あの日は、風もなくて、波も穏やかな、
大きな赤い色した満月ではなくて、
少しだけ欠けていた月が、ぽっかり空に浮かんで輝いていた日だった。
その日に、彼・ にあった。
彼は、岩の上を一人歩いており、こんな夜更けに少年が一人?
と不安に思って、近寄った。
こちらを、振り返ると、普通の顔立ちをした少年で、
だけど、色という色が全て失われているはずの黒い視界のなか、
赤い唇だけが、見えた。

「おい、こんな夜更けに何をしているんだ?危ないぞ」

と、心配する声は、彼の姿を見て喉をごくりと鳴らすことに変わった。
彼は、なんだ?ただの少年で、そこらにいそうなのに、普通ではなかった。
言葉で存在を言い表すと難しいが、扇情的に美しいの一言だった。
彼の存在が、その風景にすべてあっていて、
黒い海、黒い岩、赤い月、黒い彼、赤い唇。
ぞくりと、体からめぐる電流は、彼を発してやまない雄を目覚めさした。
それが、一回目。二回目は、
義さんが、言われたお店に行けば、のれんから、ちらりと覗く赤椿。

微笑めむ彼は、あの時と、違った彼。
走って走って、追いかけたのは、昔とよく似ている。
いや、今回は背中。前回は、さざなみ。
前よりも、人の姿している彼は、人魚でもなく、海のものでもない。
だから、何かが違うと思っていたのに。
喉から手が出るほど欲しいものではないと思っていたのに。

シュッと風が切れる音が聞こえる。どさりと人が倒れる音が聞こえる。
怒声の中で、彼だけは、静かに、平然とそこにいた。
黒い瞳、黒い髪、黒い存在、赤い血、赤い唇。
くらりと、風景があの頃にかぶさった。

ああ、やっぱり。やっぱりと、目を瞑る。
やっぱり、欲しい。

「おい、舳丸!!」

「はい!!」

「何寝ぼけているんだ?そろそろ、大将が来るぞ」

蜘蛛の模様が入った服をきた額に大きくバツの印がある、鬼蜘蛛丸さんに
クラッカーを渡される。

「1・2・3で、打つんだ。あ、くん。これ、くんのぶんも」

「いいんですか?誕生日会まで参加しちゃっても」

「なーに、言ってんの。野郎どもの、繊細の欠片もない料理を、
こんな絶品にしてくれた人を、追い返すなんて、そしたら、糞不味い料理を作っていた、
重が出ていくべきでしょう?」

「ひ、ひどいですよ。義丸さん。俺、これでも、頑張ったですからね」

「「「でも、ひどい」」」

鬼蜘蛛丸さんが、にクラッカーを渡し、
謙遜したの肩から手を出しているのは、義さんだ。
いつの間にか、は、兵庫水軍に馴染んでいる。
はははと、周りに笑われている重が、
「舳丸さんも、何か言ってやってくださいよ!!」
と言われても、俺は何も言う事も出来ずに、ただ、義さんの手が無性に羨ましかった。


ささやかな誕生日会が開かれた。
大将が、笑顔で、みんな笑顔なのに、俺だけが笑顔になれないでいた。
もとから、自分に笑顔が少ないことは、知っていたのだけれど、
それでも、この日は笑顔になれる日だったのに。
胸の中に重しが入っているかのように、重い。

「あははは、そうか。ボーロとか料理とか、くんが作ってくれたのか、
どうりで美味しいと思った」

「前回は、散々でしたしね」

「なんだよ。鬼蜘蛛の兄貴だって、作れない癖に」

間切の揶揄に、またドッと笑いが起こる。

「第三協栄丸さん、すいません。俺、何も用意してなくて」

しゅんと落ち込むに、大将が笑顔で、微笑む。

「なーに、くんがここにいるだけで、十分贈り物はもらったさ」

「第三協栄丸さん」

なにやら、ジーンと感動している。
俺も、あそこに行きたい。と、思って、立とうとすれば

「いえーい、飲んでるかい?」

「おや、舳丸さん、のんれないじゃないれすか」

ほれ、いーっき、いーっきと、義さんに注がれ、
重に、絡まれた。
男臭い連中に囲まれている遠くの方で、
にこやかに話していると、大将の姿が霞んで見えた。

酒を飲みすぎた。
中の連中は、大体潰れて、ようやく、絡んでくる奴らが潰れたから、部屋を出た。
外へ出ると、部屋の中が、どんだけ酒の匂いが充満していることがわかる。
外は、少し肌寒くて、新鮮で綺麗な空気が肺をめぐる。
最後にみたは、笑顔で微笑んでいた。
話もろくにできなかったが、それで良かったのかも知れない。
彼を目にして、前は攻撃をしたんだ。
今回、自分が、何をしでかすか、自分も分からない。
だから、これで良かったんだ。

空を、見れば満天の星空。
そこに、彼の微笑を忘れないように映し出した。

だけど、時に運命とは残酷だ。
なぁ、そう思わないか?

