そんなわけで俺は、任務に行こうと外へ出たわけだが、
正直この格好は恥ずかしい。事情を知っている二人が一緒にいてくれれば、良かったのだが、
「慣れないといけない」と言われ、綾部くんは滝夜叉丸くんの首元を片手で引きずって、
どこかへ行ってしまった。彼はプチ怪力だとこのごろ知ったので、
細心の注意をして手を握る必要なぞまったくなかったようだ。
ふーと、大きく息を吐いた。
女はよくもこんなめんどくさくて息が詰まる思いができるものだ。
肌には一枚紙を張られたようで、体はぎゅっと縄で縛り上げられたようで、
一歩一歩の足の間隔が狭くて、転びそうになるのを耐え、
んっと踏ん張った所で、今日委員会があることを思い出した。
昔、は組の実習で、篠神を捕まえないと終わらないものがあり、
そのため委員会の連絡を忘れた俺が次の日、涙と鼻水だらけの食満先輩に捕まって、

「おでのどこがわるがったがいでっくれ」

と、もの凄く揺すぶられたのはそう遠くない過去だったので、
俺は一言、言っておこうと足の方向を変えた。




今日は、とてもいい天気だ。空は青くて雲ひとつない。
ふーと、委員会に下級生も先輩もいないなか一人、
富松 作兵衛はかなづちを握り簡単な桶の修理をしていた。
いや、一人は語弊がある。
ちらりと横を見れば、首に毒蛇を巻きつかせ
さっきからジュンコ、ジュンコと愛を語っている男が一人。
富松と同じ黄緑色の服を着ている伊賀崎 孫兵は、何をするでなく
用具委員のところにいた。そのうち帰るであろうと思っていたが、
彼はなかなか帰らない。桶はもう三個目だ。
彼が用具委員にいる理由がいつもたった一つだけれども、それは帰りであり
初めにいることはなかった。
前に変ないちゃもんをつけられたとき、
自分は何週間か普通の先輩後輩として接することが出来なくなった。
では今度はなにを言うんだ?
と冷や冷やした気持ちで、とうとう富松は意を決して伊賀崎に声をかけた。

「なんでここにいんだ?孫兵」

「僕の勘が告げているから、ねぇジュンコ」

シャアと彼の言葉が分かるように彼の愛猫ならぬ愛蛇は鳴いた。
同じ学年で仲もそんなに悪くない彼は、彼の言葉と彼の蛇にいつものことで、
そうかよ。と、また新しい桶を直す。前のような言葉を言われずにほっとしたのもつかの間。
葵色の服がちらりと見えた。徐々に女の形をしていることが分かる。
孫兵がその人に駆け寄る。

「どうしたんですか?そんな格好をして」

知り合い?というか、なんで頬を染めているんだ?
お前は、先輩が好きだったんじゃねぇのかよ?
腹の底から怒りがこみ上げてきて、言葉よりも拳が早い俺は、
孫兵を殴ろうと握りこぶしを作ったが。

「学園長からの任務で」

声に聞き覚えがあった。もしかして。

「もしかして、先輩じゃねぇですか?」

「うん?」

そういって、先輩はこちらを向く。
俺は馬鹿だ。
こちらを向かせなければ良かった。

先輩は男だから、いくら俺が母親っぽいって思っていても男だから違くて、
孫兵が好きだだと言ってそういう目で見ていていることを知っていても、
そういったことに疎い俺は男だからありえないとどこか思っていたが、
今の先輩の姿はまごうことなく年上の女だ。
高めの身長に先輩特有の雰囲気に、そして甘い香り。
先輩は甘いものが好きだから、甘いものを作るのも好きだから、
甘い香りが移ってしまっていることを知っているのに、
なぜかその時俺は先輩自身が甘いもので出来ていると錯覚してしまった。

手を伸ばせば届く距離。
伸ばす手に、何も知らない先輩は俺を不思議そうに見ていて、
そんな無防備な所も・・・


「ん?作兵衛その方は誰だ?」

と、後ろから聞こえる食満先輩の声で伸ばされた手は止まった。
食満先輩と先輩の会話が始まる。
さっきまで俺を独占していた瞳には俺が映らなくてそれに安堵と不快感
・・・いや、俺。今何を考えた?違う、違う、違う!!俺はそういう目で先輩を見てない。
先輩は先輩で先輩であり先輩だから先輩でしかなくてつまり先輩だ!!

と、思考を元の俺に戻そうとしているのに、孫兵が俺の肩に手を置いて。

「作兵衛は敵か、でも、僕に敵うと思うなよ?」

と、凄くいい笑顔で笑った。
俺は、まだ答えをもっていなくて、ただ違うと叫んで走る去るだけしか出来なかった。





大変だ。
食満先輩は、俺が誰か分かっていない。
そういえば、女装していたことを思い出して、
やばい後輩に不快なもの見せちゃったっと謝ろうとすれば、
作兵衛は走り去ってそれを孫兵が追いかけていった。

おい、おい。そんなに酷い出来か?と思う半面。

「あなたのような人がこの学園にいたなんて知りませんでした」

とはにかむ目の前の先輩は、本物の食満先輩か疑わしい。
さっきから、完全女扱い。そこ危ないからどうぞ手をとか、
俺の出来がいいのか、食満先輩がおかしいのかよく分からなくなったが、
ドドドドドと聞こえる土煙に俺の第六感が警告を鳴らしていたので、

「お・・・私は伝言をしてきただけなので、今日は志藤 くんは休みと、
先を急ぎますゆえ、失礼します。ご縁があればまた」

と踵を返してさっさと門に向かった。



今日の天気はいいし、委員会もあって癒しの時間が過ごせるとホクホクしていれば、
作兵衛と知らない女性が話していた。
知り合いかと、一目見れば、電撃が走った。
別に素晴らしく可愛くも美人でもないのだけれども、
彼女自身がかもし出す雰囲気にやられた。
一目ぼれなんてありもしないと嘲笑していたが、撤回しよう。
運命の女神はいる。現に俺の前に。
俺は目つきが悪く、怖い人だと思われてしまうのだけれども、
彼女はそんなことと笑い飛ばしてくれるほど自然に接してくれた。
まさに、運命。きっとあちらもそう思ってくれているのかもしれない。
前、伊作が話していた痛いお姫様ストーリーも王子様ストーリーも
今の俺には馬鹿に出来なくて、
彼女は用事があると去った後でも、彼女の「また」に余韻に浸っていれば、
小平太が、土煙をあげて現れた。

「あれー?おかしいな。確かにここらへんから香ったんだけどな」

「・・・・・・・」

追加しよう。小平太とそれに振り回された伊作だ。
小平太の後ろで屍と化している伊作は、
相変わらず不運だけれど、以上な回復力で、起き上がり小平太にくってかかる。

「治療中にいきなり走らないでよ!!今僕死にかけたよ」

「こっちにいい匂いがしたから行った方がいいと思ったんだ」

なんだその理論は。小平太のあまりなあれな発言に、
半泣きの伊作はようやく俺の姿を目に入れた。

「あれ?留さん。なんでこんなところでぼーっと突っ立ってるの?」

「い、伊作!!」

俺はがっと伊作の肩を掴んで叫ぶ。
お姫様がいた!!運命だ。
赤いヒモで、えーとそうだ。シンデレラだ!!俺、彼女を探すよ。












2009・12・17
【リク7段。まだ、町には出かけてない(笑)今回は3年&6年生でした。
次は、あそこ】