なんか、綾部くんって猫みたいだよね。
寝てて起きたら腹の上とか、腹って硬くないのかな?
ってふわふわする髪を撫でながら、一緒に日向ぼっこをしていた時だった。
寝るとき結構気持ちいいと思うなんて、バカみたいなことを考えていた時だった。

先輩。そういえば、私、とっても柔らかくて
幸せになれるもの持っているんですけど、いりますか?」

と、いきなり言われた。
柔らかくて幸せになれるもの=美味しいお菓子かと思って頷けば、
ぐいっと首元を引っ張られて、ふにっと柔らかい感触。
一瞬なんなのか分からなくて、頭真っ白。
ペロリと唇を赤い唇で舐めて、目を細くする。まさしく猫が目の前にいた。
え、つまり、俺は猫に舐められたと思えばいいの?

「先輩どうでしたか?私は、ものすごく柔らかくて甘かったです。
なんか食べましたか」

「え、えーと、さっき金平糖を作りましたので、ええ、食べたかな?」

「なるほど、後でくださいね。で、私のはどうでしたか?」

「えーと、その、お菓子とはまた違った趣が」

何を言っているんだ、俺は。頭がパニックってる。
じんわりと、猫じゃなくて綾部くんに、口づけされたことを理解して照れる。
いや、男だけど、彼ってば女みたいな容姿してるし。
あ、でも実は結構男前なんだよね。
俺が、七松先輩にじゃれられて、笑い死にかけている時も助けてくれるし、
荷物とか、俺、大丈夫なのに手伝ってくれるし、男前でイケメンきっともてるんだろう。
死ね、イケメンといつものように思いたいのに、綾部くんの大きな目が、俺をとらえて離さない。
自分以外を見ることを、考えることを許さない。
なんだろうこの気持ち。
蛇に睨まれているような、体の中心にあるものを吸い取られているような。

「知ってますか?先輩。
私の一族、初めて口づけを交わした相手は、伴侶になるんですよ」

「え」

なに、それ。え、まじで?






【金平糖の願い事】






ぽろぽろ星が転がっていた。私は、その星の正体を知ってる。
前、先輩が作ってた「金平糖」だ。
一個つまんでとってみると、小さな星は、ほのかに甘い香りを放っていた。


穴掘り小僧だなんて言われているが、毎日穴を掘りたいわけではない。
穴を掘ることに意味を見いだせなくなることもある。
それを人は飽きるというのだけれど、私は、ぼうっと土と空の境界線を見て
何もする気が起きない体を小さく丸めてみた。
そういったとき、頭の中を占めるのは、
なんでもない雲のような海のような蟻のようなそんなことだったけど、
今は違う。手を握りしめられて、世界は変わった。
私は、人に興味はなかった。滝と三木と委員会の人は好きだけど、
彼らすらどうでもいいと思う時がある。
それなのに、今はたった一人に嫌われたくないと思っている。
目の前に、すぅすぅ眠るこけている人  先輩。
星の欠片に願いを込めたら、叶ったようだ。
会いたいと思っていた人に会えた。
彼は、とても気持ちよさそうに軒下で寝ている。
確かに、先輩の居る場所は日も当たり温かくて、それにこの場所は罠だらけだから、
なかなか人が来ることはないけれど。

先輩。襲いますよ」

答えはない。=「はい、どうぞ」
と、頭の中にできた方程式に私は手を合わせていただきますをした。
体を近づけて、食べようとしたら甘い匂い。本当に美味しそう。
だけど、彼の腹の上に置いてある手が目に入って、やめた。
これじゃ、ただの性欲に身を任せてた行為だ。私は、あんなイケドンの馬鹿じゃない。
終わった後に、むなしさしか残らない。嫌われるのを恐れる。マイナスしかない。
先輩は、本当に好きでいつづけられる人だから、
小さなことで全部おじゃんなんて嫌。
少し冷たい長くて綺麗な手、私が一番最初に好きになったところ。
腹の上に頭を置いて、その手を頭の上に置いた。
ぐちゃぐちゃ考えるのは、あんまり好きじゃない。だから、そのまま寝ていれば、
少し経って先輩が起きたみたいだ。ピクリと目を覚ます。
目をこすって、歪んで世界で見れば、先輩は寝ぼけ眼で、かわいい。
どうしよう。
ずっとお預けなのも嫌。馬鹿みたいな誰かに先に奪われるのも嫌。
矛盾していると思うけど、初めての思いはよくよく変な方向へ暴走する。
自分に余裕なんてあんまりない。
彼の特別になりたくて、どうすればいい後輩から抜け出せるか。
手に握った金平糖は自分の熱でいつの間にか溶けていた。

他に願い事を託すなんて、私らしくないって言われたみたいで、
私は、一歩進むことにした。

先輩の唇は甘くて、柔らかくて、じんと奥がしびれた。
先輩の呆気にとられた顔。
きっと、この人の都合のいい脳みそは、夢なんて、幻想になんてなるんだろう。
そんなことさせたくなくて、ちゃんと聞く。
じわり、じわりと、先輩の頬が赤くなってきてるのが分かった。


もっと、もっと、先輩なんて顔じゃなくて、自身の顔が見てみたい。



「知ってますか?先輩。
私の一族、初めて口づけを交わした相手は、伴侶になるんですよ」

あんに好きですって告白だったんだけど、私のこと意識してほしかっただけなんだけど
先輩の顔が真っ青になったから。

「・・・・・・・・嘘じゃない?」

とか、聞くから、私が出来るのは。

「ええ、嘘です」

「あ、そうなの」

言ってほっとした顔に、むっとする。
ああ、もう嫌われたくないと思ってたけど、嫌がられるなら、一緒だし。
もう既成事実作ってしまえ。と思っていれば。

「いや、俺とキスしたのが初めてっての嘘だよな。
やっぱ、綾部くん、そんだけいい男なんだから」

なんて、顔を染めて言う先輩の姿に、なんか切れた。
だって、いい男って、先輩の目からみてそう見えているってことは、

あ、やばい。

「先輩。やっぱりさっきのが嘘です。結婚してください」

好きです。大好き。愛おしい。あなたもそう思ってください。なんて願い事より、
好きです。大好き。愛おしい。あなたをそう思わせてみせる。のほうが、私らしい。











2010・2・21
【リクエスト、男前かどうかはさておき、この話は邪魔ものが来なかったりする。
この語、口をパクパクさせて、い、いやーだけど男と男は結婚できないでしょう?
とか言われる可能性があるが、同性婚の説明したら落ちるかもしれない。
雨月さんがお気に召したなら幸いです。】