もぐもぐと大きな口を開けて食べ物を頬にできるだけ詰め込み、
ごっくんと飲み込んで神崎くんが俺に尋ねた。
「で、姉ちゃん一体誰なんだ?」
姉ちゃんと言われて思考が一回止まったが、
そういえば俺は女になっていたんだっけと、思い出し、
へらりと締まりの無い笑みを浮かべた。
「えーと、そうだな。潮江先輩あたりの幼なじみの友達かな」
つまり他人だ。
ん?と神崎くんが、頭をかしげている間に、
横にいて沈黙していた少年・次屋くんが尋ねる。
「へー、でなんでここにいるんだ?」
それは。
「話すと長いから、まぁ、ご飯食べようか?」
俺は話すという選択を放棄し、目の前の飢えている少年たちに、
ご飯を振舞った。出来れば食べて忘れて欲しいとの意味を込めて。
少年らはガツガツと食べ物を消していく。
「うまー」「左門、それは俺が目を付けていた」「口にはったもの勝ちだ」
それから少し経って、
「「ごちそうさま美味しかったです」」と言ってくれた良い子に二人には、
デザートのわらび餅を渡すと二人は目をキラキラ輝かせた。
餌付けは成功したらしく、食べ終わると、
不審者かな?な目を、いい人な目に変えて、神崎くんが尋ねた。
「お姉さんは、いつまでここにいるんだ?」
「一週間だよ」
「じゃぁ、こんなむさくるしいところにいないで、外行きましょう」
間髪入れずに次屋くんに手を引かれた。
この即決、将来モテるだろうなぁと思いながらも、
暇だし外へ出てもいいだろうとされるがままに流された。
なんで自分が、潮江先輩と仙蔵先輩の長屋にいるかという理由を忘れて。
【もはや危険物扱い 4】
くるくるとどこを歩いているか分からないけれど、
そもそも行き先を言ってないからどこへいくのかも分からないのだけれど、
知らない隠れ場所などをめぐって、へーこんな場所忍術学園にも
あったんだ新鮮と思っている時だった、目の前から見知っている顔が近づいた。
田村三木ヱ門は、いつも俺に向ける表情と違う顔をして、
こちらに近寄ってきた。なんでだ?と思うまもなく、神崎くんを掴む。
「おい、左門。お前、前の授業サボっただろう。
富松が探してたぞ。それと、今日は委員会中止・・・って誰だその人」
誰って、酷い。顔なじみだと思っていたのにと考えて、胸に手を当てて、
手に柔らかな感触。そうだった、俺女になってたんだった。
三木くんの態度が分かりほっとした。
知らぬ間になんかして嫌われたのかと思った。
ほっぺたを掴まれている神崎くん(ちなみによく伸びる)
は、手を払いのけて三木を威嚇した。
「いいだろう。ご飯貰ったすっごくうまかったんだからな。
田村にはやらないけど」
「先輩をつけろ!!」
三木は神崎くんを殴った。
いてーと頭をかかえている神崎くんを、マイペースな次屋くんが、
三木の話を聞いて、呟いた。
「作兵衛が心配してるらしい。あいつ迷子になってたから」
その言葉に三木が呆れる。
「・・・迷子はお前らだろう?それにしてもなんかみたことあるような?」
近づいてきた三木にはははとから笑いで、顔を隠す。
絶対ばれたくない。バレたら死ぬ。
女装のレベルじゃない。完全な女になってるんだ。
子供だって孕めるんだ。手足も細くて、折れそうなんだ。
いつもは頼れるお兄さんなのに、お姉さんって。
想像したら泣きたくなったから、次屋くんの後ろに隠れた。
それを見た次屋くんは三木をすっと俺を守るように前に出た。
「ナンパか古い手を使うな」
「お姉さんあいつは嫌な奴だからやめといたほうがいい」
びしと指さした神崎くんに、額に青筋をたてて、
三木はかわいい顔を般若にして、手を震わす。
「おい、どういうことだ?」
「「あー怖」」
後ろに隠れてた俺を、次屋くんはまた手を繋ぎ、
神崎くんも手を繋ぎ、
「お姉さん逃げましょう」
そういって、真っ直ぐ走った。
確実に言えること。
この二人は絶対、いい男に成長するだろう。
まっすぐ走った先は、用具委員の小屋の前だった。
神崎くんと次屋くんを見て、俺の可愛い後輩こと富松が、
持っていた釘を全部落として、二人に抱きついた。
「お前らどこいってたんだ。
かっぱに引きずり込まれて、尻子玉を抜かれた挙句、
口にきゅうりが一杯詰め込まれ、緑色になって
最後にはかっぱの仲間になって幸せに暮らしたと思った。
俺、種族が変わっても、おまえらと友達だからな、石なんて投げないからな」
「「作兵衛」」
二人は感動して、だきかえしている。
微笑ましい。
そして、相変わらずの妄想癖だ、富松。さっきまで何読んだか分かる。
でも空気を読んで、俺は黙った。
「俺も、作兵衛が鶴だとしても、変わらず好きだ」
そういった次屋くんに、ああ、と神崎くんがのっかる。
「ぼくはちゃんと助けるし、言われたら覗かないぞ。絶対覗かない。
作兵衛は鶴になって空へ帰らなくていいんだ。
ずっと僕らと一緒に暮らすんだ」
「お、お前らぁぁ」
「「作兵衛」」
・・・微笑ましい?
