「裏切り者」

「裏切り者か、いい響きだ。人質を返して欲しくば、来るがいい。
いつでも、お前たちを待っている」

って、悪役っぽく言ったけどさ。本当は、いらないんだよね。人質。
手間かかるし、先輩に、目をつけられるのは勘弁してくださいって土下座したのに、
大丈夫。大丈夫。は恨まれないさ。恨まれたら、嫌いっていえば
すべてチャラになるから。とよく分からない理屈を言った5年は組の彼らを信じたのに、
「貴様、どういうつもりだ」と睨みつけてくる。
目の前の潮江先輩は、目の周りが隈だらけで、眼力がハンパなくて、怖い。
カーン、カーンと昼を告げる鐘が鳴ったのを聞いて、俺は、思った。
機嫌が悪いのは、お腹が減っているからだと。
いくら人質だといって、食事をとらせないのは非人道的。
いや、別に、おべっか使って、どうにか、怖い顔やめてって言うわけじゃない。
俺は作戦を実行するために、出来立てのご飯を持ってきて。

「先輩、あーん」

と、箸で出来立ての小龍包を口に近づければ、潮江先輩は、
頑として食べようとしない。学年で一番忍者をしていると豪語する彼だから
もしかしてと、小龍包の説明をする。

「これは、ただの小龍包です。できたてホヤホヤ。皮も手作りで、モチモチ。
一口食べれば、熱々のスープがたっぷり出てきて、幸福の味。
もちろん、自白剤は入っておりません!!
そもそも、自白とか、だいたいの内部状況はばっちり、知ってますから、
聞く必要はないんで、だから食べてください」

「・・・・・・だったら、まずこの格好をどうにかしろ。それから、熱いわ!!」

潮江先輩は、上半身を縛り上げ、
足は背中から頭に近づける逆海老と呼ばれる縛り方で
俺の顔のところに潮江先輩の顔がくる位置に、天井から吊るされていた。
もちろん、やったのは俺ではない。

「ちょっとやってみたかったんですよ。だけど、こんなに上手くいくとは思いもしませんでした」

「峰、終わったのか?」

「ええ、簡単なものしかなかったので、僕が出るまでもなく部下たちが終わらせてくれましたよ」

にっこりと笑う見た目は優男の峰が、潮江先輩をこうした人物だ。
潮江先輩がここへ連れて行く時、抵抗してかなりうるさかったので、
意識を落とし、牢獄にいれようとしたら、峰が、嬉々として部屋に縛り上げたのだ。
素晴らしい笑顔だったので、俺は彼の友人としてそれをのほほんと見ることしかできなかった。
ふっと、あの時のことを思い出していれば、峰と潮江先輩が対峙している。

「お前は、5年は組 峰 藤。会計委員の幽霊部員ではないか」

「久しぶりですね。一回お会いして以来ですか?
むさ苦しい隈が嫌で、会わなくてすんで精々していたのですが、
まさかここで出あうとは、神様も面白いことを考えますね。
ああ、それと、まさか人質が、自分の待遇にイチャモンつけれると思っているのですか?
あなたは、捕虜です。だから、とっとと食え」

