その出会いは、偶然であり必然だった。
彼と彼女は出会うべくして出会ったのだ。
しかし、
彼らの関係は、運命の赤い糸。ガラスの靴よろしくのような関係ではなかった。
彼と彼女の関係は追うものと、追われるもの。
食べられるものか、食べられないものか。弱肉強食。
その、ことの発端が、食べ物であることがまた運命である。



「藤野、さっきから、キモイ」
と、ここで邪魔が入った。と
若干キレ気味の木籐が、俺にもともと釣り目の目をもっと吊り上げている。
俺にあたってもしょうがないのに、ヤレヤレと思うものの、
横に静かに笑って、殺気を散乱している峰よりはましだろう。
あはははと、俺はいつものような豪快な笑い方の音量を下げた。
このところ、俺たちは、天女たる「日柄 香苗」の静かで、
一方的な戦いを高みの見物をしていた。
一方的な戦いは、二種の意味がある。
一種は、敵対視しているものの、実物の本人と会ったことがない。
これは、の陥落者の仕業である。
彼らは、前俺がセッテングした好みの女の子の紹介をことの見事、
自らの容姿を武器に壊した。
かわいそうには、泣きながら、
「助けてくれ!!藤野。後輩が、穢れない後輩が、あっはんうっふんな所に、
俺を連れ込もうとする幻覚が見える。
今回の紹介でイケメンに全滅させられたショックだのせいだ」
なんて、戯言を言っていた。どうみても、幻覚ではありえないの服の乱れで、
立花先輩が鼻血を出してぶっ倒れ、七松先輩がに襲いかかり、
それを、中在家先輩がぐるぐる巻きで連れていったぐらいの被害ですんだのは、
紹介をつぶしに行った陥落者の多さが物語っている。
彼らは、一分でも彼らにとって最悪な可能性がある女を、に近づけたくはないのだ。
それに当てはまった天女さんは、不審者との名目で、近づくことを禁止されている。
そして、もう一種は、一方的敗退だ。
彼女は、未来人という想像し難い世界の雰囲気と、言葉使いに、考え方。
可愛らしい外見と、ときにみせる儚さ、また時には、猫のようなきまぐれさ、
また時には、お姫様のような高慢さ、子供のような純粋さ、最初のだけでも、
なかなか魅力的なのに、
彼女は自分という容姿も見せ方も全て知った上で、行動していた。
普通ならば、いいや、容姿性格ともに極上であっても、彼女には敵わなかっただろう。
なぜならば、彼女は、目の前の人物の好みに合わせられるのだ。
つまり、彼女は、誰よりも、居心地のいい空間を作り上げることにたけている。
そんな千差万別に変えれる一種の天才とも言わん才能に、
凡人が勝つには、年数を積み上げることだけだ。
けれど、忍術学園にいた数年間程度では彼女に敵うまい。
それほどの実力者だ。
だが、忘れてはならない。
我が5年は組の は、容姿は平凡。体、ひょっろい。性格、ただの甘党。
が、年に二・三回彼のためだけのイベント(無許可)があるのを!
入りは数百人。毎年人が増え、彼のファンクラブも支部が、できはじめている。
おっと、ここからの内容は、木籐の管轄だから、これ以上は言えない。

つまり。 は、凡人ではなかった。

だから、彼女がいくら天才であっても、凡人どころか、
俺は、ある種、超人だと思い始めているに敵うわけもないのだ。
しかも、年月まで積まれている。
これが、逆だったなら、まだ話は別になっていたかもしれない。