「なるほど、鶴の恩返しか。3年生って面白いなぁ」
今度は空気を読まず、口にした。
あはは、今日も天気がいいな。と空を仰ぎみれば、鳥が飛んでいた。
綺麗な鳥で、一体なんて言うんだろうと鳥の行方を追えば、
目つきの鋭く、それを気にしている、後輩に激甘い食満先輩が
目を見開いて俺を見ていた。
常日頃、目怖くないですよ。と言っていたけれど、
怖い。すいません。怖いです。そして、なんで俺を凝視してるんですか?
異常な食満先輩の態度が怖くない、
そろそろ演習も終わっているだろうし、長屋に帰ろうと
背を向けた瞬間に、
ドシン
とトンカチが地面に落ちた音がした。
それから、ガシッと音が出ていると思うほど、強く手を握られた。
「あ、あなたは」
「・・・は、離してください。痛いです」
「あ、すいません。興奮して」
そういって食満先輩は俺の手を離した。
しかし熱い視線が外されることはない。
「あの覚えてますか。俺のこと」(女装して見ちゃいました2)
「えーと、いつですか?」
「あの時の感動を俺は忘れません。そう、ガラスの靴を落としたんです。
その時から、俺はあなたをずっと探してました」
ガラスの靴ってなんだ?
俺そんな靴持ってないし、落として、探したってどういうことだ?
落し物を届けようとしたのか?だったら、完全に人間違えだ。
そして、いつもの男らしくてさっぱりしている食満先輩はどこいった。
「そのもしよければここで立ち話もなんなんで、長屋にどうですか?」
「えー・・・と」
鼻息が荒い。食満先輩それで来る人はいません。
そもそも出会って二回目で部屋に誘うのは間違っていると思います。
いや、そんなわけないか。
落し物が部屋にあるから、一緒に行きましょうってことなのかもしれないけど、
先輩、イケメンなのに、残念な顔になってます。
と、心の涙を流しまくっていれば。
「おい」
救いの声が聞こえた。
振り向くと、眉間の皺をもっと深くし、目の下の隈がトレードマークな、
老け顔な先輩は、疲れた顔をして俺を見ていた。
「し、潮江先輩」
名前を呼ぶのと同時に近くまで来た先輩は、すっと目を細めた。
俺は、ビクリと肩を震わす。
「なぜ、俺に黙って外に出た。俺のところにいる意味を忘れたのか?」
「・・・すいません」
そうだ。俺は非常事態だからわざわざかくまってもらったのに、
一日も守れないとか、最悪だ。
ぐっと顔をしかめて、地面を見ていれば、
潮江先輩はそれ以上怒らず、声を平素なものに戻した。
「・・・・・反省しているならいい。
今度からどこか行きたい時には一言言ってからにしてくれ。
それと、早く帰るぞ」
潮江先輩に付いて行こうとすると、
後ろから食満先輩の尖った声が響いた。
「おい、文次郎。さっきから聞いてれば、
お前、やけにみみっちくて器量の小さい男じゃないか」
「なんだと?」
潮江先輩はくるりと向き直した。
「そもそもお前に言わなくちゃいけないって、その人とお前の関係はなんなんだ」
「・・・・」
「・・・・」
俺達は黙った。
ちらりと潮江先輩を見ると、潮江先輩も俺を見ていた。
事情話すか?
女化してるのが食満先輩にバレたら、死にます。
じゃぁどうする?
