「あのね、休日。一緒に遊びましょう?」
と笑顔で言えばみんなの答えはYESだったはずだ。

「すいません、どうしても外せない用事が入ってしまって」
「すいません。その日、盛り付いた雌犬が私の大切なものをしゃぶりつくんで」
「すいません。完璧な女以上の可愛らしさを身につけて、襲われてきます」
「すいません。どうやら私は結構先輩の好みだったようです」
「すいません。豆腐が好きです。でものほうがもっと好きです!!」

段々言い訳というか、彼らの言っている具合が変になってきてくらりと眩暈がした。
と、いうか一番目以外、すいませんと思っていない。
二番目と三番目は女である私に挑戦状でも叩きつけられたような気分だし、
四番目は、わけ分からない。好みか。良かったな。だから、なんだ!!
だけど、五番目は、あれのパクリだとしても、全然可愛らしさの欠片もない。
なんで私に告白する?イラってきたけど、私の後ろで、
「その象さんパロの台詞いける萌!」と小さな声が聞こえて、
すぐ後ろを振り向いたけど、誰もいなかった。


香苗さん。すいません。とまた声が聞こえた。
今度はどんなことを言われて断れるのか、そうして私はどこまで切れずにいられるのか、
もはや分からない。だから、攻撃に出た。
「すいません」
の言葉に私はそう、悲しいわ。としゅんと落ち込んだ顔をする。
彼は慌てて、すいません。というから、
いいの、どこか分からない子よりも、好きな人のほうがいいわよね。
といえば、俺が、先輩をす、すすす、好きだなんてそんな訳ないじゃないですか。
違うんです。俺は違う。とブンブンと手を振って真っ赤な顔してる。
これで、違うという方が無理だ。
さっきまでの奴らに見せてやりたい。これが純情だ。
これなら、まだ可愛い。ちょっとだけほんわかした気持ちで、
彼、作兵衛くんを見ていたら、後ろで、
ちっ、かまととが。ぐだぐだ言わずにさっさと落ちればいいものの。
そうすれば、孫兵VS作兵衛とか3Pとか話書けるのにと聞こえ、頭が覚めた。
いけない、可愛すぎて攻撃を忘れていた。
私は、少しだけ頬を赤くして可愛いと思われる角度で、
お願いをする。

「あのね、用事って、 くんに会うんでしょう?
みんなそうだったから・・・・・・。
でね、私もみんなが好きなくんに会ってみたいんだけど」

ダメかなぁ?と首を傾げれば、冷静になった彼はまた少しだけ頬を赤らめて、
分かりました。紹介します。と言いかけていたときだったのに。
シャァーと人の声以外のものと誰かの声が邪魔をした。

「ダメだ」

「孫兵」

「ダメに決まっているだろう。
なんで先輩に不審人物を近づけなくちゃいけない」

じろりと切れ長の目で睨みつけられる。
こんなもの、狂気じみた愛を吐く奴の目つきより全然怖くない。
だけど、それじゃ、あんまりにも強すぎるから、
きゃとかわいらしい声を上げて怖がって作兵衛くんの背中に隠れる。
それに作兵衛くんが、おい、止めろよと言ってくれる。
本当に、作兵衛くんはいい。優しいし男気もある。
蛇男がいなくなって、彼は私のほうに苦笑を向ける。

