「不思議なんだよ。僕は」
「んー」
今、神レシピ『月間作れるもんなら作ってみろ(笑)』を熱中して読んでいる。
この本の作者は、とても舌が特殊な方で、そして妄想が有り余る方で。
『夢の中で食ったこれベスト10位作れたら俺のもとの送って来い。
同じかどうか審査してやる』とのコーナーがあり。
かなり上目線だが、料理をとくにお菓子作り界では神と崇め奉られるほどで、
結構本が出ている割にはなかなか手に入りにくい事で、どれだけの信者が多いか分かる。
一回食べればそれ以上のものを。
夢の中というのに、そこで食べた上手いものを
まさかここまで表現できるかという細かいレシピ。
作ってみれば、不思議な未経験の味が楽しめる。
彼のおかげで新たな世界が開けたと言っても過言ではないだろう。
そして、密かな人気なのが、編集者の最後のページの『今日の彼(笑)』だ。
題名に(笑)をつけたのがその人なのだろうというのはありありと分かるが、
編集者の彼の観察日記はまた面白い。
『彼は一週間で26回、プリンを落とした。そのたびに赤くなり、
「ち、違う!俺の口がプリンを入ることを拒んだんだ。きっとまずいに違いない」と言っていた。
相変わらずのツンだ。
そしてそのまま私の口の中にいれて「味覚音痴ならば大層相性がよさそうだぜ!!」
と顔を赤くしたまま、きっと私が爆笑したのがいけなかったか、ちょっと涙目だ。
「口移しだな」と言えば、もっと顔を真っ赤にした。(笑)』
など、なんとも彼が微笑ましすぎて、うん。こんな神がかった人でも人の子。というか
編集者にとってはタダのわがままで可愛い子らしい。
微笑ましい。など考えていた俺は、後ろでタカ丸さんのぶつくさ言っていることも、
髪がどうなっているかなんて見えてもいなかった。
【髪の毛から伝わる感情】
近くに住んでた くん。
会わないように会わないように何年もしてやっと忘れられたのに、彼は今僕の目の前にいる。
彼と出会ってしまったときの僕の心境は、とても複雑なもので。
嬉しいのか悔しいのか悲しいのか嫌だったのか今でもよく分からない。
目の前に広がる彼の髪、色は黒。短くも長くもない長さ。
髪質柔らかくなく硬くもない。普通。
「ねぇーくん。
僕今日、久々知くんの髪に触って、次に滝くんその後に立花くんで大満足。
それなのに、どうして最後の最後で君のとこ来ると思う?」
くるりんとパーマにする。変。
「君の髪ってさーほんっと普通なのに」
次に、ちょんまげ。変。
何種類もの髪型にしても、僕の考え付くあらゆるものにしても。
目に浮かぶのは、いつもの彼の髪型。
はぁーやんなっちゃう。
ぽいっと商売がら捨ててはいけない鋏と櫛を捨てる。
「ねぇーくん。なんで僕が来る理由とか考えたことある?」
ぎゅーと抱きついてみた。さらりと髪が前に流れて、うなじが目に入る。
色っぽいって女の子だけに使う言葉だってずっと思ってたのに。
なのに。
「ねぇーくん。くんのその色気は犯罪です。
なんで、ここでもそんなに男落としてるの?いつもいつも。本当最悪です」
知らないのも気づかないのも罪。
ちょっと僕の家の前から見えるたびに、感情はぶり返して、大変だったんだよ。
しかも横に誰かいてその誰かが頬を染めているのを見れば僕の手は止まってしまう。
「ねぇー聞いてる?」
うなじにチューって吸って僕の印残して皆に僕のものって言いたいけれど。
それをして、実はノーマルな君に嫌われるのが怖くて仕方がない。
僕が出来るのはちょっと嫉妬させてやろうとか、ちょっと構って欲しいとか。
初恋がすんで童貞でもなくて女と男の修羅場もいくつか経験している僕が、
彼の前では子供の恋のようになる。
ぎゅーと抱きしめるのを一瞬強くしたけれど。彼の肉体はこの学園にいるだけ
強靭でびくともしない。いや、僕が弱いってのもあるかもだけど。
彼の下ろした髪をさらりと触って、口付けを落とす。
全部、髪から伝わればいい。
僕の苦しさとか僕の切なさとか僕の・・・僕の全ての感情が。
そうすれば、君は少しでも僕の事を思ってくれるだろうか?
なんて、しょっぱい気持ち。
だったのに。急にビクンとくんが動いた。
「おお!」
と歓声をあげ僕に抱きつく。顔には笑顔と涙。
え、え?何これ?夢?そして、柔らかい感触が僕のおでこに感じて、
まさかチューされた?なんて思考が追いつけば。
・・・・・・完敗だ。そのままノックダウン。
「見てください。タカ丸さん。俺の出したお菓子のってます。
うわー、弟子にしてやってもいい。ってちょっと、俺涙でそう。あ、出てる。
って、タカ丸さん?!え、なんでそんな真っ赤になって倒れて、えー
俺の喜びをここまで感じてくれるなんて、・・・さすがタカ丸兄さんだ。大好き!!」
僕は完全に寝てしまって重大な言葉を聞き逃した気がする。
おしかったような。いいや、聞いてしまったら、もう止まらないような。
そんな感情。
2009・11・9
【リク第2段。タカ丸さんは結構昔に遊んでもらったお兄さん的なポジ。
最初はそうだったけど、あれ?あれ?てきなタカ丸。
それからいろいろあって会わないようにしてたけど会ちゃったな的な本編もあります。
まだ、でないが。ちょいネタバレ。ちなみに、
裏設定「月間作れるもんなら作ってみろ(笑)」はお菓子の世界で有名ですが、
あっちの男と男の世界でも有名。後ろの文がどうみてもそれだから。
なので、本気で弟子に行こうとする主人公を必死には組あたりが止めとけばいいよ
・・・完全暴れてしまった作品ですが。いかがでしょうか?】