俺は何か間違ったことをしただろうか?
己に聞いてみた。白いのと黒いのが二人出てきて言い合う。
白い俺は、いいや、間違ったことをしていない。
俺がそんなことしているわけがない。だが、GJ!!
黒い俺は、いいや、泣かした。もう、嫌われたおしまいだ。だが、GJ!!
白い俺は笑顔で、黒い俺は泣いて、いい仕事したなお前。
と略文字を、略さずに労われた。
白い俺と黒い俺は、天使と悪魔とかそんな奴らじゃない。
白いのがツンデレで、黒いのがヘタレ。なんだ、俺の頭はどうなってる?
いや、仕方がない、俺は、今、視覚的に非常に問題なものを一番間近で見ている。
脳みそも狂うはずだ。
6年間忍術学園にいて、第六勘というものが鍛え上げられてきたのだが、
が暴れたときよりも、危険だと感じている。
しかし、俺は眼を離すことができない。というか、近づいて行っている気がする。
ポロリ、ポロリと大粒の涙を流して、くしゃと顔をゆがめる
徐々に頬が赤く染まり、仙蔵がさっき言っていた甘い匂いが、濃く匂う。

「泣くな」

と、抱きしめる手前で、頭を撫でた。
の髪は、見た目よりも柔らかだ。
背の高い方に入るは、少しだけ下を向いて涙で目を潤ませた世界に俺を映し出した。
ふわりと香る甘い匂い。
忍びのくせに、何をつけていると怒ったことがあったが、彼の場合何もつけていなくて、
お菓子を作ってるから匂いが移ったんですよと、へらりと笑っていたが、
それは間違いだ。彼自身から強く香る。
涙が、飴細工のようで、舐めたら美味しいそうだ。
彼自身が、最高級の砂糖菓子のようで、何を隠そう俺は甘党なのだ。
別に、俺は、に対して仙蔵のような気持ちを抱いていない。
団子屋志望とか言っているほわほわした奴で、
友人である仙蔵が多大の迷惑をかけている被害者だという認識ぐらいだ。
だが正直、今なら抱いても、抱かれても構わないとまで思っている。
なんで、こんな気持ちになるのか分からない。ただドキドキと胸が高鳴り、
目の前の彼を自分のものにしたいと思うのだ。







【彼と天女の勝手な戦争 8】







仙蔵が起きていなくてよかった。
知られれば、命がなかっただろう。そっと、髪の毛じゃなくて、頬に手を当てて、
の肌は、前小平太が言っていた通り、すべすべで肌触りのいい肌だ。
涙を舐めようとした。
だが。

「何しようとしている。潮江!!俺のかわいい後輩に手を出そうなんて、
何百億光年の歴史からやり直してこい。このミトコンドリア!!」

細胞単位で、なじられて、頭に激痛が走った。
後ろを見れば、俺の頭を蹴っただろう食満が、片手に竹谷を引き連れ、
ふんと鼻息荒気にして、仁王立ちしている。
しかも、と同じように涙を流しているのだが、まったく魅力のみの字もない姿、
むしろ哀れな姿に、言い返そうとした言葉を忘れ。

「食満、おまえこそ後輩を巻き込むな」

「違う。この涙は、に嫌われて、死ぬほど悲しいから泣いたわけではなくて、
に嫌われ続けて用具委員の時声かけてもらえなかったらどうしようをとか思ったわけでも」

「食満先輩、心の声ただ漏れです」

竹谷の突っ込みを無視して、食満は俺をはねのけてのもとへ行った。

ー!!俺がついてるぞ。あのアメーバみたいな奴は俺がやっつけたから、
大丈夫だ。俺の胸で泣け!!」

アメーバというのは、俺だろうか。ミトコンドリア以下になった俺は、
食満に言い返そうとしたが、台詞を言ってカチンコチンに固まり。

「な、なんてことだ。潮江。俺はとうとう、赤い紐でシンデレラな、
俺だけのお姫様を発見したようだ。こんな近くにいたなんて。
ど、どうしようか。名前をまず聞いた方がいいか?」

何を言っているんだ。名前も何もおまえの後輩の ではないか。
赤い紐でシンデレラって何だ?

「おい、食満」

と、声をかけるのと同時に、食満はの肩をガシっと掴むと。

「お姫様。俺と一緒に、夢の世界へ飛び立ちませんか?」

おまえは、どこに飛び立った?
食満の泣いた顔は、キラキラ目を輝かせて、頬を紅潮させ、
まるで、好きな人物に告白するようであった。
いや、多分そうなのかもしれない。前、伊作とともに、お姫様王子様と叫んでいたから、
つまり、食満の眼には、がお姫様に見えていると、そして俺もそんな状態だったと、
あ、なんか、今全身にさぶいぼが立った。

「目を覚ませ、食満。それは、おまえの後輩のだ。お姫様じゃない。性別違う」

「そんなわけがない。こんなに美しい人がお姫様じゃないわけがない」

「ちょっと、まじでどこ行っているんだ、お前は!!胸だってないだろう」

「俺は貧乳でも愛せる。むしろ、貧乳のほうが好きだ」

「だから、ショタコンだって言われるんだよ。ほら、触ってみろ」

「な、なんて破廉恥なことさせるんだ。おまえこの破廉恥魔」

「っていいながらしっかり触るな。おまえは」

「据え膳だ。男らしいだろう?」

「おまえ馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、馬鹿すぎてむしろ天才だ」

天才的な馬鹿だ!と
食満とやり取りをしているときに、ずるずると音が聞こえた。
なんの音だろうと、後ろを振り向くと。

「も〜ん〜じ〜ろ〜う。と〜め〜さ〜ぶ〜ろぅ」

黒い長い髪がずるずるとこっちに近づいている。
カッと見開かれた両目に、つい食満と抱きついた。
ゆらりと立ち上がった仙蔵に、いいや、これは違うぞ。仙蔵。
と、俺が震えながら言いわけしている中、
仙蔵。俺、お姫様見つけたよ。なんだか近くにいたみたいだ。
と、食満は怖がるのをやめて笑顔で仙蔵に近づいた。
さすが天才的馬鹿。怖いもの知らずめ。
逃げようとしたのだが、まず、食満の襟元を掴み、俺の襟元を掴むと、
凄い形相で。


は、私のもんだ」


・・・・・・と、これが俺が見た最後の光景だ。なんてトラウマ。
おかげで二・三日仙蔵を見れば勝手に震えが来るようになった。
その後のことは知らんが、近くにいたため巻き込まれた竹谷には悪いことをした。
すまん。













2010・2・23
【まず、6年+竹谷の全滅。この後仙蔵は一目を見て、鼻血を出し力尽きて倒れている】