さっきは、潮江先輩の幼なじみの友人でいけました。
この馬鹿は馬鹿だが6年だぞ。それで通じる訳ないだろう。
ですよねー。じゃぁ、どうしますか。まったく考えてなかった
うーんと二人手を組み考えていたら、
「アイコンタクトしないでくれよ」
「なんで泣いてんだあいつ」
なぜか食満先輩が泣いていた。
話さないと離さないぞとばかりの泣き顔の食満先輩に、
いいたくない俺、いったら峰に何されるか分からない潮江先輩。
膠着状態であった所に、明るい声の神崎くんの声が響いた。
「分かりました!!おねーさん。潮江先輩の彼女でしょう?」
「「!」」
「ばっか。その可能性を否定しようと違うこと
考えてたのになんで言うんだよ。左門の阿呆」
富松が、神崎くんを殴っているが、いいや、むしろよくやった。
俺はにやりと口元をあげた。
「・・・なるほどその手があったか」
「よせ、やめろ」
いや、これしかないんです潮江先輩。
俺は絶対女になったことを食満先輩にバレるわけにはいけない。
食満先輩の方を向いて、仁王立ちして、胸を張って叫んだ。
「そうです。私、潮江先輩の恋人なんです」
「「嘘だァァァァあ」」
食満先輩が崩れ落ちたが、今の声二人分あった、
なぜかというと、
「仙蔵」
顔からすべての液体を出している仙蔵先輩がいた。
いやーすごい顔だけれど、美形は得だ。
汚いよりも、可哀想とか思う。
「か、帰りが遅いから、探しに来たのに、どうしてそんなことに」
「だって、俺のこと知ってるのって潮江先輩と仙蔵先輩じゃないですか。
で、どっちの可能性だったら、潮江先輩かなっと」
美形と平凡はちょっと、鍛錬馬鹿平凡ならまだあるかと。
え、なに、潮江先輩の貸し出し許可は仙蔵先輩の許可が
必要なの?と思っていれば、潮江先輩に肩を掴まれた。
「ほー、お前が俺をどうみてるのか分かった」
「えーいい男ってことですよ。俺、男の時彼女欲しくてしょうがなかったし、
丁度今、女だし、一生で一度くらい夢見させてくださいよ」
ふん。という潮江先輩の顔を見れば、どうやらOKは出たらしい。
ほっとひと安心したものの、腰をガシリと掴まれた。
「私でいいじゃないか。私のどこが駄目だったんだ?」
「いや、駄目なのは俺でして」
「直すからぁ、なんでも直すから私にしてくれ」
「直すも直さないも、完璧ですって、ねぇ潮江先輩」
「思ったんだが、潮江先輩というのは間違っている。
恋人なら、文次郎だろう?」
「そうですね。なら俺は、ですか」
「名前が同じでバレないか?」
「大丈夫ですって、男が女に?なんて夢みたいなこと誰も思いませんから。
もともと平凡なんで、分かりませんよ。ね、文次郎さん」
「・・・・・・なんかいいな」
そうですね。俺、彼女できたら名前にさんずけが一番だと思ってたんですよ。
趣向が同じで嬉しいです。と微笑んでいたら、腰の力が弱くなった。
仙蔵先輩が、膝と腕をついている。
「・・・うぅうぅう、私を無視するな。
そして、なんでノリノリなんだ文次郎死ね。ピンクの空気出すとか、死ね。
爆発して死ね。今すぐ死ね、いや、今すぐ殺す!!」
落ち込んでいた仙蔵先輩の切り替えは早いようだ。
相変わらず、顔からすべての液体を出しているが、
胸元から焙烙火矢をありったけ出して、潮江先輩に投げつけた。
「ま、待て仙蔵、投げるな・・・・がぁぁあああ」
潮江先輩・・・いや文次郎さんは、彼氏となってすぐにお星様となった。
「凄くいいものをみてる。ほら、作兵衛見てみろ」
と左門は笑って、横で手で目を隠している作兵衛にほらほらと
細かく実況中継していた。
そのたびに、作兵衛はひぃーとなんとも言いがたい声で叫んでいた。
「なんで普通な顔して見れてんだよ。俺は怖くて見れねぇよ」
「いや見たほうがいいぞ。三角関係なんてめったに見れない」
のほほんと我が道を貫いている三之助はお土産に貰った、
しおぱうんどけーきとやらを観戦のつまみにしている。
その横で、忘れ去られた食満は、体育座りをしながら、
ぐすりと鼻を鳴らして
「あ、あの人が文次郎の・・・・・・・・し、死にたい」
と呟いた。
2011・4・27