俺は無事、町へ向かったわけだが、人が多いそのなかでポツンと立ち尽くす。
俺はこのとき一番の過ちを犯したことに気づいた。
それは、学園長が言われた任務は女装で、何をするかまでは聞いていなかった!!
頭をガリっと掻こうして綺麗に結われているそれに、諦めて手を下ろす。
変わりにため息が出て、何をすればいいのかまったく、さっぱり分からなかったので、
目の前に入った可愛らしい少女達に付いていく事にした。
その日は天気が良かったので、前々から美味しいと評判の定食屋に
仲のいい4人で行ったときのことだった。
定食屋にお目当ての豆腐贅沢三昧があって俺的豆腐ベスト10には入るが、
やはりベスト3まではまだまだ。しかし未来性があるなどと、
豆腐を感じてきゅんきゅんしている胃袋に、
連鎖して胸まできゅんきゅん?なんでだろう。
別に今はに抱きついているわけでも、
膝に乗って髪をもふもふ撫でてもらっているわけでもないのに。
きゅんきゅんと反応したある一点を俺は凝視した。
「おいおい、兵助。なんだ、可愛い子でもいたのか?」
ひょいと俺の頭の上から八左ヱ門が俺が見ている方向を見る。
他の二人も俺の見ているほうを見て、
「・・・・・・別に普通じゃね?」
とトーンを落として残念そうな八左ヱ門に、パァンと頭を叩いた三郎。
「お前はだから馬鹿なんだ、こんな最高なことなかなかない!!」
「三郎、鼻血拭いてね」
「はぁ?三郎、お前メンクイじゃねぇかよ?どこがいいんだ?
顔だって体型だって普通で、しかもでかい!!」
叩かれたことに怒り頭を押さえながら八左ヱ門の言った言葉に今度は、
雷蔵が同じ場所を叩いた。
「ねぇ、ハチ。分からないの?」
的確な場所に素晴らしいスナップが効いた切れのいい叩きは、
三郎の時よりもいい音を出して、今度は八左ヱ門はなかなか起き上がれず
そのまましゃがみこんでいる。それをなしえた当事者はいい笑顔で、
俺には後ろに黒いもやを背負ってみえた。
「と、いうことは、やっぱりあれはか」
どうりで、胸がきゅんきゅんするわけだ。
俺の言葉に、再起不能になっていた八左ヱ門は起き上がって
マジで??と叫ぼうとして、横から三郎に口を塞がれていた。
「あ。これ、可愛い」
と細かな細工がついた簪を見て言う少女。
初めて来た女の好きそうな小物屋で、俺は目の前に広がるきらきら光っている
髪細工や結止めを見て、思うのは可愛いよりも。
「・・・・・・美味そう」
この光具合は、てろてろ蜂蜜、飴色。
赤い色したサクランボウに、飴細工、練り菓子、ああ、どれもこれも素晴らしい。
いつの間にか熱中していたようだ。店屋の亭主が、俺に話しかけてきた。
「おう、嬢ちゃん熱心に見ているね。
どうだい、嬢ちゃんにはこれなんか似合うじゃねぇか?」
と渡されたのは、白い透明な簪の中に一つ青い金魚が描かれている簪だった。
俺は、それを見て、今度の新作和菓子が頭の中にイメージされて、
やばい、絶対美味しいと興奮した俺は。
「っ、とても素敵」
と言って亭主の手を握ってしまっていた。
違う意味でヤバイ。なに気持ち悪いことしてるんだよ。俺。
ちゃんと謝ったけれど、なんか亭主が挙動不審だ。
まぁ、そうだよな。
大柄な男女にいきなり手を握られたら、そりゃいい気はしないだろう。
すぐさま帰ろうとしたけれど、簪をなぜか亭主から貰った。
俺の菓子への熱意が伝わったのだろうか?それだったら、ちょっと嬉しい。
ありがとう。を言う前に違う誰かがなんかくれた。そしたらまた違う誰かがなんかくれて、
それが重なって・・・・・・なんだ?今日はなんかいいことでもあったのか?
それとも、実はみんな知り合いで、賭け事で負けてその罰ゲームで驕るとかそういうのか?
よく分からないけれど、俺は帯やら簪やら髪飾りやらはどうすればいいんだ?
女装はこれっきりだから使えないんだけど。
任務かも知れないから声をかけることは出来ないけれど、
初めて見たの女装姿はしっかり目に焼け付けておきたい。
だから、私達はギリギリ気づかれない場所での様子を観察することにした。
それにしても、だ。
小物屋で、きょろきょろ珍しそうに目配らせしているは可愛い。
いつもは、格好良くて、天然タラシな彼だけど、
女装の方は格好いい女と言うよりも可愛らしい女になっている。
前のの顔が分からなくなるほど化粧が施されておらず、
寧ろ本来の顔を生かして、柔和にしたと言っていいだろう。
が着ている服だって素朴ながら素材がいいのが分かるし、
に女装を施した人物はなかなか技術に長けている、多分綾部だろう。
・・・・・・今度は私にもさせてもらおう。
私だって変装名人の名を持っているのだから、
綾部よりもっと、もっと、のよさを引き出すことが出来るし、
今日だって、たまたま学園に綾部がいて私がいなかったから、
は綾部に頼んだだけだし、別に悔しいとか全然思ってないし。
と考えていたら亭主がに話しかけた。
どうやら、簪を進めているようで、亭主の変装をすれば目前で
見れたと気づいたときには遅く、はじっとそれを見つめると亭主の手を取り。
「っ、とても素敵」
と艶っぽい熱っぽい声で、目はきらきら輝き、ほのかに頬が赤くなっていた。
・・・・・・やはりは女装してもで、大変色気が凄く、
比喩的表現で言えば、
から煙が出て一気に世界を薔薇色にしたというところだ。
効果は絶大で、遠くで見ていた私でさえ顔が赤くなっていて、
周りを確認すれば他三人も赤くなっていた。
店の近くにいた男達ですらさっきまでは目に留めもしなかったに釘付けで、
そして手を握られた亭主にいたっては、面白いほど顔を茹蛸にして、
「あ、すいません。握ってしまって」
と伏せる目に、大慌てで。
「い、いやー役得。じゃない。あー、そのお嬢さん。その、なんだぁ、あれだ。
こ、こ、これはお嬢さんのために存在しているんだ!!」
と訳の分からないことを言って簪をに渡していた。
は断ろうとしていたが、ごり押しで渡された簪を見てふんわりと笑った。
うわー、あれで確信犯でない所が本当に恐ろしい。
周りで見ているだけの男達を動かすには十分な決定打。
「いやこっちのほうがお似合いです」
「いいや、俺の方が」
「ちょっと待った!!その色合いよりも」
と我先に我先にとに店のものを貢ぎはじめる。
その姿に、私は噂で、4年次のときに、貢がれる量を競う色の試験で
女装をせずに一位をとったのが、は組だと聞いたが、
これは その人であるだろうと確信した。
そして、今回の任務で、そのときの量を凌ぐ結果が出るだろうと。
だって、今現に貢がれたものは彼の手にもてない量になってしまっている。
今度は家まで運ぶ運ばないの大騒動。
私達4人はみんなで顔を合わせて、うん、そうだな。
走って、みんなで叫ぼうか。
私達が知り合いだって、私達の仕事だからいらないって。
そして、彼女じゃなくて、彼に似合う髪結いを渡すんだ。
本当は男の彼だから、使ってくれるだろう?
当然の優越感!!
本当を知らないお前らはスタート地点にすら立っていない。
2009・12・19
【リク7段。今回は5年ズ。次で終わり。最後にあそこ】