「大丈夫ですか?香苗さん。あいつは悪い奴じゃないんですけど、
あいつは・・・先輩が本当に好きなんですよ」

と、最後の台詞が哀愁があって、自分の気持ちを素直に言える彼への
尊敬、嫉妬色々なものが混じっているのが見えて、
ああ、本当に。
本当に はムカつく。





【彼と天女の勝手な戦争 3】






「じゃあ、今度の休みに好みの女の子紹介しようか?」

と言われた俺は、そのまま藤野に抱きつこうとしたけれど、
はははは。お前、嫉妬で俺を殺すきか?と避けられた。
なんだよーとむくれる俺に、さっきまでたくさんいた奴らを追い返した峰が、
ようやく。にも、彼女が出来ますねと、笑っていたから、
避けられたことを忘れて、俺は、嬉しくて休日まで、
色々なシュミレーションをしていた。
恋人が出来たら、まず、あそこの甘味屋に行って、
手繋いだりしちゃったりして、服とか小物とか見て、
店屋の主人に、お、恋人ですか?なんて言われて、
ふふふふと笑い声を押し殺すことが出来ずに、
ごろごろと悶える俺の姿は滑稽だっただろう。
待ちに待った休日。俺が藤野に言われた場所に行けば、
学園のイケメンがずらりと並んでいる姿に、俺は涙した。
お前らは、もう良いだろう。俺にだって小さな夢見さしてくれよ。
結果?ははは、言わなくても分かるだろう?
かなわねぇよ。馬鹿やろう。

しかし、俺の休日まで見ていた妄想は叶った。

先輩。この店入ってもいいですか?」

と、ぎゅっと腕にくっつく美少女。

「わ、私に似合うと、思いませんか?」

と、照れて可愛い顔で、簪をつける美少女。

「おや、両手に花ですか?旦那やるねぇー」

「はははははは」

二人につりあわない俺に嫉妬を飛ばしている野郎共。
驚くなかれ、彼らは男だ。
こっちの方が似合うよ。とか、私のほうが可愛いと言いあっている二人の後ろに
花が見えて、あれ?男だよね?と目をこするが、彼らは正真正銘男だ。
あの場所で紹介された可愛い俺好みの女の子達は、
当たり前のごとくみなイケメンに夢中。
俺は、あまりの居た堪れなさに、ちょっと厠へと、席を外し、
そのままダッシュで学園に帰ろうとすれば、女装の彼らがいた。
なんで、女装でいるのかは知らないが、
あまりにも落ち込んでいる姿が哀れだったのだろう。

「逢引しましょうか」

と、擬似恋人体験をさせてくれている。
良い後輩を持って幸せだと言えば良いのか。
イケメン死ねと嘆けばいいのかよく分からない。
ぼーとしていたらぎゅーと腰に抱きついてくる綾部くん。
その姿をひっぱがし、ぎゅっと腕を絡ませる滝夜叉丸くん。
むーと膨れた綾部くんが片方の手に同じように腕を絡ませた。
まったく動けなくなった俺は、近くを見ることしか出来なくて、
小物屋にある色とりどりの髪留めを見れば、朱色と空色。
身近にあるうねうねした柔らかな灰色の髪とさらさらと真っ直ぐな黒髪に似合っていたので。

「おじさん。コレとコレ貰うよ」

「毎度」

そうして、にらみ合っている二人に髪留めをあげた。

「え、これ」

「・・・・・・」

見上げられる二人は、男だと分からないほど可愛い。

「似合ってるって思ったんだが、迷惑か?」

と言えば、滝夜叉丸くんは顔を真っ赤にして、綾部くんは下を向いた。

「い、いいえ。大切にします」

ぎゅーと朱色の髪留めを握り締める滝夜叉丸くんに、笑顔を向ける。
すると、滝夜叉丸くんが絡めていた腕から力が抜けて、
反対方向からくいくいと引っ張られるからなんだと顔を向けると、
綾部くんが、耳打ちをしようとしているので、背をかがめて聞こうとすれば、
頬に柔らかで温かい温もりと、チュっと音がした。

「ありがとう、嬉しい」

と無表情が常な彼が目じりを上げて頬を赤くして喜んでいる。
喜八郎!!と横から声がしたけれど、
好みの女の子は全部イケメンに盗られたけれど、
俺、今、彼らが男でもいいやと思ってしまった。
きっと、彼らがそこいらの女よりも可愛かったのがいけない。
きっと、俺が、女に飢えていたのがいけない。
口にしたら、目をギラギラ輝かせてなんか変な場所へ連れていかれそうだった。
可愛いが猛獣に変わる瞬間を俺は忘れない。









2010・2・2
【4年の勝利のかい。そして知らないところで、もっと憎まれている主人公】