からの攻撃は、徐々にずしりと重くなっていく。
の武器の木を、横にいなせば、手がじんじんと痛んだ。
見ると赤く腫れていた。どんだけの威力だ。
汗をかく。もちろん、熱いからじゃない。
香苗さんを守っているみんな分かっているはずだ。

「なんでこんなことを!!

の用具委員の先輩でもある留三郎が声をかけたが、彼は何も返さない。
ただ、背中に何かが乗っかったように重くなった。
の出している気だろう。殺気ではない。
彼に、私たちを殺す気などサラサラない。あるのは、純粋な怒りだけ。
が、一歩踏みしめ近づくたびに、に一番近い私は、
怒りよりも、恐ろしさよりも、何よりも悲しくなった。
視点はちゃんと定まって、対峙している私たちと目が合っているはずなのに、
彼は、何も見ていない。
彼にとって、私たちは、そこらへんの石ころ程度なんだ。
それが、凄く苦しい。手も痛いけどそれ以上に胸が痛い。
唇をかみしめている私を、いつもならどうしたんですか?と言ってくれるのに、
彼の顔は無表情で、なんの感情も抱かれていない。


「私を見ろ。

そう言って、突っ込んだ。そうすれば私を見てくれるって思ったから。





学園の規律を乱すものは何人でも許さん。
5年生の彼に指導を言い渡すつもりで、攻撃を仕掛けた。
小平太の「私を見ろ。」を合図に、
長次の縄が彼の足に絡まり動けなくする。
そこに、小平太が拳を振り上げ、俺はクナイを、仙蔵が焙烙火矢を投げていた。
しかし、彼は足をなんなく動かし、逆に長次を引っ張り、
そのまま跳躍し、俺たちの方まで飛ぶと、足を左から右へ蹴りだした。
それを避けると、かわりに木が何本か倒れていた。
俺たちが、その様をひくひくと口端がひきつっていれば、
彼は、小平太のところへ行き、小平太のガードした両手の上から、拳を振るえば、
後ろにいた長次ともども、吹き飛ばされ木に叩きつけられて二人とも気を失った。

「てめぇ」

と殺気を込めて睨んだが、彼はまったく動じていない。
その無表情に、いつもと違いすぎる様に俺はそいつに聞いた。

「誰だおまえは?」

「文次郎、アレはだ」

答えたのは、隣にいた仙蔵だった。

「なんで、断言できる」

「もしも変装していたとしても、匂いまで偽るのは無理だ。
甘くて切なくて苦しくて、悶えそうになる匂いまさしくだ」

くんと鼻を動かしたけれど、仙蔵の焙烙火矢のせいで、火薬の匂いが一番強い。
なんで分かるんだ?この男。いいや、聞くまい。絶対「愛」とかいう、こいつなら。

「でも、あれだな。いつものは優しくて甘えたくなるけど、今日のは貶されて調教されたいな」

とうっとりを下から上までなめるように見ている仙蔵に、
バカモン頭冷やせ、この変態が。と言う前に。

ぐぱぁぁぁ。

「仙蔵ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

は、木を仙蔵に投げつけた。

「くそぅ、よくも、よくも」

と、直撃した仙蔵を介抱するために、近寄れば。
ぐっ、じょ、女王様で、ピンヒールと鞭とレザーを買ってこなくては。
ふ、痛みも愛。と言って黙った。

「・・・・・いや、やっぱり、よくやった、!!!」

仙蔵が入ってくると面倒なことになる。
というか、仙蔵がこれ以上壊れるのは勘弁だ。
俺の手に負えなくなる。
気絶していてもらった方が、ましと思っていると俺の前に影ができた。
顔をあげると、青紫色。5年生。

「・・・先輩達、なんのコントしてるんですか?」

鉢屋が、あきれ顔で俺たちを見る。

「みんな、用意はいい?」

不破が、クナイを構え。

「ああ、こんなこともあろうと、豆腐はOKだ!」

久々知が、両手に豆腐を構えた。

「なんの準備だ。それ」

「前、くのいちに教えて貰った豆腐ぷれいとやらを」

ぽっと頬を染めた久々知に、

「うん、兵助。それは、今度にしようね」

不破がペイっと豆腐を横に払い、それを地面に落下させた。
豆腐ぅぅと久々知の叫び声を不破は、ニコニコと笑顔で無視した。

「ず、ずるい。わた「三郎?」さぁ、覚悟しろ。

ようやく、正常に戻った久々知は、もう一人を探し聞いた。

「あれ、ハチは?」

が、もうすでに二人が動いてしまったので、さっき立てた作戦通り動く。




【僕と天女の勝手な戦争 6】





俺の後輩はかわいいどうしようもなく素直でいい奴だ。
そいつは、どうしてか何も持っていない傷だらけの少女に一方的な攻撃している。

「なんでこんなことを!!