とまぁ、近況報告はこのぐらいだ。
そして、なぜ今俺たちは急いで走っているのか。焦って殺気をにじませているのか。

「きゃぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

と女の叫び声とともに、ドォンと何か倒れる音と土煙。
それを見て、峰が言う。

「あそこですね」

「ってか、木籐あの中、マジ入りたくないんだけど。なんか超怒ってるんだけど」

自分たちの殺気以上の殺気。
慣れ親しんだ気配に俺はこめかみを押さえた。
今だけは、木籐と同じ意見だ。

「僕だって、ごめんです。けど、もしアレが出たらどうするんですか!!」

峰が言う言葉に、俺と木籐顔を見合わせ、はぁと重いため息を吐く。
アレは、思い出したくもない攻撃だ。破壊力が半端ない。
の最終兵器。
昔、俺たちは、それで一度三人倒れた思い出がある。
あんときは、自分たちが一番だなんて思いあがってたから、アレの威力は、
数日部屋に、こもるぐらいのものがあった。

「・・・・・・しかも、今は陥落者もいますし、この騒ぎを聞きつけないわけがないでしょう」

「・・・・・・やばいな」

「・・・・・・地獄図」

ああ、高みの笑いなんてしないで、なんらかの対策をとれば、
だけど、いくら俺たちが人より秀でているからって、宿命ばっかりは、操れねぇよ。


二度目の女の叫び声に、止めた足をもう一度進めた。
アレが、始まる前にことが終わってますようにと祈りながら。




【彼と天女の勝手な戦争4】






俺はどちらかというと、あまり怒らないほうだと言われる。
そう言われるたびに、自分の中に違和感があった。
言い知れない違和感が、なにであるか理解したときは、ことは起こった後だった。
起こった後の大惨事から、俺は次をつくらないために、こまめに愚痴をいい、吐き出していた。
とてもラッキーなことに俺は、自分の愚痴を言える友達もいる。
奴らは俺のくだらない話でも、笑って、ときにはマジになって聞いてくれるいい奴らだ。
でも、どうやら今回も、そのいい奴らの助けを借りてしまいそうだ。
俺はあまり怒らないのではなく、ただ人よりも怒りを溜めることができて、
その爆発が人にとってみれば、とてもくだらない事だったりする。

その人に出会ったのは、偶然。
俺ら、5年は組は、篠神により、
組が調理場に早変わりなんて便利なものを持っているので、
食堂を利用することはほとんどない。
その場所で、俺は彼女に出会った。
食堂へ行った理由は、食堂のおばちゃんに言われた食材を取りに行くため。
俺と食堂のおばちゃんは、月一度、食事の交流会をする。
なので、俺が学園の中で一番親しい女の人は、おばちゃんだったりする。
か、悲しくなんてない。むしろおばちゃん最高だ。
料理はうまいし、気を使ってくれるし、癒しだし、本当最高なんだ。
まぁ、俺の女事情は置いておいて、前の交流会で、
おばちゃんが作った料理が、美味しくて作りたいと言えば、その時食材がなく、
今度入ったら教えてくれる約束で、今日その食材が入ったらしいのだ。
俺は、その時におばちゃんが美味しいと言ってくれた桃まんじゅうを、手土産に向かった。
しかし、いたのは、綺麗な女の人。
彼女は、笑顔で俺に対応した。彼女は、とても優しく、そしてとても手際よく俺に、
おばちゃんから言われた食材を渡してくれた。
俺は、その間、彼女の横顔を見ながら、こんな綺麗な人だったのか、
あの有名な天女さまとやらは、確かに天女なんて大げさな名前とか思っていたけど、
からり美人だ。眼福眼福。
しかも、これで手際もよくて、愛想も良くて、優しそうだし、
なるほど奴らが本気になる理由も分かる。これは、俺は無理だな。
うん。うん。、と頷いている俺の明らかな変な仕草に、彼女は笑顔をたたえたまま
小首をかしげている。

「どうかしたの?」

不思議そうに俺をみやる彼女に慌てる。
やべー、今の俺かなり不審人物だった。
あはは。とから笑いをしながら、手元にある桃まんじゅうを思い出した。
結構な量を作ったので、彼女にあげても大丈夫だろう。