「ほぉぉうるあう」

「峰。乱暴はどうだろう?」

無理やり、小龍包を潮江先輩の口に詰め始めた峰に、
潮江先輩の嫌がりように声をかければ、彼は輝かしいばかりの笑みを返した。

「これはスキンシップだよ。。会計委員はこうやって交流していくんだ」

「へーそうなんだ」

知らなかった。俺は、用具委員で良かったな。と会計委員のスキンシップを
見ていれば、後ろから、頭をコンと小突かれた。

「納得しちゃダメだし、峰。やめなって」

振り返れば、木藤が呆れた顔で立っている。
木藤の言葉で、峰が、小龍包を詰める手を止めて、我にかえった。

「はっ、つい。昔された仕打ちの仕返しをと」

「それって、無理やり峰に計算させたやつでしょう?
峰って単純作業死ぬほど嫌いだもんね」

「付け加えるなら、興味のない単純作業だ、木藤」

木藤の肩の手だけが置かれたと思うと、
木藤の後ろから声の主、藤野が一冊のノートを持ちながら出てきた。

「藤野も、昼食?」

「うん。お、今日は小龍包か。ウマそうだな」

二人とも用意してある自分たちの席につくと、
膳を前に手を合わせて、

「「いただきます」」

そう言って、昼食を食べ始めたのを、焦ったように、峰も席についた。

「僕も食べます」

俺も皆の輪に加わり、ご飯を食べ、雑談に花を咲かせていた。

「お前らは何がしたいんだ」

その言葉で、ようやく潮江先輩の存在を思い出した俺は彼を見れば、
眉毛をヒクヒクと動かしていた。

「何がって知らないんですか?」

何でそんな顔をしているのか分からない俺がそういえば、
木藤が、キラキラした子供のような顔をして俺を止めた。

「待って、。ここは一応お約束だし、なんか拷問する?」

「拷問って、無理無理無理無理無理無理無理無理無理俺そんなことしたくない」

拷問って、あれだろう?爪を一枚一枚剥くとか、
指を一本一本折るとか、やっているこっちが痛いわ!!って話だよ。
あれが出来る人も、見れる人も俺には理解できない。
やれっていうなら、土下座じゃなくて、やめて、すぐさま学園に帰ろうと思っていれば、
食事を終えた藤野が、俺の考えをスッパリ否定した。

「いやー簡単なやつでいいんじゃない?初恋はいつとか?」

「あーなるほどバツゲームみたいな」

それなら、俺もできる。と、安心していれば、潮江先輩は叫んだ。
この先輩はきっとカルシウム不足だ。だから、こんなに怒っりっぽいんじゃないかな?

「お前らの目的はなんなんだ!!」

目的?そんなの決まってる。俺たち5年は組が組単位でするときは決まって。

「「「「面白ければどうでもいいじゃない」」」」

青春はそんなもんですよ。先輩。

「というわけで、潮江先輩。初恋いつですか?」

あなたも、青春しましょうよ!!







【グリーン忍者戦隊 6年ジャー 5】






「由々しき事態だ」

ダンと机を叩いて、さっきまで土井先生が言った言葉を、仙蔵が言う。
皆が、深刻そうな顔をして、頷いた。
土井先生がなにか言いたげな顔をしていたが、無視して、仙蔵は進める。

「伊作、敵の地図は?」

「ここに」

「なんであんの?」

伊作が懐から取り出した。
敵もとい、率いる悪の組織の館の見取り図が机の上に広げられる。
なかなかの精巧な作りに、ひくりと口の端が引きつるを感じた。
かれこれ、6年という長い歳月一緒にいるけれど、
こんな立派なものを作れることを初めて知った。

「フム、なかなかの出来だが、こことここは、時間ごとに編成が変化される」

「・・・・・・・パターンは7種類」

「なんで、知ってんの?」

仙蔵が地図でさした場所に、長次が懐から出した紙には、7種の配列が書かれていた。
彼らは、俺と同じように6年ジャーという、胡散臭い名前の活動なんてせず、
委員会や課題などに追われていたはずだ。いつ、こんなことを調べていたのだろう。
何もしていないのは、俺だけか?
と罪悪感を感じていれば、虫も殺さない顔で、伊作は笑った。

「馬鹿だな。留さん。僕らの敵だよ?
今までのんびり指を加えてみていたわけじゃないよ。
王子様は、魔女に食べられちゃうんだ。七人の小人すら敵。
だったら、どうする?もちろん、そのまま寝ているわけにはいかないさ。
ガラスの靴を粉砕して、時計台狂わせて、
りんごに毒なんて生ぬるい、水に毒をいれなくちゃ」

撤回しよう。罪悪感を感じる必要はない。
こいつらのに対する執念が半端ないだけだ。
はどうしてこんな面倒くさいやつらばかりに好かれるのだろう。
にやりと何かを妄想した仙蔵は鼻を隠して笑い。
ふへへへへへと長次も気味の悪い笑みを浮かべている。
横にいる唯一至極まともだと思っていた小平太は、はいはいと手を上げて
、太陽な輝く笑顔で言った。

「じゃぁ、私たちは魔女から救えばいいんだな!!」


お前らの敵は一体誰なのか、聞かなくとも分かってしまって、
俺は手を合わせた。半殺しですめばいいのだが、ご愁傷さま。











2010・3・29