「潮江先輩のところだろう。
すまない。あの人は自らの体を極限に鍛え上げるのが趣味な人で」
いいんですよ。と微笑むに、横にいた斉藤 タカ丸が、唇に指をあてて、
疑問を口にする。
「でも、どうしてくんは、毎回毎回言う事聞かない潮江くんの所へいくの?」
彼の質問に、ではなく、三木エ門が答えた。
「一回、倒れたからな。それで、保健委員が大変だった時があって
それ以来か?」
「ええ、それからですね。
でも、一応控えてくださっているようですし、タカ丸さん、僕の行動は無駄ではないんですよ」
ふふっと笑う姿に、毒気を抜かれた皆が、口元を緩めた。
それから、は思い出すかのように、手をポンと叩いた。
「おっと、そういえば、トイレットペーパーの補充をしているはずですね」
「あ、じゃぁ、終わったら、髪結わせてね。僕、くんの髪結うの、大好きだから」
4人にヒラヒラと手を振り、は、保健室と書かれた部屋に入る前に、
ドシーン、ぎゃぁぁぁ、バラバラバラ、うわぁ、バキ、ひー、ガッタン。
と何が起こったのか明確には分からないけれど、何かを落として、散らばらせて、
踏んで、また落とした音がした。
は、笑顔を少々固くさせて、保健室に入った。
「の、先輩。ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。使えない部分は切って、巻いて。
トイレットペーパーの補充は、僕がやっときますから、
四人は、部屋の中の掃除をお願いします」
部屋から出て行った先輩に、三反田 数馬はほぅっとため息を吐いた。
「いいよなー。先輩」
キラキラした目で、見ていれば、
後ろから猪名寺 乱太郎が元気よく手を上げた。
「はい。はーい。三反田 数馬先輩質問です。
なんで、不幸委員と呼ばれているこの保健委員で、唯一不運じゃないのに、
4年間連続なんですか?」
「ああ、先輩は、医者の息子さんだから、自ら進んで入っているんだ。
優しいし、別け隔てないし、嫌な仕事も引き受けてくれるし、
勉強だって教えてくれるし、それだけで、不運がちょっと減った気がする」
そういって、また目を輝かせる数馬に、川西 左近も同意した。
「そうですね。上級生なのに、いばらないし、物腰は柔らかだし、
不運の後片付けもしてくれるし、それで治療の腕が立つんだから、
尊敬しますよね」
二人が褒めている間、鶴町 伏木蔵はあーと声をだし、
乱太郎に思い出したかのように、話しかける。
「先輩が、この前くれたお菓子美味しかったよね」
「ねー」
二人がにこやかに話す会話に、左近が、まてっと割り込んだ。
「な、なんだとそんなのしらないぞ」
「あ、これは内緒だった」
「今のはなしということで〜」
「おい、こら詳しく話せ一年」
そんなこんなで、4年ろ組 は、6年生から一目おかれ、
4年生から愛され、保健委員から尊敬される少年だった。
そんな彼の日常は、ある日を境に変わった。
2010・4・21
【最初は自己紹介から、次回から本編】