「いりますか?桃まんじゅう。さっき蒸しあがったばっかりなんですよ」

差し出した桃まんじゅうに彼女は眼を輝かす。

「まぁ、美味しそう。これどこで買ってきたの?」

「俺が作ったんですよ。お菓子作るのが趣味で」

「お菓子?」

「あ、男らしくないですかね?」

「ううん。私の世界じゃぁ、お菓子が得意な人は男の人が多かったもの。
それより、こんなに美味しそうに作る人がいたんだなって、
ここに来てから結構経ってるのに知らなかったとこが、びっくり。
損しちゃってたな、私。
あ、遅くなったけど、自己紹介。
日柄 香苗っていいます。よろしくね。
あと、天女とかじゃなくて、ちゃんと名前で呼んでほしいな。
私は、ただの普通の女の子だから」

普通に、いい人だ。この人と、じーんと感動して、
名前を紹介されたので、俺は、普通に返した。

「俺は、5年は組  っていいます」

ただの団子屋志望の忍たまです。と言おうとしたときだった。
彼女が、淹れていたお茶が、湯呑みからあふれている。
布巾。布巾と、俺が慌てて探しに行こうとすると、がっと腕を掴まれた。
彼女の細腕から理解し難いほどの強い力で、
また笑顔を張り付けているものだから、背筋が一瞬ぞっとした。
ど、どうかしましたか?と聞く前に、彼女が口を開いた。

「あ、あなたが ?」

「え、はい?」

「ほ。本物?」

「偽物がいるほど価値はないと」

何を言っているのだろうか。それよりも、腕を離してくれないだろうか。
痛くはないけど、さっさと机を拭きたいし、桃まんじゅうがしける。
すいません。ちょっと手を離して。という前に、また彼女に遮られた。
今度は、笑顔がなくて、強い怒りを込められた視線で睨まれる。

「なに、私はあんたに負けたわけ?意味分かんない。
こんな、こんなさえないただの地味男じゃないのよ。
なんで、私が負けてるわけ?あんた、何したわけ?アッチのほうがいいとか。そういうこと?
ってことは、作兵衛くんもあんたの歯牙に?」

ぶつぶつと何か呪文を呟いている。やっぱり彼女は天女のようだ。
言葉が理解し難い。こういうときは、甘いものが一番だ。
泣く子も、怒る子も、言葉が通じないものも大体これで片付く。
桃まんじゅうは、お茶に浸されてびしょびしょで、
俺は、濡れていない最後の桃まんじゅうを彼女の目の前にかざした。

「甘いものをとるといいですよ」

彼女は、一瞬目を見開いて呆けた顔をしたけれど、次の瞬間顔をゆがめて、

「いらないわよ。こんなもの!」

そう言って、最後のしけってない桃まんじゅうは、弧を描いて地面に落ちていった。
桃まんじゅうの最後の叫び声は、「べちゃ」だった。
桃まんじゅうが落ちる数秒間に、俺は彼女の手を振り払い、桃まんじゅうの追いかけていた。
その間に思い浮かぶのは、作っている幸せな気持ち。
相手に美味しいって言われて、また幸せをかみしめるだろう妄想。
彼らは、人の命とかそんなものはないけれど、
命を奪って作られたそれらは、新たな命を宿したはずだ。
それなのに、ああ、それなのに。
彼女は、俺が地面に這いつくばる姿を見て、歪に笑い声をあげて、
俺の目の前で桃まんじゅうを踏みつけた。
二度目の彼の叫び声は「ぐしゃ」だった。

俺の中で、ブチンと何かがキレる音が聞こえた。

人に暴力はよしましょう。武器を携帯しない人はやめましょう。女子供はやめましょう。
その三つすべて破るようだ。
ごめんなさい。「天女さま」これからあなたがどうなるか俺ですら分かりません。
だけど、作った人の前で、作ったものをないがしろにしちゃいけません。
俺のなかで、一番のタブー。じゃないと、お仕置きしちゃうよ?









2010・2・16
【天女さまと主人公、出会いました】