俺たちの生きる場所を導いてくれた大切な人の大切な日。
導かれた奴らが大将を囲んで、自由に楽しんでいた。
その日は、波は、穏やかだったけれど、中は渦を巻いている。
俺の憶測を、誰にも言えるわけもなく、奴の肩を、強く握りしめた。

”そっちは、いっちゃいけないよ?”


湯のみに、酒をトクトクと鳴らせて注ぎ、
喉仏をゴクリと鳴らし、焼けるような熱さに身を委ね、最後に唇をなめる。
ぶわはははと、いっそう、大きな笑い声を聞きながら、
横では、みよが、チビリチビリと酒を飲み、
俺たちが食った中で、一二位をつけがたいご飯に舌鼓。
皿は次々空になり、作った主が、どこかへ行く度、
みよが立ち上がりそうになる。そのたびに、俺は、無理やり酒をつぐ。
重は、何も知らず、ただたんに、酒に飲まれて、みよに、絡んでいる。
ナイスだと思いながら、みよのあまり変わることのない表情が、赤く染まるさまを眺めた。

女に興味ないという奴は、二種類ある。
一つは、そんなこといいながら、すごく興味がある奴。
もう一つは、本当に興味がない奴。
ああ、忘れていた。
好きな女以外の女には興味がない、というとても恵まれた奴もいるけど。
俺は、もちろん女の子、大好き。
可愛いし、綺麗だし、いじらしいし、
褒めると照れて喜ぶ単純さも、
涙に濡れる顔も、喜んで笑う顔も、怒って顔を膨らます顔も、
全部、全部、柔らかくて、甘いもの。
男にはないもの。
だけど、25才という俺のこの年で、
子供一人どころか、妻が一人いないのは、海と結婚したから。
海は、偉大だ。
色々なものを抱えている癖に、全部、隠しこんでしまう大きさと、
底を見せない神秘さが、俺の心を掴んで離さない。
女よりも、海をとってしまうのは、仕方が無いこと。
そして、女の子を好きな俺は、彼女たちを泣かせてはいけまいと、
遊びで終わらすようにしている。

「義丸」

「ん?なんだい?鬼蜘蛛」

「なかなか、良い少年を連れてきたじゃないか」

陸酔いする鬼蜘蛛は、吐くかも知れないから桶と、
塩水の入ったコップを持ち、料理を運んでいるを見ながら、
にっと男臭く微笑まれた。
年がら年中、塩の匂いをさせている鬼蜘蛛は、
俺と同じ年だけど、女の姿を見せたことはない。
こいつは、顔は悪くないが、しかし、陸酔いという奇天烈な性質が
あるため、なかなか陸に降りないし、本人の性格も固い。
いつまで経っても、女が出来ない彼に見かねて、紹介したことも
あったけれど、カチコチなお見合いみたいなものを見た。
何人も紹介しても、彼の固さは取れることなく、
俺の好意は、彼の自信をなくすだけなので、頼まれない以外はしないようにしている。
一時期、かなり落ち込んでいて、
深い隈と、どんよりした空気、後ろからちょっと出ている魂。
皆で、励ましたものだ。懐かしい。
いつの間にか、鬼蜘蛛は俺から離れて、のところへ行っていた。
彼の持っていた大きな皿を、さり気なく自然に奪うと。

くんの料理は、とても美味しいな。
ボーロというのも、初めて食べたが、こんなにおいしいものなら、毎日でも食べたい。
君が良ければ、海軍にこないか?」

「あはは、そこまで気に入ってもらって、俺は果報者ですよ。
ありがとうございます」

「世辞じゃない。俺は世辞は言わない。本気だ。考えておいてくれ」

だから、鬼蜘蛛、その台詞、その行動は、女にするんだ。
でも、言えたら、鬼蜘蛛じゃないよな。
わかってるけど、なんだこの釈然としない気持ちは。
だけど、こんなに鬼蜘蛛が気に入る人間は珍しい。
最初は誰にでも、警戒してるから、しかも海軍に来いだなんて。

「にゃはははは、おにぐもしゃんたら、のこと、おきにりでしゅねー。
もう、女は無理なんだかりゃ、と結婚したりゃ?」

にゃはははと大きなすぐ近くから聞こえた重の揶揄した声に、ぎょっとした。
怒ろうとしても、完全に出来上がっている。

「何を言っている。重、すまないな。くん」

「ほーんと、重ったら、酔っ払って、ごめんね。
嫌な気持ちになったろ?」

「いやー、鬼蜘蛛さん格好良いから、俺なんか釣り合いませんよ」

そう笑う。は、とんだ、天然だ。
鬼蜘蛛は、格好良いという言葉に、照れているし、
いや、別に釣り合いとかは、と言い始めピンクの空気(ただし一方的)
を流している。周りが見えないなんて、鬼蜘蛛らしくない、
こっちは、横からの黒い空気に、苦笑。
クラッシャー重は、関係ないとばかりに、にゃはははと陽気に笑ってる、
・・・・・・明日覚えとけよ。重。
それにしても、鬼蜘蛛も舳丸も、なんで彼を好きになるんだろう?
確かに、料理はうまいし、おしとやかだし、少年特有の可愛らしい無邪気さも
あるけれど、女でいいじゃないか。
ゴツゴツしている手に、山賊を全員倒すことのできる怪力。
それに、顔だって、美少年でもない。普通だ。
俺は、女のほうがいい。
だから、二人もそれに早く気づいて、泥沼とかやめて欲しい。





