見つけたのは偶然。たまたまきり丸の手伝いを頼まれたとき、
僕は一冊の本に出会った。
その本は、静かに死んだようにそこに存在し、
一枚捲れば獰猛な野性の狼のような強さで人を惹き込んだ。
僕がからくり好きだというのもあったかもしれないけれど、
その本で僕の全てが変わったんだ。僕はその本の書いてあること全てやった。
すると立花先輩から腕が上がったたと言われ、同室の三治郎にすら凄いと言われた。
三治郎もからくりが好きだけど、その本を見せることはしなかった。
もっと楽しくなるのは分かるけれど、僕だけの小さな宝物になっていたんだ。
それと少しの優越感。
今日も誰もいない部屋のなかでペラリと本を捲る。
そろそろ終わりが近づいてくるのを惜しみながら文字をゆっくり追うと、
最後のページには、初めてからくりの知識じゃない彼の言葉があった。
『からくりは恋である』
「恋?」
恋の意味が分からなくて、だけれどもこの本に習ってきた僕はこの意味を理解する
ために誰かに相談しようと思った。
地上に出れば、同級生の友。
彼は、子供らしいは組の彼らよりも大人であると兵太夫は理解している。
素晴らしいスピードで走っているから、きっとお金がらみだろう。
兵太夫は胸元にあった小銭を一つ落とした。
チャリーンと綺麗な音ともに、迫ってくる煙に音。
「ゼニー!!!!」
ずざーと立派なヘッドスライディングを見れたところで、僕は、彼・きり丸に声をかける。
「きり丸聞きたいことがあるんだけど」
「えへえへ」と嬉しそうな声を止めて、なんだよ。と振り返るつり目の彼。
「あのさー恋って何?」
「へっ?鯉?池に泳いでいる奴?」
「違う。違う。男女間で行われる奴」
「あー、恋ねー」
きゅきゅっと銭を手ぬぐいで磨きながら、空を遠く眺める。
その姿にはいつも騒がしい3人組みから程遠くて、きり丸と名前を呼ぶ前に
小さく柏餅。と聞こえた声。
「えっ?なに」
「ああはははは。俺にはまだ分かんねぇーや。もっと先輩に聞いたらどうだ?
それに俺次のバイトに忙しいんだった」
じゃ。と言うと彼は来た時と同じ嵐のように去っていく。
呼び止めようとした手が宙に固定されたまま、兵太夫は確かに、
僕らはまだ一年生だし、先輩の方が経験深そうだ。
兵太夫は、作法室へ足を向けた。
「恋?そんなものよりももうちょっと鍛錬を積んだほうがいいぞ」
目の間に詰まれた課題に兵太夫は言う相手を間違えた
とはははと笑いそのまま回れ右をしようとすれば、
「そんなんだから、藤内は固いんだよ」
「あ、綾部先輩」
一番、愛とか恋とかの文字に薄い先輩が現れた。
そもそも彼と気が合う人のほうが少ないのだ。
ましてや異性など、そうそうないと思っていたのだが。
「兵太夫。恋なら私に聞けば一発」
「一発ですか?」
「そー、一発」
前言撤回だ。やっぱりその綺麗な顔で何人か騙しこんだりは出来そうだ。
近くに行けば行くほど、先輩の綺麗な顔は顕著で、
泥が少々彼の魅力を落とさせているが、そこがいいっていう奇特な人もいるだろう。
「じゃぁ、どういうのですか?」
「あー甘い?」
「甘い?」
頭を傾ける。
「食べれば元気になれる。私は食べたいし望むなら食べられてもいい」
え?どういう。と細かく聞こうとすれば、「だからSE・・」と言う所で浦風先輩に口を塞がれていた。
「あ、あんたは、後輩になんてことを!!」
「いつか知るんだからいいじゃない」
「だからって、しかも食べるとか食べないとか・・・もしかして相手は」
「うん、男。しかも先輩。あ、ダメだよ。藤内。あげれないから。あれは私の」
「いりません!!」
と、ヒソヒソよく分からないことを言っていたので、そのまま作法室を後にしたら、
目の前にけばけばしい人。げっ、後ろを向こうとする前に、
彼に捕まった。
「こんばんわ。今日も綺麗で可憐で美しい私・滝夜叉丸の自慢話を聞かせて欲しいと!!
ふふふ、美しいとは罪だな。1年までにも私の素晴らしさが分かってしまうとは、
実はここにあるリン子がな」
と、くるくると戦輪を回す男にうんざりしながらも、手は離してくれなさそうだし、
ぺらぺらぺら。よく口噛まないなと思う前に、ピーンと閃いた僕は、乗っかることにした。
「そうですね。さすが滝夜叉丸先輩。そんな先輩に知らないものなどないのでしょう?」
「ああ、もちろん。私に知らないものなどない」
「だったら、教えていただけませんでしょうか?」
「なんだ?」
「恋ってなんですか?」
「こ、恋」
「はい」
と良い子の返事を仕返すと、滝夜叉丸は、目を見開いて止まった。
戦輪は指からすっぱ抜けてどこかへ行ってしまっている。
「別に、撫でてくれる手がとても優しいとか、笑顔がいいとか、
く、唇が柔らかいだとか、甘いだとか・・・そんなそんな」
わぁーと顔を真っ赤にゆでだこになってやや半泣きで走り去っていった。
なんなんだろう。さっきから。4年に聞いても3年に聞いても答えは曖昧。
共通点は「甘い」
甘いってなに?お菓子みたいなこと?それとも何かの隠語?
