○月 日
ようやく、天女さまたる人を見つけられた。
天女さまーと、誰かに声をかけられて、振り向いていたから、
彼女だろう。それにしても、天女さまなんて名前で、振り向くとは、
凄い摺り込みだ。
私が天女であったとしても、そんな名前で呼ばれるなんて、
恥ずかしすぎで、嫌だな。
きっと、天の国におわす人は、心が鋼でできていらしゃるんだろう。
羨ましい限りだ。今日も、白い花は置いてあった。
土までついているから、私以外に見つかったら、捨てられるだろうに、
まったく、私の愛した人は、とても大雑把なのだろう。


○月 日
洗濯物が、すべてパー事件。
天女さまは、洗濯物を干したことがあまりないらしい、
どんなお姫様だ?と思ったけれど、天の国は、
服を洗わないんじゃないかという結論に、落ち着いた。
きっと、ぱっと一瞬で、埃とか汚れとかを消せるんだと、思う。
ぜひとも、その様を見てみたいものだ。
今日、オヤツを貰った。とても甘い砂糖菓子だったので、今でも舌が甘い。
今日も、白い花が置いてあった。
土が、花びらの中まで入っている。茎も折れている。
毎回これで、よく悪戯だと思わなかった私、凄いと自画自賛してみる。


○月 日
天女さまの周りに人が集まっている。
飴に群がる、蟻かなだ。彼女はにこにこ笑いながら、
彼らの相手をしていた。凄い。私なら、耐えられない。
あんなうるさい連中の真ん中にいるなんて、
それにしても、彼女は仕事をちゃんとしているのだろうか。
彼女を観察して数日経ったけど、彼女は人に囲まれて笑顔でいるだけで、
仕事は殆ど間違だらけだ。こんなんで、この学園は、給料を上げているのだろうか?
白い花は、今日も置かれている。


○月 日
昨日の疑問が解消された。
彼女に給料をあげていいのだろうか?というものだ。
学園には、彼女以上がいることが判明。
事務員と書かれた忍服を着ている年上の人は、
彼女の目の前で、穴に落ちて、書類を風に飛ばしていた。
な、なんて半端ない。彼女は、助けようとして、一緒に落ちて、
周りから助けられて、彼は怒られていた。
いや、助けようとした彼女が悪いだろう。
助けられないと分かっているのに、助けるとは、言語道断だ。
噂では、彼女は天女ではなく、未来から来たと言っている。
かなり電波な内容だ。
だけど、もし未来から来たというのが、本当ならば、
未来は、出来ないことはしない。じゃないと、命取りになるよって、こと
すら教えてくれていないんだろうか。
白い花を間違えて、踏んだ。あんな場所においてあるのが悪い。


○月 日
天女さまが叫んだ。なんで、あなたは、ここにいるの?と
私は、あなたこそ、なんでここにいるのと聞きたい。
事の始まりは、天女さまが未来から持ってきたという手さげ袋。
それを、あのドジという言葉では、補い切れない彼が、泥水の中に落とした。
中身は、ぐちゃぐちゃで、水に浸かれば壊れてしまう未来の機器が、
天女さまの思い出の品が壊れてしまったようだ。
彼女が、泣いて彼を罵った。
ニコニコと天女ばりの笑顔下には、ただ家に帰りたいと泣く子供しかいなかったのだけれど、
恋は盲目とは、面倒なものだ。
彼女らを、恋しいと慕う彼らには、彼女は神聖に見えているのだろう。
子供であっても、彼女であれば天女なのだろう。
そんなこと、全てを忘れてしまった私にとっては、どうでもいいことだが。
それよりも、私は、ごめんごめんと眉をハの字にする、男が気になった。
彼は、彼女を慕う男たちにも避難されて、しゅんとしょげた。
彼は悪くないのにね。何も悪いことしていないのにね。
白い花は今日も、置いてあった。今度は踏まないように注意した。

○月 日
例えば、私のような存在は何人この学園に存在するだろうか。
まぁ、私のように自殺までした人は、私だけだろうが、
それでも、彼女を憎しいと思う存在は、何人いるだろうか。
愛しい人をけなすことが出来ず、彼女に当たる人は何人いるだろうか。
復讐までいかない、可愛い悪戯は、
彼女を泣かすことに成功したけれど、一つ失敗をした。
まさか、あそこで彼が落とすなんて想像しなかっただろう。
彼は、悪いことなんてしていない。
みんなに未来のものを、見せた彼女が悪い。
ちゃんと中身を見なかった彼女が悪い。
その中身は、とっくに、ぐちゃぐちゃで、機器は壊されていた。
誰かがあなたを嫌っていると、言うメッセージは、彼によってめちゃくちゃにされた。
だけど、考えてみて欲しい。
彼女は、数日前にされていた行動に、彼が泥水に落とすまで、気付かなかったことを。
彼を、責めるのは、お門違いじゃないだろうか?
白い花は、少し萎びていた。

○月 日
この日記をつけた本来の意味を忘れつつあった。
私は、私の愛しい人を探していたのだった。
誰だろうか。彼女の周りには、いつも男がいっぱいだ。
だけど、見ていて統計をとっていれば、絞れてきた。
・・・・・・いま、白い紙が飛んできて、私の顔にへばりついている。
なんだ、もうやめろという神様からの表示だろうか?
そうだったら、もうやめてしまってもいいかなと思い始めている。
きっと日記とか三日坊主だったのだろう。
飽きた。かなり、飽きてきた。
だから、だろう。
私は、いたく、くのいちの彼女らから、
忍術学園の男に近づくなと言われていたのに。
紙の出処を、辿ってしまった。

「こんにちは」

「こ、こんにちは」

私が、挨拶をすれば、紙を拾っていた彼は顔を上にあげて、
私の顔を見た途端に、目を見開いた。
何を驚いているのだろうか。

「何をしているの?」

「えーと、書類集め?」

「そう、手伝おうか」

「え、なんで」

「なんでって、見ていられなくなった。それに、私は今大層暇だ。
病みあがりだとかなんだとかいって、
座学と簡単な実技以外は、受けさせてくれない。
暇つぶしに、してみようと思ったから、感謝なんてするなよ」

「ありがとう。ちゃん」

「・・・感謝するなといったさきから、お前の脳みそにしわは入っているのか。
それと、なんで私の名前を知っているの?」

「うん、知っているよ。あ、僕はね小松田 秀作。なんとでも読んで!」

「学園の事務員なんだろう。小松田さんと呼ぶよ」

「えー秀作でもいいよ?」

「なんとでもっていったじゃないか!!」

彼、小松田さんは、笑った。
とても無邪気に笑った。真の意味を知らない私は、
可哀想な彼を、人懐っこい人だと思った。
そして、 私の名前を知っている意味を、深く追求すれば、
笑う前の一瞬の悲しい顔の意味も、分かったのに。
そのころの私は、すべてが煩わしかったのだ。
天女さまも、愛しい人も、自分も全て。

煩わしい。







2010・4・8