酷い酷い酷い酷い、
そうやって布団の中で、身を縮めて泣いた。
私は4年で、一個年下だから、
授業の話とか、分からない話とか色々あるけど頑張っているというのに。
見間違えるはずのないひょろりと一つ背の高い男の人。
見つけたときは、嬉しくてつい笑顔で先輩の下へ駆け寄った。
「先輩!!」
聞いてください。私今回の実技一位でした。
テストだって主席です。褒めてください。惚れ直してください。
と、声をかけようとしたとき、彼は私をみて、一瞬顔を顰め。
「ごめんな。今大事な話してるから」
「え、いいよ。別に」
と、言った級友だろう人のあごを掴んで、
私を仲間にいれまいと背中を向けられ、その場から急ぎ足でいなくなった。
私は静かに左手を下ろした。
なんでもない言葉だ。本当に、大事な話をしていたのかしれないし、急いでもいたかも。
いいや、彼の友人が別にくらいの内容なのだ。
ただ、私が彼らの会話に邪魔であった。それだけのこと。
だけれど、話しかけたときの、明らか様に拒否の顔が頭から離れない
これ以上のことを言われたこともされたこともある。
けれど、 という人物はそれをしてはいけなかった。
私にしてはいけなかった。
涙がポロポロ布団に染みをつくり、止まることがない。
ひっく、ひっくと嗚咽を隠すことなく涙する。
「滝、なんで泣いてるの?」
と喜八郎の声が聞こえても、
「私のライバルが、なにをしている!!」
と三木ヱ門の声が聞こえても、
「滝くん。サラスト一位になるんでしょう?新しい洗髪剤入ったよ?」
とタカ丸さんの声が聞こえても、
私は出て行かなかった。
綺麗になって、賢くなって、強くなってそれでどうだというのです。
肝心なあの人が私を見てくれなかったら意味がないんです。
ぐすぐすと泣いていたら、うとうとと眠気が来た。
その中で、私はまた彼に出会い、彼に声をかけた。
だけど、夢の中では、彼はにっこり笑って、私に口付けをしてくれる。
「綺麗な滝。可愛い滝。強い滝。賢い滝。全部全部大好きだよ」
と、私は幸福であったけれど、これが夢だと気づいていた。
だけれど、彼の腕の中から逃れるには、現実が怖くて、縋っている。
私が綺麗などとそんなわけない。
私が可愛いなどとそんなわけない。
私が強いなどとそんなわけない。
私が賢いなどとそんなわけない。
だって、そうであれば、彼は私が邪魔なんてそんなはずないのだ。
私を一番に見て、私を一番に褒めて、私が一番に。
滝夜叉丸くん。
滝夜叉丸くん。
上から響く声。懐かしいような恐ろしいような声に、
私は目を覚ました。上の、布団は捲れられていて、顔を上げれば、
近くに先輩の顔。
「滝夜叉丸くん?どうしたの?お腹痛いの?」
眉毛をハチの字にして、心配そうに私の顔の様子を見ている。
あなたのせいです。あなたが私を蔑ろにするから。
あなたが私を一番にしてくれないから。そう、口にしようとしたけれど、
すっと、まだ下に落ちていない私の涙を救い上げて。
「君は綺麗だ。だから、今はそのままでいいんだよ」
私の醜い感情を、綺麗だなんていうから。
かぁと頬が赤くなる。
分かっているんです。あなたのせいじゃない。
ただの癇癪もちの子供だって分かっているのに、そのままで良いって言ってくれるから。
「分かりました。私はまだ子供ですから、大人になるまで我慢します。
だけど、今度は、私をのけ者にしたら許しませんから」
ほら、また私は図に乗ってしまう。
腕にしがみついた私にあなたは苦笑して、そうだな。と前のように優しく髪を撫でてくれた。
私は、綺麗で可愛くて賢くて強くて天才秀才滝夜叉丸。
ねぇ、そうでしょう?先輩。
あなたが、そうだといえば、誰がなんと言おうとそうなんです。
そして、
まだまだ子供の色気だけど、そのうちあなたが驚くほど大人になって、
あなたに襲われてみせます。
待っていてください、先輩。
【もうちょっと大人になってから】
「先輩」
と、可愛い後輩が声をかけてきて、俺の心は慌てた。
そして、なんと話に加えようとする木籐の口をあごをもち無理やりしめた。
「何すんのさ、、痛いしー」
とあごをさする木籐に俺の馬鹿力を考慮しなかった申し訳なさ半分、
それ以上に怒りがわく。
「お前、何話に加えようとしてんだ。アホか!!
あの純粋無垢の汚れなき目を見たかそれを醜く染めてどうするんだ!!」
と叫べは、木籐は呆れ顔だ。
「は?春画くらいで、汚れるって、寧ろ不健康じゃん。
13歳でそういうこと興味ないほうがおかしいって。
ってか、襲われてなかったっけ?」
「いくらなんと言われようと、滝夜叉丸くんは、可愛い後輩。子供なんだ。
綺麗な心なんだ。俺達みたく汚れちゃいけねぇ」
「襲われてる時点で、そういうのちゃんと知ってるって、なんでそう後輩に夢みてんのさ。
いいじゃん、寧ろ、女のよさ教えて、に興味なくなればいいし」
ばっと、俺に見せるのは、木籐お勧めの春画。
駆け出しだが、良い作品を出すので、
今度から商品に加えるらしくその試供版を俺にくれるという話だったのだ。
そうして、感想を聞かせろとのこと。
「だから、年下にそういう世界を教えるのはいけないんだぁぁぁ」
と、言いながら、木籐推薦の品はなかなか良くて、つい目が追ってしまう。
最後には、木籐の手から俺の手へ移っている始末。
その夜、俺は他の木籐推薦の品を読もうとすれば、
部屋の隅に綾部くんが立っていて、滝が泣いてるんです。と幽霊さながらに訴えてきた。
本当、心臓が止まるかと思った。
だが、綾部くんから聞かされた内容に、俺は居た堪れなさを感じている。
ま、まさか。俺と木籐との内容がばれて、幻滅してしまったのか?
俺のこと不潔とか。ああ、せっかく出来た可愛い後輩が。
と、悩みながらも綾部くんに言われた部屋へ行けば、
いつものように綺麗な顔で、いつもより幼い顔で、寝ている滝夜叉丸くん。
涙の跡が痛々しく、俺が汚しちまったのかと、罪悪感に悩まされていると、
彼が、おきて俺を蔑むように睨んでる。
すいません。本当すいません。廊下で春画の話とかしてマジすいません。
だけど、君はまだ存在を知っただけだ、汚れてない。
綺麗さ。ていうかそのままでいてくださいという、気持ちを言えば、
どうにか許してくれるらしい。良かった。本当にいい子で良かった。
腕にしがみついてくれるし、撫でても汚いって言われない。
ああ、本当、滝夜叉丸くんの言う通りだ。
春画は、もうちょっと大人になってから。
そのときは、ちゃんと加えるよ。
2010・2・6
【リクエスト。滝夜叉丸といちゃいちゃ?
いや、外からみればいちゃいちゃしていなくもないはずだ!!
この後、ぎゅーと抱きついて、あわよくば布団の中にと思っていると綾部くんに邪魔されます。
気に入ってくだされば幸いです】