私の周りには、新しいこと増えていって、
前の私のものはすべて消した。
白い着物、白い髪留め、白い帯留め、
全部、全部、昔の私の持ち物は消した。
薄青色の服と、白い日記帳だけが私の手に残った。
それと、小さな白い花。
花は、未だに届く。
それを押し花にし続けたら、箱が足りなくなって、
この押し入れ一杯になっちゃうね。
なんて、誰に言うわけでもないのに、笑った。
幸せって、なんの変哲もない平凡で単調なものだと思うよ。
自分のこと責めて、誰かを責めて、
心がカスカスになっていくのに、頑張って頑張って生きていくことは、
一生の愛。
一生の宝。
一生の仕事。
一生のもの。
一生の感情。
それら、全て素晴らしいことを、手に入れて、
時には、世紀に残る人になっても、
私は、のらりくらりと、風を感じ、草木の匂いを感じ、獣や人を感じる。
とても当たり前なことに、感動して生きていきたい。
だから、前の私のような生き方はごめん。
ねぇ、だから。
だから。神様、こんな試練最後に残しておいてくれなくていい。
自然に消えて、そんな奴もいたなって、もっと未来、
この学園を出た後ぐらいに、ぼぅっとしたときに思い出す程度で良かった。
「久しぶりだな。」
目の前にいる人物を、私は知っている。
だけど、まったく知らない。
緑色の忍術学園最上級生、6年は組。食満 留三郎。
彼は、目を細くさせて、怖い顔をもっと怖くさせた。
日記では、その行為は、少々緊張している時だ。
と書かれていたけれど、どう見ても殺気を感じる。
彼の短く結われた髪が、風に揺れて、白い髪紐も揺れる。
ああ、彼女が白を愛した理由が分かった。
沈黙。口を開かない私に、髪をクシャりとかきあげる。
「ちゃん」
えへ、と悪戯な顔をして、彼の後ろから出てきた天女。
もとい、ただの女の人。
私に笑顔をみせて、私に近づいてくる。
「あのね、このごろ、三人で会ってないから、会いたいなーって」
それから、私は彼女に引きずられるまま、入ることのない
忍たま長屋の縁側に座った。
私、天女、食満 留三郎。
なんとも、奇妙な図だ。
私は、遠くから彼女らを見ていたから、そこに私が入るなど、考えたこともなかった。
だされたお茶を飲んで、白い大福を口に入れて、モゴモゴしていると、
二人は私を置いて話している。
「シノさんは、前みた小物入れ欲しいっていってませんでしたか?
俺、作ってきたんですよ」
「え、わー、可愛い、ありがとう」
天女さんの名前が、シノっていう別にどうでもいい情報を知った。
それは、ここに私がいるべきだことと、同等ではない。
彼らは、なんのつもりで、ここに私を連れてきたのだろうか。
二人の会話を私に見せても、私は二人を憶えてないのだから、
付き合いたいなら、別れたいなら、勝手にしてほしい。
大福を食べ終わったら、課題をしたいから、帰ろう。
モゴモゴと口を急がせたら、最初に私の名前を呼んだ声がした。
「」
口に入れているものを全て飲み込んで、睨まれているような目を見る。
「なんですか?」
「なんで、楽しそうにしないんだ?せっかく、お前のためにと、シノさんは、
大福を買って、話を振っているのに、無視するなんて、可愛くないぞ」
うわー。この大福にはそんな意味が込められていたなんて、なんでお前は
分かるんだよ。逆に、怖いわ。しかも、無視しているのは、
そっちだろうに、でも根本、どうでもいい。だから、簡単に謝れば、
天女さん、いわくシノさんがいいの、いいの、と手を振る。
「いきなり連れてきちゃったんだし、これぐらい当たり前だよ。
ちゃんは、久しぶりだから、照れてるんだよ。
あと、留くん。ちゃんはとっても可愛いよ」
と抱きつかれる。なんて三文芝居。
「いやいや、シノさんのほうが、可愛いですよ。
こいつは、菓子一つも用意出来ない上に、気も利かず、無愛想。
ちっとも、可愛くないし、綺麗じゃないし、
髪だって、シノさんみたくちゃんと結えてないし、