と言えば、一瞬だけこちらを見た気がした。
しかし、その顔はいつも見せてくれる後輩の顔ではなかった。
無表情。氷のように冷たいまなざし。ズキっと胸が痛くなった。
彼が俺にそんな顔をすることが信じれられなくて、
呆けていれば、小平太と長次、潮江と仙蔵が攻撃をしかけた後だった。

俺は、何もしなかった。いや、出来なかった。
ぼうっとつったている俺に、不思議そうな顔をして竹谷が近づいてきた。
「食満先輩?」

俺は、竹谷の服を掴む。え、なんっすっか?と驚いている竹谷を、
無視して、そのまま。

「うぅうぅうう、さ、竹谷ぁ、がにらんだぁ。おでのことぎらいになっだんだぁ」

「え、ちょっと」

「なにもきがないでおごっだがらぁ、うぁぁんおでがわるがっだ」

「冷静になりましょうよ。ほら、涙と鼻水ふいて」

「うあぁぁんん、、ぎらいになんなおいでぇ」

は、そこまで器量が狭くないから、信じましょう。ね?」

そうして、俺は竹谷のお世話になっていた。







先輩たちがボロボロになっていく。
先輩はいつもニコニコ笑っていて、優しくて何をしても怒らないとどこか思っていた。
しかし、目の前の先輩は、無表情に怒気を発し怒っている。
先輩が、なんで怒っているか分からない。
先輩が、なんで香苗さんに手をあげたのか、分からない。
香苗さんはいい人だ。よく迷子になる彼らの手伝いもしてくれるし、
なれない仕事だって頑張ってくれるし、優しい人。
俺は、そんな、二人は仲良しになれるって思ってた。
わっかんねぇー思考がぐちゃぐちゃだ。
俺は理不尽なことをしている先輩を嫌いになればいいのか、
どうすればいいのか分からないまま、先輩たちが倒れていく様を見ていた。
他の人たちはどうなんだろう。先輩に幻滅して嫌いになっているんだろうか。
ちらりと、同級生の顔を見れば。

「その調子です、先輩。先輩に近寄る奴ら全部いなくなればいい」

と凄いいい笑顔の孫兵の姿に、異常さと、尊敬を覚えた。
彼がぶれない。何事があっても、先輩を好きでいるんだろう。
阿呆だな。俺。
心の底では分かってた。香苗さんが先輩に、会いたいって言った日から。
二人が、出会って、仲良くなって欲しいなんて、嘘だ。
先輩が香苗さんに怒りを感じていることに、どこか歓喜している自分がいる。
先輩は、男よりも女が好きな人だから、
それでも、他よりも遅れている俺は、これ以上、近寄れなくなってしまうが怖かった。
本当は、孫兵と同じ気持ちで、これで周りが先輩を嫌いになって、
そしたら、俺だけのものにできないか、なんてそんなこと思ってた。
けどこれは、恋慕じゃない。きっと、敬愛の最上級のものに違いない。






木の上から様子を見ていた彼らは、少し青ざめた顔をしていた。

「・・・・・・やっぱり、行きたくないし」

「行きたくないって、木籐、わがまま言わないで、早くしないと出ますよ。アレが」

「だったら、峰行けよ。アレが出る前のの強さって並みじゃないんだぞ。
ほら、いけ、椿次期頭候補」

藤野の言葉に、峰が切れてうるさい。おまえだってそうだろうが、と
昔の口調と、無表情で怒り、小さな喧嘩が始まった。
木籐が、「そんな場合じゃないじゃん。二人とも、無駄なことしてんな」
と止めに入ったが、二人はやめない。それどころか、

「じゃぁ、おまえが行けよ。「狐」」

そこから三人の喧嘩が始まった。

「おやおや、なかなかお菓子の時間になっても、くんが来ないと思えば」

その場所に場違いののんびりとした声が響いた。
三人が振り返れば、いつの間にか同じ木の枝にいる存在に三人が声をそろえた。

「「「し、篠神・先生!!」」」

「早くしないと、お茶がさめちゃいますよ。くん?」


彼はニッコリ笑った。












2010・2・18