「あれ、ここって」

「甲板だ」

暗い暗い闇の中、赤い椿に手を伸ばした。




【欲しいものは奪ってでも手に入れろ 中】





あー、つかれる。俺って客商売あんま、得意じゃないんだよな。
俺が店を持ったなら、可愛くて優しい奥さんに、店の接客は任すんだ。
てか、この店流行り過ぎじゃないか?
最初は、ガラガラ閑古鳥だから、お菓子の研究出来るとか、
思って、バイト入ったのに、なんでこんなに混んでるの?
俺が行った日は、定休日だったわけ?
それとも、俺の試作で作った甘味があまりに美味しくて行列とか?
そんなわけないか。
でも、このごろ、店に出ているお菓子、俺の増えてきたよな。
認められているってことだから、ちょっと嬉しい。

くーん、完売ごめんだよ。お願いね」

「はーい」

この店を教えてくれたのは、木藤だ。
なんか、店の主人は、ちょっと年がめしたほうがいいとか。
理由は、味の深さは、年の深さとか。
木藤は、本当に賢い。
そのとおりと言うことで、いつも休みの時のバイトする場所は頼んでいる。
そろそろ、バイト期間も終わるなーと思いながら、のれんからちょっとだけ顔を出して、
終了を告げる。なんでか、これでやってくれと店のおばさんに言われた。
給料と、今日の優しい人達がくれたものを持って、
今日は早く終わったから、おはぎ作ろーと、思えば。

「おーっと、そんなに急がなくてもいいじゃないか?まだ、月もでてないぜ?
名前は、なんていうの」

ガラの悪いのに捕まった。目つきがやべぇ。しかも、二人組。
どっちも目付き悪い。だが、イケメン。イケメン死ねばいいのに。
あー、でも俺、殺されて、臓器バラバラで売られる。
どうしようもなくて、空笑顔になった。
一瞬、空気が和らいだのを見計らって、逃げた。
よっしゃ、逃げるのだけは早いだぜ。俺。凄いだろう。
いつも、忍術学園で、逃げているだけはあるだろう?
あはははは、と高笑いをこらえていると、俺は今日厄日だったらしい、
最悪だ。

「おい、にーちゃん、いいもの持ってんじゃねーか。
有り金全部と、それと、そうだな。売れるかわからねーけど、にーちゃんももらってくぜ」

おいおい、どれか、一つにしろよ。
しかも、いい選択肢一つもなくて、言う事聞くと思ってんのか?
わりゃぁぁぁあぁぁ!!なんて、嘘です。
全部あげますけど、折れは売れないんで、このままおうちに帰らせてくださいと、
米俵を、渡そうとすれば、男が倒れていた。

「あ、あれ?」

「抵抗しなければ、優しくしてやろうと思ったのに、いい度胸じゃねーか」

いやいやいやいや、かなり不運なだけだし、すいませんが、もう一回優しくしてくださいと
頭を下げたら、また男が倒れていた。

「な、なんて奴だ。ヒグマ殺しのマサと言われた兄貴を一発とは」

いや、不運2号にそんな名前があるとは、びっくり。
だけど、これで、逃げてくれるかなと思ったけれど。

「み、みんなで、かかれー!!」

・・・・・・大勢がかかってきた。
俺は、もう我武者羅に米俵をふることにした。
さすがに全滅は、無理だろうと思っていたけれど、さすが不運が収めていた山賊。
全滅☆です。
やーイイ汗かいたな。かなり疲れたから、帰ろうとしたら、
腕を捕まれた。
そこには、さっきのガラ悪イケメンず。
彼は、早口に言い切った言葉に、第三協栄丸さんの名前が出てきて、
びっくりで、安心して引き受けてしまった。
さすがいい海賊。お誕生日会とか、ほのぼのする。
と、ボーロの材料を混ぜていて思ったんだが、
あの天パーのイケメン・義丸さんは、結構気さくなんだけど、
もう一人の、コワメンな舳丸さんだっけ?なんか、俺睨まれてるんだけど。
なんで?
かなりの人見知りとか?海賊で人見知りって、なんか、親近感だな。
俺も、忍びの卵のくせに、忍べないという難点があるから。
ま、将来お団子屋になるから、モーマンタイだけど。

そうして、第三協栄丸さんのお誕生日会で、俺は酒やら食い物やらをめいいっぱい
いただいた。もう、いらないというほど、てか俺、未成年とか。
ぐるぐる回って、気持ち悪いから、外へ出れば、
コワメンが立っていた。はん、目つきが鋭くても、さすがイケメン。
星空みている姿が様になって嫌がる。羨ましい。
俺だって、俺だって、海の男格好良いってくのいちの話を聞いて、
海の男に憧れたけど、泳いだ事ないから、第三協栄丸さんに泳ぎを頼んだら、
まず、第三協栄丸さんを、助けることが、海につかる第一歩だったよ。
そっから、一緒にカナズチ直そうとしたんだけど、夜になっちゃったから、
お開きになって、その後がひどかった。忘れ物したから、海に帰ったら、
月が赤くて、超怖い。こういう日に妖怪とか、いるんだよな。
と、ふるふるしてたら、妖怪にあった。
怖くて、藤野から教わった呪文を唱えたら、消えるどころか、
妖怪は、俺に攻撃してきて、避けようとしたら、そのまま海に落ちた。
カナズチだから、浮かない。
死ぬと思って心のなかに溢れた。まだ作ってないお菓子の数々を思い浮かべて、

俺、まだ死ねない。童貞だし。彼女いないし。
死んで、あいつ童貞だったんだ。なんて言われるなんて悲しすぎる。
俺は、可愛い奥さんと子供と団子屋をぉおおおおおおお。

火事場の馬鹿力というやつで、俺は泳ぐことを覚えた。
のちに、第三協栄丸さんに言えばいたく羨ましがられたっけ、
ああ、それにしても。
かなり酔ったようだ。コワメンの顔が、かなり近い。








2010・4・13