手だってシノさんみたく、気を使わないからボロボロで、
それに」
まだ続くのか。この話。
はぁーと深い溜息を吐いて、イライラしてきたから、はっきり言ってやろうとしたら、
「そんなことないよ。ちゃんは可愛いよ」
聞き覚えのある声に香をあげて、目を見開いた。
「なんで」
それは私の声ではなかったけれど、
同じ言葉を投げかけた。
彼はボサボサの髪の毛に、落ち葉をくっつけて、ボロボロの土のついた服に、
壊れたホウキ。何があったのか、大体理解できる格好をしていた。
「ちゃんは、いま、すっごく頑張ってるから、
誰よりも頑張って、みんなからの遅れを取り戻そうとしているんだ。
髪だって、動いていたから崩れてる。
手は、一生懸命の証。そんなちゃんが、綺麗じゃないなんてことない!!」
「なんで、小松田さんがそんなこと言うんですか?」
日記を知らなくても、分かる。今食満 留三郎は、気が立っている。
シノさんに格好の悪い所なんて、見せれないから、
立ち上がり、小松田さんに近づけば、
彼よりも食満 留三郎の方が、少し背が高い。
「だって」
「俺と、は恋人で、あんたは幼馴染だろう?」
「それでも、間違ってる」
「何が?これが俺とあいつのありかただ。
小松田さんだって、俺達の中を、祝福していただろう?」
小松田さんの食満 留三郎に向けていた顔が、地面をみている。
これで、終りだ。
彼は泣き虫だから、喧嘩苦手で、地面を見たときは、感情を殺して、
「ごめんね。僕が間違っていた」っていうから、
私はやれやれと、二人を止めようと立ち上がれば。
小さな声が、小松田さんから聞こえた。
「・・・・・・春に、三色団子」
「は?」
「春に、花見で、三色団子と、からあげとおにぎりもって、
夏に、海水浴と山のぼり、サバイバルに怪談話」
「何いって」
「秋に、紅葉狩り、文字は苦手だから、僕は食べることのほうが好き。
冬は、雪だるま、雪うさぎ、おこたにミカン。
そんな、そんな僕の幸せを、ちゃんと、これから、
一緒にはんぶんこするんだ。
だから、誰にも傷つけられたくない。
好きなのに、傷つくなんておかしい。
けど、昔のちゃんは、きっとそれが幸せ。
けど、今のちゃんは、違う。
だから、僕は彼女が泣くなら、僕がもっと泣く。
彼女が笑うなら、僕はもっと笑う。それが、僕の幸せ。
だから、食満くんは、ちゃんに、そんなこと言っちゃ、ダメだよ」
私は、ちゃんと前と違う今の私になってから、
感情の起伏があまりなかったけれど、私の顔は、今、真っ赤だろう。
恥ずかしくて、ちらりと周りを見れば、シノさんも真っ赤にしていた。
今、私、凄い愛の告白を受けた気がする。
だけど、言っている本人は、意味もわからず、
キョトンと固まっている私たちを見回している。
「はは、何言ってるんっすか。小松田さん。の色にやられましたか?
は、くのたまで色が上手かったから、あなたは情にほだされているだけですよ。
だけど、やめといた方がいい。
こいつは、優しくしてくれる男なら、誰でも構わないから」
食満 留三郎のさげしむような表情に、言葉に、
小松田さんの顔が、真っ赤になった。
私は、自分の最高速度で、駆ける。
パシンと近くで、音がした。
「なんで」
食満 留三郎の盾になった私を小松田さんは、信じれない顔をしている。
私の頬は赤くなって、唇がキレている。
結構な力で殴ったな。
小松田さんの悲しそうな、泣きそうな顔が見える。
大丈夫?と慌てているけれど、
それを手で、制して、私は、後ろを振り返る。
後ろには、食満 留三郎と天女・シノさん。
二人とも、前の私を殺した張本人。
私は昔のことなど、一切合切覚えていない。
しかし、体はちゃんと覚えていて、上から聞こえる「」の声に、
全て従ってしまいそうになる。
本当に、は、この男を愛していた。
それを知って、私は、愛読書の読者のようにに感情移入してしまったようだ。
2010・4・19