。おぬしに女装の任務を言い渡す」

そう、これはあの横暴な教師 篠神 悠一郎が長期任務に出ているときを狙った
学園長の暴挙である。


とうとう来たかと言われたとき思った。
確かにいくら俺が忍びにならず知らなかったとはいえ、
女装のテストを5年間放棄していたわけだから当たり前だ。
組の連中に聞けば、俺だけのようだ。
それにしてもだ。
ごろりと天井を眺める。
黒い染みが違うものに見えてちょっと怖いけど、
慣れてしまえばただの染みであり、逆に自分の部屋であるということを安堵させる。

「どうやって、女装するか分かんねぇ」

ポツリと呟いた独り言に、

「じゃぁ、手伝いましょうか?」

にゅっと現れた大層可愛らしく整った無表情の綾部くんが答えた。
いつのまに!と聞こうとする前に、
口から心臓が飛び出て死んでしまうそうなほど驚いた。
けれど、2年も上の先輩は気配すらまったく分からなかったなどと言うのは
俺のなけなしのプライドが傷つく。
だから、半泣きな自分を抑えなんでもない風に体育座りで俺を上から見ている彼に聞く。

「な、なんでいるの?」

いまいち先輩っぽくなかったようだけれど、俺の精一杯だ。
彼は俺の精一杯にあまり反応せず、いや、彼から
「あは、先輩。驚いてやんの。綾部ビックリ☆」と表情豊かに言われたら別人、偽者だが。
綾部くんは相変わらず無表情で、ちょっとだけ小首をかしげた。

「女装手伝いましょうか?」

駄目だ。意思疎通できない。
このごろ彼と付き合っていくうちに分かったことだが、この綺麗な後輩は、
あまり人と会話することが得意でない。俺も口下手な方だが、
彼の場合、空綺麗だよね。と言ったら、月のなかにいるウサギから餅奪ってきますってな
会話具合だ。だから、彼と俺の回答の答えは。

「・・・・・・・お願いします」

「先輩、前髪上げていいですか?」

「ん、綾部くんの言うとおりにするよ」

前髪を上げられ、いつもより視界が綺麗になった分と、彼の距離が近くなった分、
彼の綺麗さが分かる。意志相通できない電波なイケメン。
電波だけどイケメンによりそれがまた魅力をあげている
くそ。イケメン死ね。とか思っていたが、出来上がってみれば、女に見えないこともない出来で、
と言っても普通の女の子だが、
しかし、俺がやればここまで出来ただろうか?いいや、出来なかっただろう。
死ねとか思っちゃって、ごめんなさい。
女装の方法を知らない俺にとって見れば君は神様だ。
途中から来た滝夜叉丸くんに褒められ、なかなか上機嫌で俺の女装は始まった。
出だしは好調♪




なんとなく天気が良かったので、穴を掘るよりも、先輩と一緒に日向ぼっこをしたいなー
と思ったから、先輩の部屋を訪れた。
部屋の中で、先輩はとても無防備な姿で、
日向ぼっこよりも、もっと刺激的なことでもしようかなっと計画を変更しているときだった。
「どうやって、女装するか分かんねぇ」とポツリと呟かれた言葉。
その言葉で、今日する全ての計画が決まった。
日頃の行いがよい私は、運よく先輩に化粧を施すことを許された。
髪を上げていいと聞けば、言うとおりにしてくれるらしい。
・・・・・・あやまあ。その台詞は違うときに聞きたいものだ。
先輩の顔は、ブサイクでも綺麗でもなくて普通の顔。
でも、こうも近くで見れることなんてなかなか邪魔が入って見れないから、
いつも以上に時間をかけてゆっくり先輩を堪能しながら、化粧を施していく。
眉毛のなかにほくろがある、とか。
おしろいがのりやすいつるつるすべすべな肌、とか。
ちゃんと手入れをしている女よりも肌触りがよくて離したくない、とか。
色々な先輩が分かって満足。お腹一杯。

「じゃぁ、唇に紅指しますから」

「ん」

でも、別腹。
目を閉じて、いつもよりも優しい顔に仕上がった先輩は、無意識に唇を突き出していた。
まるで、口付けをまっている少女のようで、しかしまったく厚みのない薄い唇に、
そのまま指をつけた。赤い赤い朱色。
指に伝わる柔らかな温かい肌に、ドキドキするムラムラする。
口付けする以上に興奮する。ゆっくり塗られていく朱色は私に染まっていくようで、
女物の服を脱がして、邪魔にならないよう括りつけている髪留め解いて、
叫ぶ先輩の口を口で塞ごうと、紅を差し終わり、
先輩が私の姿を目に映した瞬間に実行をしようとすれば。

「何をしている!!喜八郎」

「・・・・・・一度、滝とは話し合いが必要だと思う」

あーでも、良かったのかも知れない。まだ、先輩にとって私は可愛い後輩を逸脱してはいない。
変なことして警戒でもされてみれば、それどころか、完全拒否などされてしまえば、
私はどうしていいか分からないから。

だから。

「まぁ、今回は助かったと思って」

「穴に落としてから言う台詞か!!このばかきちろう!!」

だから、私は罠を仕掛ける。いくつものの罠で獲物は絶対捕らえる。
ゆっくり気長に、そして捕まえたなら、もう穴の中。
外へ出してなんてやらないから。











2009・12・14
【リク7段。遅くなりましたが、ちょっとづつ消化。でも、長くなるから別けた。
べ、別に全部書くのが大変だったわけじゃないよ?最初は、4年ズです。
次は、あそこ】