私の世界は、黒い色をした土と穴の中のまあるい空。
はっきりと分かれている暗明。
だから、私にとって人への感情は好きとその他。
好き、滝に三木にタカ丸さんに作法委員会に小春さん。
その他は興味なし。
それなのに、ある日空の上に一つの影。
その存在をなんて言っていいのか分からず、結局。
彼女は嫌いという部類に入るということで落ち着いた。
嫌いだと言って、ごめんと謝ったとき凄くイライラしたのだから、
は私にとってムカツク存在であり嫌いな存在だ。
嫌いは初めて出来た存在なので、私は の傍にいる。
だから休みの日に、彼女を落とす穴を掘る。
それが終われば、寛いでいる彼女のお菓子を横取りする。
なぜだか、彼女の食べているものはみな美味しく見える。
朝も、夜も、横取り。昼は、実習で合わせなければ会わない。
そのことが物足りなくて、無理やり合わせて食べたときは、三木と滝にしこたま怒られた。
「朝から可哀想だったのに、昼まで食べるとは!!」
横から施しを受けている彼女にムカついて食べようとしたけれど、
今度は4年ろ組の連中に押さえ込まれた。
「綾部、いくら嫌いでもやりすぎだ。あれでも女だし、倒れちまうよ」
何、それ。私が嫌いだというぶんはいいけど、他の人に言われるのはムカツク。
思い出して、穴の深さは深くなった。落ちるさまを想像して、ちょっと浮上。
さてと、さっさとお菓子でも強奪しよう。
と、がらりと開ければ、目的の人物はいない。
簡素な部屋には、ずらっと箱だけが積まれている。
つまんない。机の上におかれた煎餅をほうばる。意外と上手い。
つまんない。ごろりごろりと寝転んでみる。畳の匂いと彼女の匂いが少しして、
イラっとしたから起きあがって部屋に帰る。
すると、立花先輩に会った。先輩は至極楽しそうな顔をして、
私を見つけるとがっと腕を掴んで、
さぁ、行こうと女装をした先輩は私の服を裏返し普通の服にさせると、
そのままどこかへ連れて行かれた。
手には穴を掘っていたから鋤を持っていて、泥も髪についている。
結構格好に気を使う立花先輩なのに、よっぽど慌てているのだろう。
ようやく目的地についてから先輩は私の格好を直した。
「何をそんなに慌てて」
「あれを見ろ、喜八郎。面白い余興が見れるぞ」
そこには、 。化粧をして服も綺麗にして笑っていた。
誰か分からない男に愛しそうに笑っていた。
ずんと暗くなる世界と共に重くなる重力。
私は、彼女の笑顔が嫌いだった。
三木へ向けるあどけない笑顔も、
小春さんへ向ける微笑みも誰かに向けるから笑いも、
私に向ける苦笑もすべて嫌いだった。が、それを超えるほどの嫌悪感。
今すぐ殴りに行きたい。
はいつもみたいなボサボサでダルダルでぐちゃぐちゃであればいい。
横で何か言っている先輩の声は、
彼女がその男を殴って泣いている姿で聞こえなくなった。
私は の泣き顔はまだましだと思えた。
しかし、穴にいくら落としても誰かに嫌われてもなんでもない顔をしているのに、
私には見せないのにそいつに見せるのが癪で今度こそ殴りに行った。
見つけたならば泣いている。殴ろうとした手元は狂って、相手を殴りつけてしまった。
「失敗」
次から次へと出てくるゴミ。最悪それもすべて のせいだ。
睨んでやろうと思えば、白と藍の色の服と、鮮やかな浅黄色の帯が宙を舞った。
・・・・・・露出狂?
何、体見られたいの?貧相な体を見せびらかすの?
周りには男だらけ、そういう趣味もいただけない。見たくない、最悪。
それなの私はどうして のほうへ顔を向けたままなのか。
・・・・・・。
おやまあ。下には私と同じ忍服の色。
着ていたのか。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・なんか、ムカツク。
その怒りを周りの奴らにぶつけたときには全て終わっていて、
「いやー助かった。助かった。任務失敗になるとこだったよー
ありがとう。綾部くん」
と笑ったので、殴ることは止めて髪をぐしゃぐしゃにしてやった。
あーとどうでもよさそうに彼女は、
「じゃ気がすんだところで帰ろうか。なにか驕るけど何がいい?」
と言うから、
「あそこの餡蜜5個」
「・・・・・・散財だわぁ。まぁ、いいか潮江先輩に請求しとこう」
「と、新しい鋤」
「え、それは用具委員に盗んだら?それも盗んだものだよね」
「と、いますぐ部屋の前に行って穴に落ちて」
「あ、あれ、やっぱ綾部くんか寝惚けていると落ちることがあるよ」
「それと」
「・・・・・・もう、いいです。それにしても本当に綾部くんは私のこと嫌いだよね」
どんだけ小さな嫌がらせも塵に積もれば山だよと言う。
に言われる嫌いは、イヤじゃなくて許せるから、
これぐらいで許してあげる。
ドンと抱きつけば、ドンと吹き飛んで、服も髪も化粧もぐちゃぐちゃになった。
それが貴方にはお似合い。
おまけ
作法委員にて。
此の頃の立花先輩は私を見て挙動不審だ。
2人になってようやく意を決したように口を開いた。
「・・・・・・喜八郎」
「なんです」
「そんな。お前は、信じがたいことだが、その・・・」
言いかけて頭を抱えたなんなんだろう。
「その・・・が好きなのか?」
「嫌いです」
ほっと息をついた先輩にちょっとイラつきながらも、饅頭をくれたから、
もういいや。
2009・11・15
【第4段・8話の綾部視点。甘いのか辛いのかしょっぱいのか
よく分からない綾部。このシリーズの綾部はこんな感じ。
ちょっと曲がっちゃった感が・・・・・・よし、綾部可愛い。それでいい!!
月様が喜んでくだされば幸いです。】