日記はたぶん見つからないのだろう。
もし、私が明日死ぬとするなら、この天女さま日記は捨てるか、焼くか、
誰の目にも止まらないようにするから、私も同じ考えだろう。

、これ、どうかしら?」

「んー、私はコッチのほうが好きだな」

「え、白じゃないの?」

「私は、蜂蜜色の方が好き」

ニッコリと音が出るほど笑えば、そう?と去っていく。
私はやっと、簡単なことに、気づいた。
穴があって水が出ていってしまった桶を、修繕して、
水をいれても、同じとは限らない。
それに、小松田さんは、花とか言っていたけど、間違えて塩とか味噌とか入れそうだし。
胸の虚無感は完全には埋まっていない。
だけど、ようやく笑えるようになった。
私は、
それ以外でもそれ以上でもない。
ちょっとずつ前の私じゃなくて、今の私になっていく。
それは、時が解決してくれること。
だから、ゆっくり行こうと思ったその時だった。

私は、叫んだ。

走ってきてくれるって言葉が、比喩だって分かっているけど、叫んだ。
叫んで、叫んで、私が彼の部屋まで走った。

「小松田さん?」

はぁ、はぁと息が切れて、彼の部屋に行けば、
薄暗くて、誰もいないことが分かったけれど、
もう何も聞きたくなくて、何も見たくなくて、
小松田さんの部屋に座り込めば、真っ白なノートが床に落ちていた。
小松田さんの部屋は、思った通り、整理整頓ができておらず、
小さな小山が何個もあった。出したものは出しっぱなしだけど、
整理をしようと、一応分類に分けてあるのが彼らしい。
そのノートはどの山にも属さないもので、どこかから落ちたのだろうと、拾い上げると、
それは、の日記だった。

「な、なんでこれが」

「あれ?ちゃん?どうかしたの?」

「あ」

私は、とっさにそれを胸元に隠した。

「何でも・・・・・・ない」

「そう?ごめんね。散らかってて」

「そう思うなら、かたしたら?」

「うーん、なんでか僕がやるとこれ以上に酷くなるんだよ」

参った参った。と頭を掻く小松田さんに、いつもなら呆れるのだけれど、
胸のなかのものが気になって、しょうがないから、嘘をついた。

「これから、くのいちと、街へ出かけるけど、小松田さん何かいる?」






日記。と二文字がデカデカと書かれている。
真っ白だと思ったけれど、端はところどころ茶色に変色していた。
ペラリと捲ると、の決意が書かれている。

「三日坊主はもうやめる。今日から、日記頑張るぞ!!」

それから、たわいもない話。
どこそこの、あれがうまかっただの、あそのこ小物屋さんはもう一度いくだの、
あの子のこういう所がイヤだの。優しかった人の事だの。
ペラペラとめくっていくと、彼のことも書かれていた。

「私の恋人は、天邪鬼。素直になれない人。
そこが可愛いといえば、思えはちぃっとも可愛くないけどな、と言われた。
彼のそれは、口だけだって知ってる。だって、彼は薄い青色の服を私にくれた。
似合っているとは、言ってくれなかったけど、彼は微笑んでくれたから、
とっても幸せ。

これは、私の宝物だから、汚さないようにしなくちゃ」


「今日はデコピンされてから、なでられた。
最初からなでてくればいいのにね。本当に素直じゃないんだから」


「くのたまと忍たまの合同で、一緒に、組もうっていったのに、一年下はお断りだって、
前から楽しみにしていたのに、だけど、
確かに6年と組んだ方が、いいかもしれない。だって、彼と一緒にいるのは、あの不運だ。
というか、彼と一緒にいすぎじゃないかな?もしかして・・・・・・」


「どうやら、杞憂みたい。
不運に問い詰めたら、そんなこと天変地異があってもありえない。
って言った。その言葉が嘘だったら、不運のアソコをちょっきんしよう」


「光が、空を覆った。素敵なものが落ちてくたのかと思えば、
女の子が降ってきた。彼女は、この世界の人じゃなくて、
この世界のことまったく知らないから、
不安げに周りをみてる。まるで、誰かさんそっくりだから、助けてあげなくちゃ」


「ねぇ、私、今日、あなたのくれた服を着たの。
どうして、私を一人ぼっちにするかな。
どうして、この日ぐらい、空けといてくれないかなぁ。
私の誕生日。
周りの子は、みんなで慰めでくれて、祝ってくれている。
遅れたなんて許さないから、今回ばかりは許さないから。
だから、あと一日ぐらいは待ってあげるから、今すぐ私の元へきてよ」


