愛とは愚かだ。だからこそ、人は求めてやまない。
そう、思わないか?
そこには、黒い服をきた一団が、暗い部屋の中、ろうそくを灯し集まっていた。
みなの顔は暗い。手元には、真っ黒なお汁粉(餅なし)を黙ってすすっている。
「・・・・・・甘」
誰かの声が虚しく部屋の中に響いたとき、プルプルと拳を震わせ、
仙蔵は高らかに言った。
「第一だ!!なんで、バレンタインデーの日に、任務が入っていることに、
誰も気づかなかったのだ?」
「しょうがないですよ。あそこ、忍術学園と違った世界ですし、
実習なのも、その日に決まったみたいですよ」
三郎が、仙蔵の言葉に反論し、私ですら、気づかなかったんだ。とふてくされている。
「だけど、二泊三日、甘いものツアーとか、完全ちょこれいとうを、渡せなくした
5年は組の陰謀だと思う」
兵助が、お汁粉の中に、豆腐を混入した。
「僕、一生懸命作ったのに、ジュンコ型のちょこ」
「・・・・・・ウン「はい、綾部 黙ろうな」」
孫兵が、泣きながら出したとぐろを巻いたチョコをみて、
喜八郎が言ようとした言葉を、八左ヱ門が口を抑えた。
「私だって、私にチョコ塗りたくって、どうぞ私を食・べ・て☆計画が」
「時々思うんだけど、滝夜叉丸のその情報ってどこから来るの?」
瀧夜叉丸がお汁粉を苦い顔ですすりながら言った内容に、雷蔵が疑問を投げかけると、
小平太が胸を張り答えた。
「私だ!!まさか、やるとは、思わなかったがな」
「な、七松先輩ひどいです」
「滝、私は、お前を侮蔑しているわけではない。私なら、にチョコ塗って、
まるごとパクンと」
「・・・・・・・・・それ以上は、破廉恥」
小平太は、口を、長次の鈎縄でぐるぐるに、されて沈黙した。
そんな中、小さく体を縮めこんでいる作兵衛は頭を抱えた。
「うわぁ、ここ三年二人じゃねぇーか。尊敬してる先輩にあげることは、変なのか?」
「僕もいるよ」
「か、数馬」
「僕の場合はあげる前に、善法寺先輩と鉢合わせして、なんでか、
そのまま穴に落ちて、両方共駄目になったんだけどね」
「媚薬仕込んどいたのに、まさかの不運。くぅぅ」
涙ながらにえげつない媚薬の内容を言う伊作に、周りの声が、重なった。
”不運、ナイス!!”、が傷物にならなくてすんだ。と安心した気持ちと、
目の前で、クスリを仕込む男をどうにか止める方法を考えて、
とりあえず、今は、縛って床に転がしておいた。
「それにしても、本当に5年は組は邪魔だよな。バレンタインがダメなら、
ホワイトデーと思えば」
三郎が、完食したお汁粉の椀を置いた。
彼は、顔に似合わず甘党らしく、辛党の雷蔵がもうダメと言って残した
お汁粉二杯目に突入した。
ホワイトデーにあげれば、今5年は組は、先生の虫歯により、
甘いもの禁止令なんだ。と、やや頬をこけさせ、
あー甘いもん作れないなんて地獄だよな。
はーと深い溜息を吐いたに、無理やり渡すことなんて出来なかった。
渡しても、先生がごねてるから、
一ヶ月くらい無理だし、悪いから、それは違う奴にあげてくれ。
と言われるのが関の山だ。
そんな、辛い言葉を聞くなら、チョコを隠す方がいいに決まってる。
思い出して、三郎の眉間にシワが増えた。
横で、雷蔵が、だ、大丈夫?やっぱり、僕が食べるよ。
いくら甘党だって言っても、ニ杯はキツイでしょう?と見当はずれなことを言っている。
「ああ、ホワイトにかけて、豆腐にホワイトチョコをあげたが、拒否されたし」
「それは、誰でも拒否するのでは?」
想像して、ゲッと顔を歪めた孫兵んい、兵助は、ダンと机をたたき、
箸を持って、立ち上がった。
「な、何を言っている。こんな素晴らしい組み合わせ、なかなかないぞ。
いいか、豆腐の柔らかさに、チョコの甘さが加わって」
「はい、そこまで」
「なんだよ。三郎。止めるな」
「そんなことじゃないだろう?今年はダメでも、俺たちには来年がある」
ちらりと、6年生を見ると、仙蔵がその挑発的な視線にコメカミをピクリと動かした。
「聞き捨てならないな。鉢屋。私たちには未来がないとでも言いたいのか?」
「そう、聞こえたなら、そうじゃないですか?」
「フフフ、いい度胸だ。お前、ここでの目に触れない顔にしてやろうか?」
「そしたら、立花先輩にされたっていって、あなたは嫌われて、
俺は優しく看病してもらいます。俺って友達なんで」
「なっ」
三郎の嫌いという言葉に、強い衝撃を受けている仙蔵が、
想像したのだろう、涙を滝のように流しながら、
胸の中から、焙烙火矢を取り出した。
火がつけられる前に、すっとそれは地面に落とされる。
「いい加減にしろ。仙蔵。後輩相手にみっともないぞ」
「・・・・・・なんで、お前がここにいるんだ?文次郎」
「・・・・・・日ごろ、お前に迷惑をかけているから、その礼だ。
それ以上もそれ以下もない」
「あやしい〜」
いつの間にか、縄抜けをしていた伊作が、
にやっと黒い笑みをたたえながら、文次郎に近づく。
「ま、考えてみれば、別に、バレンタインじゃなくてもホワイイトデーじゃなくても、
媚薬入りのものなんてすぐ渡せるしね。眠れる王子ってとこ?」
「それは、それは魅力的ですね。どこにあるんですか?それ」
「おや、綾部。食いつきいいね。だけど、ダメ。
僕って、独占欲強いんだよ?あげない」
「ならば、力ずくでも」
「へーやってみなよ」
喜八郎が、鋤を、伊作が薬を取り出したところで、
他の奴らの乱闘も始まった。
それを静かに眺めていた八左ヱ門が、ポツリと呟いた。
「・・・・・・・結果、にとって、
バレンタイデーもホワイトデーもなかったほうが良かったんだろうな」
そして、真っ黒なお汁粉をすすって、顔をしかめ、言った。
「甘!!!」
恋は奇妙な物、人によって千差万別。
例えば、このお汁粉が、美味しいと感じるもの、もっと食べたいと思うもの、
まずいと感じるもの、耐えれないと感じるもの、その他色々、考え方は違う。
ともかく、与えられる方は、そんなこと気づくはずもない。
2010・4・14
【ブラックデー、韓国では黒いあんが特徴の麺とかコーヒーだけど、
ないから、餅なしお汁粉で。リクエストです。お気に召したら、幸いです。】