【欲しいものは奪ってでも手に入れろ 下 】






その日は、とても大切な人のお祝いの日。
空は、彼を祝福するかのように満天の星。
綺麗だから、外へ出た。そんな当たり前な行動をした俺が、悪いわけがない。

「・・・・・・なにをしている?」

そのままなかったことにして、帰ろうと思ったけれど、
年上の余裕と、俺がここまでを連れてきてしまった責任を、思い出した。
舳丸が、に手刀を入れる瞬間とか、本当、俺が来ていない時にやって欲しい。

「あ、スイマセン。俺の部屋、今日は遠慮してください」

「ああ、なるほど。俺とお前同室だから流石に、って、違う!!」

「義さん、いくらなんでも、ここでやれる自信はないです。
それに、最初ぐらい、布団の上のほうがいいと思います」

「何が?何が布団の上なの?」

「え、何って、ナニ?聞くなんて無粋ですよ」

「そこで、照れないで、どちらかというとその思考になったのはなんで、って、
ちょっと無視して、部屋に入れないで」

いつの間にか、舳丸はを肩に背負、部屋の中の布団の上に寝かしている。
後ろから、付いていった俺は、彼の仕事の速さに、呆れながらも、
もう、目を覚まさせるには、実力行使しかないかと舳丸の肩をつかもうとしたけれど。

「なんですか。さっきから、分かりました。見ててもいいですよ」

初めてみた彼の体の芯が、ぞっとするほど冷たい視線に、固まれば、
舳丸は、まだ若々しいの体に、赤い唇を近づける。
それは、神聖な儀式のようで、まったく別物の欲に溺れた行為。
チュ、チュと部屋に音が響く。
はっと、その行為に目を奪われていた俺は、急いで、外へ出て、
丁度、グロッキーになって、倒れていた疾風さんの持っている水を、手にして、
部屋に戻り、舳丸にかけた。

「冷た」

「舳丸!!お前は間違っている。
会ったばっかりで、一目惚れだとしても、
意識を奪い、無理矢理なんて、随分、乱暴じゃない?」

「・・・・・・・でも、そうしないと、は消えちゃうじゃないですか」

「消えるって」

何を言っているんだ。と思えば、
舳丸は尊敬語をとり、素のまま彼で、言葉を紡いだ。

は、消える。
俺が前、会ったとき、海に連れていかれた。
ここにいるのは奇跡だから、海に連れてかれる前に、
俺が、汚しちゃえば、連れていかれない。
そして、は、俺だけのものに。なる」

イカれてる。
酒でいかれてるのか、恋でいかれているのか、そんなことはどうでもいい。
俺がすることは、これ以上、舳丸が、犯罪者にさせないことだ。

「で、その後どうするんだ?は、ずっと永遠にお前のものであり続けるのか?
俺は、そうは思えないけど?」

「・・・それでも、欲しい。嫌われても、何をされても、
一瞬でも、体だけでも構わないから、欲しい。
そんな気持ち、いつも女とっかえ引っ掻えのあんたには分からない!!」

長い沈黙。俺の顔をみて、舳丸がはっと口を隠す。

「・・・・・・・スイマセン。俺、どうかしてました。頭冷やしてきます」

そうかい。そりゃ。良かった。
俺は、去っていく彼に手をヒラヒラさせた。
そんな気持ち、分からないか。
あーあ、その通りだよ。ちくしょう。
だけど、どうしろって言うんだ。
俺は、俺であり続ける以外の方法を知らない。
俺は、俺は。
すっきりしない気持ちで、いれば布団の上の主が動いて、
声が聞こえた。

「うん?」

「お、起きたか。、お前の危機を救ってやった俺を褒めてくれても・・・」

俺の戯言は、途切れた。
俺は簡単に、布団の上に押し倒され、世界が変わる。

「なんだ。あんた、そんな顔して、俺に抱かれたいの?」

俺の視界一杯広がる、クスリと艶がある笑み。
それから、彼は、俺の唇の周りを、指で、つつーと撫でる。
ゾクリと背筋から、電流が走り、目が離せない。
あがなうことも出来ず、それどころか、徐々に力が抜ける。
ふっと、笑われて、顔が赤くなる。

「かわいいな」

目の前にいる存在は、さっきまで普通な少年、 なのに、まったく違う。
すべてを征服するものの強いまなざしで、声を、意識を、体を全て、奪われる。
の顔が近づいてきて、俺は、何も考えず、目を閉じた。
それから何十秒たっても、何も起きないで、目を開けば、
スー、スーと静かな寝息が聞こえる。

ああ、なんてこった。

女に興味がない奴に、追加しよう。
世界は時に、稀な奴を作る。
女が大好きなのに、本当に愛することが出来ない哀れな奴。
それが、俺だ。だけど、今、変わった。

「はははは、こりゃ、卑怯だろう?」

無邪気な顔で、さっきと、まったく違う俺の横で眠るに、
俺がみよへ言った言葉を思い出して、額にキスした。

この日は、とても楽しい日。
この日は、とても幸せな日。
世界は、ようやく、俺に奇跡を与えてくれた。
生まれて、初めて、愛することが出来るかもしれない人が、現れた。









2010・4・16

【どうにか海軍編、終了です。管理人の好みの相手しかいませんが、
かなり捏造がはいってますが、よしなら、嬉しいです】