ぐるぐる回って糸が絡まったから、そういう時は先生だ。
「と、いうわけです」
「いくら私が言葉に強くとも、何も分からんぞ。兵太夫」
「これです」
ドンと出した僕の宝物の、一文。その文をみてぴくりと止まる。
「これは」
「おやおや、こんにちわ。土井先生」
「・・・・・・篠神先生。どういうつもりですか?」
「どういうとは?私はただ同僚に挨拶しただけですけれど、何か?」
「あなたは」
「ああ、そういえば、くん見てません?私との愛の時間が」
「っ、あんたは教育者として生徒をそういう対象とみて恥ずかしくないんですか!!」
「嫌ですね。先生。貴方だって同類でしょう?ああ、でも恥ずかしいんじゃぁ、
私のほうが愛が深いですね。私は堂々と言えますもの。
くーん。愛してますよ!!ってチョークを投げないでくれますか?」
「うるさい。その口塞いでくれる!!」
「あははは。自分が言えないからって私に当たらないでください。
それに私の口を塞ぐのは甘いものって決まってますから」
「待ってぇーこのやろー!!」
ポーンと返ってきたのは一冊の本だけで、
初めて見た優しいそうだけどどこか怖い先生に初めて会ったということよりも
やっぱり出てきた「甘い」という文字に頭を捻る。
頼みの綱だった、土井先生は篠神先生という人を追いかけて帰ってきそうにない。
ため息がはーと出てくれば、一人の見知った人物。
「ほにゃ、どうしたの?兵太夫?」
「あ、喜三太」
「なんか、元気なさそうだねー。あ、そうだ。今先輩からお菓子貰ったから、
一個、兵太夫にもあげるねー」
はいっと渡されたお菓子は見たこともないものだけど、黄色くてふわふわしていて
上としただけ茶色。甘いにおいに誘われ一口食べれば。
「美味しい」
「うん、先輩も言ってたよ。美味しいもの食べれば幸せになれるって」
にこにこといつも以上に笑顔な喜三太に僕は聞いた。
「喜三太は先輩が好きなんだね」
「うん。大好き。かっこよくて優しくてそんで甘い人だよ!!」
「甘い・・・人?」
「そう。甘い人。なんていうかいつもあまーい匂いしてるよ」
「喜三太!!僕に先輩をあわせてくれないか」
なんて意気込んだものの、はぁーとため息が出てくる。
喜三太に連れられて紹介された人は、一言で言えば平凡。
甘いから綺麗な人でもしかしたらみんなその人に恋してるだなんて勘違いをしていた。
からまった糸が解けそうだっただけに絶望感が酷い。
気分をそがれて、喜三太と遊んでいる先輩にどうしたと聞かれても
いいえ、なんでもとぶっきらぼうに返した。しかし、先輩は怒ることなく
そうかと笑顔で言うものだから、優しくいうものだから、
八つ当たりだとちゃんと分かっている僕は素直に謝った。
そして事情を話せば。
先輩はどこか人よりゆっくりした雰囲気で言うのだ。
「恋は、誰に言われなくてもそのうち、ちゃんと分かるんだから。焦んなくても大丈夫」
と、手には柏餅をのせられ、ほわほわとした夢のような時間は
そろそろ奴が来るからといなくなった先輩の背中を消えるまで見ていて、
後ろからの声で解けた。
「あ、見つけた」
「え」
「こんちゃす。俺、5年は組の藤野だ。なーその本。実はとある人の本なんだがな。
返してくんねぇか?もちろんただとは言わない。続刊やるから、
それ原本で処分すべきところ処分できてないんだよ」
「い、嫌です」
「お前も奇天烈だな。そんな他人のノロケみて、何がいいんだ?」
「のろけ?」
「おう、あー良かった。良かった。18禁のところはちゃんと糊付けされてるや。
坊主。こういうのはもうちっと大人になってから、見た方がいいぜ?」
さっと、引き裂かれた糊付けされた部分を切られた本を返され、
続刊もおまけとばかりについてくる。
「からくりは恋だって、意味あなたには分かるんですか?」
「お?俺から情報とんの?高いよ?でも、まーこちらの不手際だし、
今回はタダってことで教えてやるよ」
にっと笑う顔がどこか挑戦的だ。だけど、僕の勘が告げている。
彼に聞けば分かると言うことを。僕の勘。いいやは組の勘をなめちゃいけない。
コレのおかげで、実践が多いあの組の中で生きてこれたのだから。
目を逸らさずいれば、常等と目が弱められる。
「つまりな」
ごくりと喉が鳴る。
「逆だ。恋をしたから、からくり」
「は?」
「まっ、お前は属性似てそうだしそのうち分かるさ」
はははと笑う青紫の後姿。知りたかったことは完全にはぐらかされて、
苛立ちだけが募った。
なーんてことがあったのは遠い昔、じゃなくてつい最近。
初めは、柏餅をきり丸に渡したとき、
まったく関係のない人物が一本一本繋がっていったとき、
「甘い」がたった一人に結ばれていたか分かったとき。
その言葉の意味が分かった。
押して駄目なら引いてみろじゃ、とられちゃう。
周りくどくても駄目、直接でも駄目。だったらどうする?
からくりで隙を狙って既成事実をつくるくらいしなきゃ。あいては落ちないってこと。
あの人を、「甘い」人を落とすには。
みんなが惚れたから好きなんじゃない。
僕はお子様。甘いものに弱いんだよ。
さぁ、からくりの準備はOK。あとはあなたが引っかかって僕が美味しく頂こう。
2009・11・28
【リク6段。兵太夫。これは難産。てかエロ方面しかいかない。
なんだ、作法委員会の中で一番真っ直ぐなエロな気がしてたまらないのは私だけだろうか?
ちなみに、宝物の本の作者は篠神先生です。土井先生は18禁が透けて見えたので、
大体分かって怒りました。こんな感じです。お気に召したなら嬉しいです】