「いつも私だけ好き好き好き言っていて気付かなかった。
かわいいですね。それ似合ってますよ。
私には言わない言葉。
私には、けなす言葉しかない。それが、愛の言葉だと信じていたけど。
どうして、どうして?
どうして、そんな顔で彼女を見るの?
どうして、私に、見せた事ない顔で笑うの?
私は、なんなの?呼べばすぐ来る犬?
それとも、何をしても大丈夫な子かしら?
なにがいけないの?
私のほうが、賢くて、美人で、可愛くて、気がきいて、実技だって強いのに、
全部全部、一生懸命、あなたに見合う女になるために頑張ってきたのに、
あなたの横で、笑うのが私であればとそう思っていたのに。
どうして、弱いその子を、かぼうの?守るの?
私が、襲われていたって、何もしなかったのに。
私が、一人で寂しがっていないとでも思っているの?
ひきこもれば、あなたは私の元に来てくれるの?
あの子は、特別?私は、恋人ではなかったの?
別れようなんて言わないで。
彼女を、好きなんだ。で、お前はどうする?なんて聞かないで?
私は、私は、あなたが大好きです。
大好きすぎて、胸が苦しくて、死んじゃいそう」


「なーんだ。やっぱり、そうだと思った。
だけど、それがなに?言わなくても結構。
事実を突きつけないで、私は、好き。それだけでいいじゃない。
彼が誰を好きでも、いいって言っちゃったから、私は彼がなにしても
なんにも言えない。
たとえ、彼が私のこと、ちっとも好きじゃなかったって、
あの私の幸せな時間全部全部、彼にとっては、暇つぶしでも。
だけど、言わせて。好きだよ。大好き」


「なんで、あの子?私の方が。
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい。
一生懸命努力するから、捨てないで、愛して、傍にいて、抱きしめて。
お願い。私を、見て」


「もう、ダメ。一生懸命気を引こうと頑張ったけれど、
何日間もご飯を食べずに、着てくれることを望んでいたんだけど。
くのたまの子には、無理言っちゃったな。何回も彼に私の様子を告げさせるなんて。
だけど、結果は、この通り。
私の元へ、一度も来やしない。フフフフ。ああ、もう涙は枯れはてた。
残っているのは、笑顔だけ」


「最後の日は、もう、思い残すことはないくらい精一杯、楽しんで遊んだ。
明日、死ぬことにしたので、心残りがないよう、手紙を書くことにする
気に掛かるのは、母親でもなく父親でもなく、幼馴染で、泣き虫の秀作だ。
彼は学園の事務員をしているけれど、大丈夫だろうか。
また穴に落ちて、怪我していないだろうか。
誰か彼を助けてくれる人はいないだろうか。
ドジで誰かに迷惑をかけていないだろうか。
いつかの約束の立派な忍者になるという姿を見れずに、逝くのは少々、悲しいけれど。
彼を、愛して、助けてくれる人が現れる、絶対。
だって、秀作は、とっても心の優しい子だもの。顔だって、悪くないし。
不運がモテるんだから、秀作だって、モテてもいいはず。
それにしても、今日はずいぶん夜が、静か。
ああ、満月の日か。引き篭っていたから、今日がいつか分からなかった。
だから、誰も訓練をしていないのね。
死ぬことはとっても、怖い。だけど、明日を見る方がもっと、もっと恐ろしい」


ひらりと一枚の紙が落ちた。


「今日、私は死にます。もう、耐え切れないんです。
でも、私が死んだことで、秀作が、嘆き悲しむ必要なんてないんです。
私は、今ならまだ幸せに死んでいけるのですから。
まだ、彼の笑った顔を、覚えてますから。
涙が枯れ果てた後に出てくるのは、笑みだけなんです。
そんな思いを、秀作はしてくださいますな。
秀作のこと心残りではありますが、
少々早く、空の上から、秀作の幸せを祈っております。
それでは、そろそろ、黄泉の国へ旅立ちます。
さようなら  


そして、もう一枚。


「今日、私は死にます。誰のせいか。
あなたのせいです。あの子のせいです。
あなたが愛しくて、愛しくて、狂おしいくらい愛しいから、
あの子が憎くて、憎くて、狂おしいくらい憎いから、
このまま、私が私の心を保てている間に、私は死にます。
私がまだ、留三郎の笑顔を覚えている間に。
静かに眠らさせてください。
だけど、時々でいいので、バカなやつでもいいので、
罵詈雑言を投げかけてくれても構わないので、
私といた時間を忘れないでください。
それでは、そろそろ、黄泉の国へ旅立ちます。
愛してる  






2010・4・11