秀作という名前が分からなくて、私の部屋に訪れた子に聞けば、
目を丸くして教えてくれた。
「あなたが、いつもかまっている小松田さんのことよ。
小松田 秀作。あんなに仲がいいのに、名前を覚えていなかったの?」
そういえば、聞いたことがあると思えば、全てのピースが当てはまって、
すっきりしたのに、胸が苦しくて、喉がつっかえる。
「やっぱり、あなたはじゃないのね」
私に日記の存在を教えてくれたくのたまが、ポツリと言った言葉に、
体の中から溢れてくる熱情と、凍えるくらいの冷え切る頭、私は微笑んだ。
「いいえ、あなたが望んでいたじゃないけど、私は」
「あ、違うそういうことじゃ」
「違う?何が、あなたたちくのたまは、思い出さない方がいいといいながら、
前の私を求める。必死に隠そうとしなくていいんだ。
あなたは、謝る必要なんてない。むしろ、感謝したいくらい。
だって、ようやく私がどうあるべきか分かったんだから」
彼女を部屋から追い出すと、私は日記を握りしめて、
障子を見る。
私は、と秀作のことを知っている。
隣の扇屋さんの次男坊で、幼馴染。
年上の癖に、ドジでマヌケで手のかかる弟のような子。
だけど、とても綺麗な瞳をさせて、
自分が弱くて助けれなくても、
ずっといじれられ続けられた子を身をていして助けようとする馬鹿な子。
心配でしょうがないから、時々見に行っている世話味のいい自分。
本当は、ちょっと憧れていた。あんなふうに生きれればなんて。
今の私に、全部、当てはまらないでしょう。
私にその記憶がないから。
私にとって小松田さんは、ただの暇つぶし。
忙しいことがあれば、見えなくていいことも見なくていい。
ドジでマヌケは変わらないけれど、そうであれば、
なお過ぎていく時間を有意義に仕えている気がして。
それに、が書いた最後の2通の遺書に、
涙一粒も出ずに、第三者視点でしか見れなかった自分。
彼女の言葉、本当にじゃないのね?
ありがとう。本当にありがとう。
あなたが言った台詞でようやく自信が持てた。
私は、完全に前のではないことが。
私は、だけれど、前のは死んで、
今の私が生まれた。
飲まれると思った感情は、記憶を知った今でも、飲まれずに存在している。
これを、新しい私の誕生と言わずになんという?
私は、もはや私以外のなにものでもない。
もはや、演じる必要ようはない。
誰かの視線を気にすることもない。
だって、私に取ってこの忍術学園は、初めてのことだから。
私に暇はなくなった、これから新しい日々を過ごそう。
嬉しいはずなのに、完全にいつ自分が消えるかの恐怖もなくなったというのに、
どうしてだろう。目頭が熱い。
ぎゅっと、日記を握り締める。
壊れてしまうぐらい強く。
「さようなら。愛してる」
二人の男にあてた最後の文字をつなげて、バイバイ。
これからは、私が。
昔のを望む人は、いらない。
ぜーんぶ、いらない。
だから、彼が前の五十鈴を望むなら、私は彼なんていらない。
2010・4・18